「清酒」と本みりん、棚の名前の来歴
スーパーの棚で、みりん、みりん風、料理酒、清酒と並んでいるのを見ると、似たようなものが少しずつ違う名前で置かれていることに、ふと戸惑うことがあります。どれも台所にあるものなのに、呼び名だけが先に歩いているようで、少し不思議なんですよね。

私はこういうとき、まず名前のほうを眺めたくなります。味の前に、呼び名にはたいてい、その時代の事情が挟まっているからです。

たとえば本みりん。いまでは甘い調味料として受け取られることが多いのですが、もともとは甘口の酒として親しまれてきたものだそうです。江戸時代には砂糖の代わりになる甘みとして重宝され、しかも約14%のアルコールを持つ、れっきとした飲む酒でもあった。そう聞くと、みりんの見え方が少し変わりませんか。
ただ甘さを足すもの、というより、酒でありながら甘みをたたえた存在だった。だから「本みりん」という名前には、調味料の棚に収まりきらない来歴が残っているように思うのです。

もうひとつ、静かに面白いのが「清酒」と「日本酒」の境目です。ふだんは同じもののように口にしがちな二つですが、実は同義ではなくなっています。清酒は酒税法上の呼び名で、米・米こうじ・水を原料に発酵させ、こした酒のこと。一方で日本酒という表示は、2015年12月25日のGI指定以降、国内産米を使い、日本国内で造られたものに限られるようになりました。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、清酒は法律の言葉、日本酒は土地の条件まで背負う言葉、ということなんです。ラベルの数文字に、原料や造られた場所への約束が折り込まれていると思うと、棚の見え方がまた少しだけ深くなります。
こういう知識は、何かを厳密に言い当てるためというより、日々の買い物の景色に小さな奥行きをつくってくれるものかもしれません。ただ「みりん」と見るのではなく、それが昔は酒でもあったことを思い出す。ただ「清酒」と見るのではなく、その隣にある「日本酒」という言葉の条件を思い浮かべる。名前を一度ていねいに読むだけで、棚はずいぶん饒舌になります。
次に売り場で迷ったら、成分表まで頑張って読み込まなくても、まずはラベルの名前を見てみてください。本みりんなのか、清酒なのか、日本酒なのか。その呼び名の違いだけでも、品物の背後にある物語が、ほんの少し立ち上がってきます。
このあたりは動画でももう少し詳しく話しているので、気になったら本編ものぞいてみてください。
——棚の名前にも、小さな来歴が眠っているんですって。
── 担当・栞(しおり)
