エッセイ『小さな物語』 高橋透水
小さな物語――歴史は繰り返すのか
フランスの哲学者ジャン=フランソワ・リオタールの論に従えば、二十世紀の末に「大きな物語」が終ったという。「大きな物語」とは彼の著書『ポスト・モダンの条件』のなかで、近代とは、キリスト教の物語、無知や隷属からの解放という啓蒙の物語、労働の解放というマルクス主義の物語、産業の発展による貧困からの解放といいう資本主義の物語である。
それが終焉した結果、現今はその反動か小さな物語が蔓延している。それは政治社会だけでなく文化スポーツなどあらゆる面にみられる。この現象は決して避難されるべきことでないが生き方が個々人に問われることになる。
懸念すべきはこの小さな物語の反動である。とかく強い国家を望み、強いリーダに従おうとする。こうした志向は個々人があれこれ自分の生き方に悩み社会に失望するより社会に順ずるほうが楽だと考えるからだろう。振り子の原理が働いているとか「歴史は繰り返す」などというつもりはない。まして過ちは繰り返すなどと諦念してはいけない。
悪政は歴史に残る。悪党は語り継がれる。独裁者はとかく英雄視される。
時代が変われば惨酷さも美化され、右も左も真ん中にくれば、歴史は書き換えられてしまう。
