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ラジオ体操 今昔物語

通勤というものがなくなって、めっきり歩かなくなった。スマホのヘルスケアアプリには歩数計があって、頼みもしないのに1日の歩数をカウントしている。
先週の土曜日────71歩。
いやいや、そんなわけはない。
これではまるで風邪でも引いて寝込み、トイレへ歩いただけの歩数ではないか。
もちろん、スマホを持たなければカウントできないのでこういう日もある。
しかし外に出る機会が減っているということをまざまざと見せられた気にもなってしまう。

ある昼下がり。たまたまつけていたNHKテレビで突如「ラジオ体操第一」が始まった。

よし、せめて、ラジオ体操をしよう。

ラジオ体操───そう聞くだけで私にはさまざまなストーリーが思い起こされる。

まずは子供時代。

夏休みが始まると、町内会の子どもが総出で近所のてきとうな広場に集まり、NHKラジオの生放送に合わせてラジオ体操が行われた。
昭和50年代くらいの私の地元は、夏休みの始まりから終わりまで1日も欠かさず行われていたように思う。
夏休みに入るとさっそく、町内会のおじいさんが手描きしガリ版印刷した味のある出席カードが渡され、それを首から下げて眠い目をこすりこすり参加したものだ。
どの子もあたまは寝ぐせで跳ねちらかしていたし、パジャマのままの子や、小さい弟妹まで引き連れて来ることもあった。当時は子供が多くおそらく50~60人はいただろう、毎朝なかなかの賑わいだった。強制ではないのだが参加しないという選択肢も持っていなかった。

そして、何はともあれ皆あの歌が終わるまえに整列しなければならない。
体操といっても、あの歌がはじまりの合図なのだ。そう、
「あーたーらしーい、あーさがきたっ♪」
の、あの歌だ。
当時の小学生は真面目で、並び終えるとみなキチンと声を張って直立不動で歌っていたものだ。
体操の途中、イチ!ニッ!サン!シ!と声出してやるところも、みな大声を張り合っていたし、ラジオからの「うしろそりーー!」の号令は仰向けにどこまでも反っていける気がして真剣にやっていたのを思い出す。

体操が終わるとすばやく列を作る。班長の6年生によって、出席カードに「出」のハンコがもらえるのだ。
目指すは皆勤だ。
だからといって特別に何かもらえたりはしないのだが、「出」がコンプしたカードは自分への表彰状ともいえるような誇らしいものだった。
一方で「皆勤」ということは、夏休みに一度もお泊りなどのお出かけをしなかったということの裏返しでもある。
うちなんかほとんどそのクチだったが、それを侘しいと思うどころか、何かの都合でラジオ体操をお休みしてしまう子を、かえって「かわいそうに」ぐらいに思っていた。
そのくらい高い地位に私のラジオ体操はいたのである。夏休みの浮き立った気分のおかげでラジオ体操もよき思い出になっているのにちがいない。

そして時は変わって、高校時代。

私の高校は馬鹿がつくほど体育を強化する学校だった。
私のころはまだ開校して間がない新設校だったため、普通校にもかかわらず、あろうことか体育の成績で県内に存在感をアピールしようと目論んでいたのである。
したがって、すべての学校行事はニコリともしない体育教師陣が牛耳り、毎年のスポーツテストでは県内1位を獲り続けることを目標とした。
ゆえに、個々人の成績はつねに前年度を上回らなければならない。
それが果たせるまで放課後に残って果てしなく種目のやり直しをさせられる。
高校生女子と言えばだんだん体力も落ちてくるころだ。
だからじつに過酷だった。
また文化部であっても、運動しないことは決して許されない。放課後は1日おきにマラソンコースを走らされたのである。

そんな高校の体育の授業で、このラジオ体操第一と第二を完璧に行うテストがあった。とりあえず間違わなければいいのではない。かかとの上げ下げや、手の先にも神経をとがらせ、開脚の大きさや顔を向ける角度にいたるまで、体育教師が睨みを効かせて合否の判定を下すのだ。
今思うと、あれはもう体育というより軍事訓練みたいで滑稽でしかない。
そんなわけで、私の高校時代は強靭な体力づくりとともに、ラジオ体操を完璧にできるまでに鍛えあげられたのだ。

公園には夏の花が咲き始める

さて、最近の我が地域の子どもたちのラジオ体操は、夏休みの初めの10日間ほどに限定されているようだ。
町内の役員ともなるとラジオと蚊取り線香をもって公園で子供たちの見守りに立ち会う。少子化のせいか、集まるのは大人の人数の方が多い。体操が終わると子供たちは毎回ジュースやお菓子をもらい、最後の日に参加すれば図書カードが贈られるのだ。いい時代というべきなのだろうか。

ところでここに至って思いもよらず、あの高校時代の特訓が役に立つ。私はだれかの手本がなくても完璧な体操ができるのだ。しかしやたらと張り切って見られるのも恥ずかしいので、いつもはじっこの方に行ってこっそり本気を出すことにしている。

7月に入れば、夏休みまであっという間だ。
またラジオ体操の朝がやってくる。
今年は私も久々に体操に参加して日頃の運動不足を解消しようかしら。

とりあえずテレビに合わせてブンブンと身体を動かしてみる。
すると動きに合わせて、パキ!パキ!パキ!と全てのふしぶしがいちいち音を立てるではないか!
凝り固まった身体がビックリして声を上げているみたいだ。
ラジオ体操歴50年。
とうとう私は、ラジオ体操のリズムに合わせて自分の身体が音頭を取るよう進化してしまったようである。

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