短編小説「逐条のむこう側」
「ガールズバーを開業したいんです」
その瞬間、田中は静かに逐条解説を開いた。
「ではまず、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 第3条第1項。“風俗営業を営もうとする者は、公安委員会の許可を受けなければならない”」
「はい……」
「次に第4条第1項。欠格事由です。“破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者”」
「破産してません!」
「“一 心身の故障により風俗営業の業務を適正に実施することができない者として国家公安委員会規則で定めるもの”」
「元気です!」
佐藤が笑う。
「いいですね。“該当しなければ許可しなければならない”という羈束構造。
こちらは、出入国管理及び難民認定法 第7条第1項第2号。“申請に係る活動が虚偽のものでなく、かつ在留資格に該当する活動を行うに足りる相当の理由があると認めるとき”」
山本が固まる。
「相当の理由……?」
「ええ、“と認めるとき”です」
「誰が!?」
「法務大臣です」
「大臣が!?」
「正確には入国審査官ですが、法的には法務大臣の裁量です」
田中がすかさず差し込む。
「風営法は違います。第5条第1項。“公安委員会は、第4条第1項各号のいずれにも該当しないときは、許可をしなければならない”」
「しなければならない!」
「ただし構造設備が適合している必要があります」
「急に現実!」
「“営業所の内部の見通しを妨げる設備を設けないこと”(施行規則)」
佐藤がページをめくる。
「こちらは、“別表第一の二”。技術・人文知識・国際業務。“本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野……”」
「長い!」
「なお、第7条第1項柱書。“上陸の申請を行った外国人について、次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、上陸を許可してはならない”」
「じゃあ適合してたら許可では?」
「“と認めるとき”です」
「またそれ!?」
田中がメジャーを取り出す。
「客室面積、5㎡以上」
「測れる!」
「照度、5ルクス以上」
「測れる!!」
佐藤が静かに微笑む。
「事業の安定性」
「測れない!!」
「継続性」
「測れない!!」
「収益予測の合理性」
「気持ちは合理的です!」
「主観です」
沈黙。
山本は最後の望みをかけた。
「ちなみに、全部満たしたら?」
田中:
「“第5条第1項”。許可をしなければならない」
佐藤:
「“第7条第1項第2号”。相当の理由があると認めるとき」
山本:
「だから誰が認めるんですか!?」
佐藤:
「総合的にです」
その日、山本は逐条六法を購入した。
翌日、“別表第一の二”で心が折れた。
