レコード男子|キャノンボール・アダレイ|『Somethin’ Else』|この黒は、入口ではなく、もう看板だと思う
キャノンボール・アダレイ『Somethin’ Else』。
マイルスの名前にも目が行くけれど、今回は、キャノンボールの流れの中で聴きたい。
黒いジャケットの硬派な見た目とは少し違って、中身は意外なほどしなやかで、よく歌う。今日はそんな一枚を手に取ってみたい。
* * *
おはようございます。
レコード男子リョータです。
今日の一枚は、キャノンボール・アダレイ『Somethin’ Else』。
まず、ジャケットが強いです。
黒地。
大きな “ELSE”。
その下に並ぶ名前。
キャノンボール・アダレイ、マイルス・デイヴィス、ハンク・ジョーンズ、サム・ジョーンズ、アート・ブレイキー。
ただ文字が置かれているだけなのに、もう十分にかっこいい。
ブルーノートの文字ジャケットの強さが、そのまま出ている一枚だと思います。
今回、この盤を手にしたのは、もちろんマイルスの名前にも引っ張られたのだけど、
でも、そこでマイルスへ枝分かれせず、キャノンボールの流れで少し続けるつもりで聴きたいと思いました。
この棚の歩き方としては、そのほうが自然だからです。
キャノンボール・アダレイは、音が前へ出てくる人だと思います。
しかも、ただ勢いで出てくるのではない。
熱があり、明るさがあり、歌心がある。
そのうえで、耳に入った瞬間に「これはキャノンボールだ」と分かるような押し出しもある。
その魅力が、この盤ではとてもよく見える気がします。
『Somethin’ Else』は、よく知られているように、キャノンボール名義でありながら、マイルス・デイヴィスの存在感がかなり大きい作品です。
一曲目の『枯葉(Autumn Leaves)』のテーマからマイルスの音が夜の景色を携えてこちらの聴覚を刺激してくる。
実際、裏ジャケットを見ても、参加メンバーの並びがすでに豪華です。
マイルス・デイヴィス、キャノンボール・アダレイ、ハンク・ジョーンズ、サム・ジョーンズ、アート・ブレイキー。
これだけで、もう一種の完成形のようにも見える。
でも、それでもやはり、このアルバムをキャノンボールの盤として受け取りたい。
なぜなら、ここで聴こえるアルトサックスの伸びやかさ、前向きな推進力、そして人を引き込む明るさは、やはりキャノンボールならではのものだからです。
この盤のすごさは、いわゆる“名盤の重さ”だけではないと思います。
むしろ聴いていて感じるのは、音楽がとても自然に流れていくことです。
うまい人たちが集まって、技巧を誇示するのではなく、最初からずっと音楽になっている。
呼吸がそろっていて、構えなくても聴ける。
それでいて、薄くはない。
そこがすごい。
マイルスのトランペットはもちろん印象的です。
輪郭があり、間の取り方がうまく、場の空気をひとつ変える力がある。
でも今回は、そこに引っ張られすぎず、あくまでキャノンボールのアルトがどうこの場で鳴っているかを見ていたい。
マイルスがいることで、キャノンボールがぼやけるのではなく、むしろキャノンボールの明るさや歌い方が、よりはっきり見えてくるところがあると思います。
つまりこの盤は、マイルス参加作であると同時に、キャノンボールの魅力がくっきり浮かぶ盤でもある。
そこが面白いです。
裏ジャケットの曲目を見ると、
「Autumn Leaves」
「Love for Sale」
「Somethin’ Else」
「One for Daddy-O」
「Dancing in the Dark」
と並んでいる。
この並びだけでも、スタンダードとオリジナルのバランスがよく、盤としてのまとまりを感じます。
こういうアルバムを聴いていると、ジャズは時々“難しい音楽”ではなく、うまい人たちが自然に会話している音楽に見えてきます。
それぞれが自分の声を持ちながら、ちゃんと全体の流れの中で動いている。
前回までのアート・ペッパーやハンク・モブレーの流れと比べても、この盤にはまた違う種類の“自然さ”があります。
もっと王道で、もっと滑らかで、でも決して平板ではない。
アート・ブレイキーのドラムも、ここでは強く叩きつけるというより、盤全体をしっかり押し出している感じがします。
そしてハンク・ジョーンズ、サム・ジョーンズの支えも、とてもいい。
だからこそ、キャノンボールのアルトが無理なく空間に立ち上がる。
土台が強いから、歌える。
そんな印象があります。
この盤の黒いジャケットを見ていると、少し不思議です。
見た目はかなり硬派。
でも中身は、意外なほどしなやかで、よく歌う。
重厚な看板を掲げながら、音の流れはとても柔らかい。
そのギャップがいい。
今回、マイルスへ展開しないでおこうと思ったのも、この盤を“マイルス参加の有名盤”としてだけ処理したくなかったからかもしれません。
もちろんそれは事実の一部です。
でも、それだけでは少しもったいない。
キャノンボールのアルトが、このメンバーの中でどう伸びているのか。
そのことをちゃんと聴くと、この盤はもっと立体的になります。
ジャズの棚を歩いていると、時々こういう盤に出会います。
名前の強さで語られすぎて、本当の聴きどころが一方向に固定されてしまう盤。
『Somethin’ Else』は、たぶんそのひとつです。
でも、少し見る角度を変えるだけで、別の顔が見えてくる。
今回は、その別の顔として、キャノンボールを中心に置いてみたい。
黒い看板のようなジャケット。
その中で、アルトサックスがしなやかに歌う。
この対比が、とても美しいです。
今日は、キャノンボール・アダレイ『Somethin’ Else』。
入口ではなく、もう最初から看板のように立っている一枚。
それでも、改めてキャノンボールの流れの中で聴くと、新しく見えてくるものがある。
そんな盤として、レコード男子の棚に置いておきたいと思います。
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