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レコード男子|ジョン・コルトレーン|『Coltrane』|青は静かではなく、深く潜るための色だった

ビレバン・ヴァイナルの戦利品、その1は、ジョン・コルトレーンの 『Coltrane』 である。

まず、ジャケットが強い。

青い。

ただ青いのではなく、少し冷たく、少し霞んでいて、それでいて顔だけはぐっと近い。

真正面からこちらを見ているようにも見えるし、こちらではないどこか遠い場所へ意識が向いているようにも見える。

派手なデザインではない。

でも、この青はよく残る。

静かな色というより、音が深く潜っていくときの色に近い。

コルトレーンのレコードには、見た瞬間に空気を変えるジャケットがいくつかあるけれど、この一枚もその系統だと思う。

大げさに構えていないのに、棚から抜くと急に場が引き締まる。

そういう種類の強さがある。

裏面を見ると、クレジットも美しい。

John Coltrane

McCoy Tyner

Jimmy Garrison

Elvin Jones

この並びだけで、もう音の骨格が見える。

しかも収録は、

Out of This World

Soul Eyes

The Inch Worm

Tunji (Toon-Gee)

Miles’ Mode

という構成。

曲名を追うだけでも、一直線にわかりやすいアルバムではないことがわかる。

スタンダードと、自作曲と、少しひねりのある曲が同じ盤の中で並んでいる。

入口は開いているのに、奥はかなり深い。

裏面の解説で印象に残るのは、コルトレーンがコードの扱いに強く意識を向けていた、というくだりだった。

マイルスのもとで方向を得て、さらに自分のものとして押し進めていったこと。

いわゆる “sheets of sound” と呼ばれたスタイル。

そして、コードの内部へ入り込み、拡張し、含意を絞り出すように吹いていく姿。

それは単に難しいことをやっている、という話ではない。

コルトレーンが音の中で考えていたということだと思う。

そのことは、このアルバムの曲並びにもよく出ている。

たとえば “Out of This World”。

裏面では、この曲での長い探求が、コードを立て、その基本的な拡張を示し、さらに外へ動いていくものとして語られている。

まるで三次元のチェスを見るようだ、という表現まで出てくる。

この言い方は大げさではないのだろう。

コルトレーンの演奏は、熱いとか鋭いとかだけでは捉えきれず、考えることそのものが推進力になっている瞬間があるからだ。

でも、このアルバムは頭だけでは終わらない。

そこがいい。

“Soul Eyes” が入っている。

この曲名があるだけで、盤の温度が少し変わる。

しかも裏面の説明では、これがこのLPでいちばん“conventional”な演奏だとされながらも、マッコイ・タイナーのピアノや、エルヴィン・ジョーンズ、ジミー・ギャリソンの働きがしっかり語られている。

つまりここでは、単にバラードを置いて息抜きをしているのではない。

クァルテット全体で、コルトレーンの思考と抒情を支えているのだ。

“The Inch Worm” や “Tunji”、“Miles’ Mode” も面白い。

裏面では “The Inch Worm” はよりコンパクトで、締まったかたちの演奏として触れられているし、

“Tunji” と “Miles’ Mode” はコルトレーン作品として、それぞれ別の表情を持っていることが示されている。

つまりこの盤は、長い探求一本で押し切るのではなく、コルトレーンのいくつかの顔を一枚の中に並べて見せるアルバムでもある。

ここが、この盤の好きなところだ。

コルトレーンというと、どうしても巨大な代表作や、神話のように語られる盤の陰に隠れがちな作品がある。

でも、この 『Coltrane』 は、いわば“青い中間地点”のような顔をしている。

すでに十分にコルトレーンなのに、まだ変化の運動の中にいる。

完成ではなく、進行形。

だからこそ、聴いていておもしろい。

そこには、後年の巨大さへつながる意志もあるし、同時にクァルテットとしてのしなやかさもある。

ビレバン・ヴァイナルでこういう一枚を見つけると、うれしい。

有名盤を改めて買う喜びとは少し違う。

棚の中から、こちらの今の気分に合う青が出てきた、という感じがある。

しかもそれがコルトレーンだと、単なる“渋い一枚”で終わらない。

聴けばちゃんと、考える耳も、感じる耳も両方使わせてくる。

このジャケットの青は、静けさの色ではない。

深く潜るための色だ。

そしてこの盤のコルトレーンもまた、ただ前へ進むのではなく、音の中へ潜り、そこから別の景色を持ち帰ってくる。

ビレバン・ヴァイナル戦利品その1。

ジョン・コルトレーン 『Coltrane』。

棚に置いておくだけでも効くけれど、やはりこれは、針を落としてこそ本領が見える一枚だと思う。



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