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おじいさんにもわかる次世代アイドル|第5回|なぜ“デビュー前”を応援したくなるのか|研修生文化がファンを惹きつける理由

ここまで、
次世代アイドルの育成制度を見てきた。

研修生。
研究生。
TRAINEE。
ジュニア。
練習生。

呼び名は違っても、
その多くは、まだ“大きなデビュー”の手前にいる。

にもかかわらず、
そこにはすでにファンがいる。

ハロプロ研修生の公開実力診断テストでは、
観客や配信視聴者の投票で「ベスト・パフォーマンス賞」が決まる。
AKB48研究生には、劇場公演だけでなく、研究生を対象にしたメールサービスの入口まで用意されている。
『PRODUCE 101 JAPAN 新世界』では、視聴者の“国民投票”によってデビューメンバーが決まる。
スタープラネットアイドルアカデミーは、育成期間そのものを「夢へ向かう物語のはじまり」と位置づけている。

つまり、
現代の研修生文化は、
完成する前から応援されることを前提に設計されている。

では、なぜ人は、
まだ何者になるか分からない存在を見守りたくなるのだろう。

今回は、
その理由を考えてみたい。


1. 完成品ではなく、“変化”を見ている

大スターを見る時、
私たちはすでに磨き上げられた姿を見る。

歌はうまい。
立ち姿も決まっている。
カメラに抜かれる一瞬も計算されている。

それはもちろん魅力的だ。

けれど研修生や研究生を見る時、
見ているものは少し違う。

昨日より今日、
去年より今年、
何かが変わった瞬間

を見ている。

ハロプロ研修生の公開実力診断テストが象徴的だ。
毎年、研修生が一人で楽曲を披露し、その日のパフォーマンスを観客が見届ける。2026年の実力診断テストでも、石川華望がベストパフォーマンス賞を受賞し、歌唱賞やダンス賞などが発表された。制度の中心にあるのは、現時点の完成度だけでなく、成長がどこまで届いたかを観客と共有することである。

だからファンは、
単に“上手い人”を探しているのではない。

前より声が通った。
表情が柔らかくなった。
一曲を最後まで自分のものとして歌い切った。

そんな差分に心を動かされる。

完成品の美しさではなく、
変化が見えることの面白さ。

研修生文化の最初の魅力は、
そこにあると思う。


2. 人は、“努力が見える存在”に肩入れする

研修生や研究生は、
多くの場合、努力の途中にいる。

もちろん裏側のすべてが見えるわけではない。
だが、公開実力診断テスト、劇場公演、ショーケース、オーディション番組の評価ステージなどを通じて、
その努力の痕跡が表に出てくる。

アイドルファンの心理を扱った研究では、
ファンが対象に対して「心理的一体感」や「心理的責任感」を持つこと、
また、推し活の継続にはそうした感覚が関係することが示されている。
さらに別の研究では、ファン心理の要素として「成長過程を応援したい気持ち」や「目標への共感」が抽出されている。

これは、
研修生文化を考える時にとても腑に落ちる。

人は、
“もう勝っている人”だけでなく、
何かを目指している人にも強く惹かれる。

歌を上手くなりたい。
デビューしたい。
選抜に入りたい。
グループとして見つかりたい。

その願いが見えると、
応援する側にも、
少しだけ力が入る。

あの子の今日の一票になりたい。
あの子の客席の一人でいたい。
あの子が前へ出る瞬間を見届けたい。

こうした気持ちは、
完成されたスターを愛する感情とは少し違う。

努力の途中に、自分の応援を重ねる感覚。
研修生文化は、そこを刺激する。


3. “見つけた”という感覚が生まれる

デビュー前の存在を応援する時、
ファンにはしばしば、

自分は早い段階で、この人に出会った

という感覚が生まれる。

もちろん、
それを過度に“自分だけの発見”にしてしまうと、少し窮屈になる。
でも、
まだ世間の大半が知らない時期に魅力を感じたという記憶は、
応援の芯になりやすい。

スタープラネットアイドルアカデミーは、
まさにこの感覚を制度として言語化している。
公式サイトでは、育成期間を「夢へ向かう物語のはじまり」とし、
未来がまだ決まっていないからこそ、その瞬間すべてに価値があると説明している。

これはつまり、
“何者になるか分からない時期に出会うこと”そのものを、応援の価値として差し出しているのである。

まだ大きな名前ではない。
まだ代表曲もない。
まだ何万人の前で歌ってはいない。

それでも、
その最初の声を聞いた。
最初の自己紹介を見た。
最初の不器用なステージを覚えている。

その記憶は、
ファンにとって小さな宝箱になる。


4. ファンは観客ではなく、“参加者”になる

研修生文化の大きな特徴は、
応援が単なる鑑賞にとどまらないことだ。

ハロプロ研修生の公開実力診断テストでは、
観客の投票が賞の決定に関わる。
『PRODUCE 101 JAPAN 新世界』では、
投票そのものがデビューメンバー決定の中心に置かれている。
AKB48研究生では、劇場に足を運ぶ、メールを受け取る、日々の発信を追うといった形で、近い距離から応援に参加できる回路がある。

ここでは、
ファンはただ座って拍手する人ではない。

  • 投票する

  • 劇場へ行く

  • 配信を見る

  • 名前を覚える

  • 感想を語る

  • 応援の輪を広げる

そうした行動が、
推しの未来とどこかで接続しているように感じられる。

オーディション番組型のファンダム研究でも、
観客参加型の仕組みは、練習生との強い感情的つながりを生み、
オンライン上のファン行動を促進すると指摘されている。

この感覚は、
現代の研修生文化を理解するうえで重要だ。

応援することが、物語の外側ではなく内側に入っている。

だから、
見守る側も熱を持つ。


5. “未完成”だから、想像の余白がある

完成されたスターには、
すでに確立したイメージがある。

歌姫。
絶対的センター。
ダンスリーダー。
国民的アイドル。
世界を狙うグループの顔。

それはそれで魅力だ。

一方、研修生には、
まだ役割が確定していない。

  • この子は将来どんな声になるのだろう

  • グループに入ったら何色になるのだろう

  • センターに立つのか、支える側で輝くのか

  • ソロで伸びるのか、仲間と化学反応を起こすのか

想像する余白がある。

2022年の博士論文では、
アイドルファンが“未熟さ”や“成長していく様子”を愛でる現象が論じられている。
研修生文化を眺めていると、この指摘はかなり自然に理解できる。

未完成とは、
単に足りないことではない。

まだ決まっていないこと。
だから未来を想像できること。

それが、
研修生文化に独特の奥行きを与えている。


6. 近さと未来が、同時にある

研修生や研究生の魅力は、
近いのに、遠くまで行くかもしれないところにもある。

AKB48研究生は、
劇場という比較的近い距離の場所で見られる。
メールサービスなどを通じて、日常の言葉にも触れられる。
けれど、その中から、
将来選抜に入り、グループの顔になる存在が出てくるかもしれない。実際、2026年には20期研究生の近藤沙樹がAKB48 68thシングルで初選抜入りしている。

この構造は、
応援する側に独特の高揚感を生む。

今は目の前にいる。
でも、いつか遠くへ行くかもしれない。

この距離の変化を、
最初から見届けられる。

それは、
街角の小さなライブハウスで聴いたバンドが、
数年後に大きなフェスのメインステージに立つのを見る感覚にも少し似ている。

ただしアイドルの場合は、
そこに成長そのものへの感情移入がより強く混ざる。

近さと未来。
この二つが同時にあることが、
研修生文化の熱を支えている。


7. 応援する側も、少し変わる

研修生文化を見ていると、
変わるのは本人たちだけではない。

応援する側も変わる。

最初は、
何となく気になっただけだった。

でも、
次の発表会も見ようと思う。
名前を覚える。
成長を気にする。
別のファンの感想も読む。
一票を投じる。

そのうち、
自分の日常の中に、
その人の成長を待つ時間ができる。

アイドルファンの心理に関する研究では、
推しとの心理的一体感や、ファン同士の仲間意識が、推し活の継続性や幸福感に関わると報告されている。

つまり、
“育つ存在を応援すること”は、
ファン自身の生活にも、
小さなリズムを作る。

来月の公演まで頑張ろう。
次の配信を楽しみにしよう。
あの子が成長しているなら、自分も少し前を向こう。

もちろん、
誰もがそこまで深く入るわけではない。
けれど、
研修生文化が人を惹きつける理由の一つに、
応援が自分の時間にも意味を返してくることはありそうだ。


8. 青田買いではなく、“未確定な未来への同伴”

研修生を応援することは、
時に“青田買い”という言葉で片づけられることがある。

たしかに、
早いうちから注目し、
将来の飛躍を楽しみにする側面はある。

けれど、
それだけでは足りない。

研修生文化の中心には、

未来を当てる快感より、
未来が生まれる時間に立ち会う喜び

がある。

誰が成功するかを予想する。
どのグループが来るかを当てる。
それも楽しい。

でも、
それ以上に大きいのは、
まだ言葉になっていない魅力が、
少しずつ形になっていく過程を見守ることだ。

スタープラネットアイドルアカデミーが掲げる
「可能性そのものを応援できる場所」という表現は、
この文化の核心をかなりまっすぐ突いている。


9. おじいさんにも分かる、研修生文化の見どころ

ここまで少し考え込みすぎたかもしれないので、
最後に、
おじいさん向けの見方を簡単にまとめておく。

研修生文化を見る時は、
まずこの4つを見ればよい。

① 成長が見えるか

去年より上手くなった、
前より堂々としている。
そんな差分が見えるか。

② 応援が関われるか

投票、劇場、配信、メールなど、
ファンが物語に参加できる回路があるか。

③ 未来の余白があるか

どんなグループになるのか、
どんな役割を担うのか、
まだ決まっていないからこその想像があるか。

④ 制度自体に思想があるか

その事務所は、
育成期間をどう見せているのか。
鍛錬としてか、物語としてか、公開選抜としてか。

この4点を意識すると、
研修生や研究生が
単に“デビュー前の若い人”ではなく、
ファンの心を動かす仕組みの中にいる存在として見えてくる。


次回へ

ここまで来たら、
次はシリーズの締めに向かいたい。

次回は、

次世代アイドルを見ることは、
未来の“売れ線”を見ることではなく、
社会がどんなスターを求め始めているかを見ることではないか

というところまで進めたい。

歌が上手い。
ダンスが強い。
かわいい。
華がある。

それだけではなく、
2026年の育成制度は、

  • 物語性

  • 参加性

  • 人間性

  • 未完成さ

  • ブランド性

  • グローバル性

を少しずつ組み合わせながら、
次のスター像を作ろうとしている。

最終回は、
このシリーズ全体をまとめながら、
**“次世代アイドルは、何を映しているのか”**を考えてみたい。




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