国家より怖いのは「会社」だった...自由を奪う『暴政株式会社』の正体
自由が奪われるって、北朝鮮みたいに、国家とか政府に全てを奪われる、みたいなイメージがあると思います。
でも、実際の生活って、むしろ大企業とかビジネスに自由を奪われていることのほうが多い。
むしろそっちのほうが恐ろしかったりする。
今日紹介するソーラブ・アマーリ著『暴政株式会社:私的権力はいかにして自由を破壊したのか』は、そんなことについて書いてある本。
内容を一言で言うと、現代社会において私たちの自由を最も脅かしているのは政府ではなく、私たちが毎日多くの時間を過ごす『職場』であり、生活を支える『巨大企業』や『金融市場』であるってこと。
この本、資本主義社会に組み込まれた見えない支配構造の正体を分かりやすく解き明かし、企業がどのように私たち一般市民から自由と尊厳を奪っているのかを告発した一冊です。
すごい本なので、詳しく紹介していきます。
市場至上主義から労働者の味方に
書いた人ですが、かなり面白い人なので、まず紹介しますね。
アマーリはイランのテヘランに生まれ、幼少期には西洋映画のビデオテープを学校に持ち込んだだけで治安当局から尋問を受けるなど、本物の国家による暴政を肌で知る人物です。
13歳でアメリカへ移住した彼は、エリート街道を歩み、ウォール・ストリート・ジャーナルなどで活躍する保守派のジャーナリストとなりました。
かつての彼は、企業の自由競争や市場の力を強く支持する立場でした。
しかし、30代でカトリックに改宗したことなどを契機に、彼の思想は大きく変化します。
行き過ぎた資本主義が一般の労働者を搾取し、家族の絆や地域社会を破壊している現実に直面した彼は、市場の自由よりも労働者の保護を優先すべきだと考えるようになりました。
現在では「労働者のための保守」という新しい立場の旗手として、企業を厳しく規制し、働く人々を守るべきだと主張し、アメリカの言論界で大きな注目を集めています。
作られた自由の幻想
アマーリは、現代社会を14世紀のイタリアの法学者が描いた、首がたくさんある怪物、ヒドラに例えています。日本で言うとヤマタノオロチみたいな。
かつては政府という一つの大きな力が市場をコントロールしていましたが、規制緩和によってその力が弱まりました。
その結果、巨大企業やウォール街の金融業界がそれぞれの首となり、ルールなき無法地帯で私たちの生活の隅々まで好き勝手に支配するようになった。
これが彼の手の込んだ私的暴政(企業の独裁)の正体です。
多くの経済学者は「仕事を選ぶのも、物を買うのも個人の自由な選択だ」と主張します。
しかし、アマーリはこの考えを残酷な神話だと一刀両断にします。
生活を維持するための十分な貯蓄や資産がない労働者は、会社からどれほど理不尽で悪い条件を提示されても、事実上それを受け入れるしかありません。
なぜなら、会社から「嫌なら辞めろ」と言われることは、労働者にとって「服従するか、それとも飢え死にするか」という究極の選択を迫られているのと同じ。
著者はこれを、対等な自由契約などではなく、構造的な経済的強制であると厳しく批判しています。
企業はいかにして搾取しているのか
本書では、私的権力が私たちの自由を奪う具体的な手口が、豊富な取材をもとに生々しく紹介されてます。
まずは、デジタル監獄って言われるやつですね。
例えば、アマゾンの巨大な倉庫では、従業員の行動がGPSやカメラで常に監視されており、トイレ休憩でさえ秒単位で管理され、少しでも遅れればペナルティが科されます。
また、多くの企業が入社時に同業他社への転職を禁じる契約や、会社の不祥事を外部に漏らさない契約にサインさせます。
さらにですね、セクハラや不当解雇といった深刻なトラブルが起きても、労働者が裁判所に訴える権利を事前に奪っておくんです。
そうすると、会社側が費用を払う(つまり会社に有利な裁定が出やすい)民間の密室の仲裁で処理させる仕組みができるんです。
著者はこれを「ボスたちの法廷」と呼び、司法の私物化だと非難しています。
あとは、命や地域社会さえも食い物にする金融ビジネスの脅威。
ウォール街の投資ファンド(プライベート・エクイティなど)は、優良な企業を買収しては資産を切り売りし、短期的な利益だけを吸い上げて何万人もの従業員を解雇しています。
さらに恐ろしいのは、消防や救急車といった「命に関わる公共サービス」までが金儲けの道具にされていることです。
ある貧しい家族が火事に遭った際、投資ファンドの傘下にある民間の消防隊が1時間も遅れて到着し、事実上何もしていないにもかかわらず、約300万円(1万9,825ドル)もの法外な請求書を送りつけてきた事例が紹介されています。
皮肉なことに、この強欲な投資ファンドの資金源には、公的な消防士たちの年金が組み込まれており、労働者自身のお金が自分たちの首を絞めるシステムに使われているのです。
あと、大金持ちだけが救われる「計画倒産」という法の悪用です。
巨大企業や大富豪は、自分たちの商品(発がん性のあるベビーパウダーや、深刻な中毒を引き起こす鎮痛剤など)で何万人もの健康被害を出しても、まともに賠償金を払いません。
彼らは「テキサス・ツーステップ」と呼ばれる法律の抜け穴を使い、訴訟のリスクだけを背負わせた別会社を意図的に作り、それを即座に倒産させます。
これにより、自分たちの数兆円規模の莫大な財産は無傷のまま守り抜き、被害者への賠償責任から悠々と逃げ切っているのです。
トランプ現象と絶望死
日本語版の解説(ジャーナリストの会田弘継氏)では、この「私的暴政」がアメリカの政治や社会にどれほどの破壊をもたらしたかが補足されています。
オバマ政権時代、リーマン・ショックからの経済回復が盛んにアピールされ、株価は大きく上昇しました。
しかし、実際にその恩恵を受けて資産を増やしたのはごく一部の富裕層だけでした。
一般の中間層や下流層は資産の多くを失い、実質的な所得は減少し、不安定な非正規労働に追いやられました。
その結果、未来に希望を持てなくなった労働者階級の間で、アルコール依存や薬物中毒、自殺が異常なペースで増え、絶望死と呼ばれる悲劇的な社会現象が全米に広がりました。
ドナルド・トランプ氏が労働者から熱狂的な支持を集め続ける理由は、彼が単に過激だからではありません。
既存の政治家たちが黙認してきた、自分たちを搾取し、見捨てた企業システム(暴政株式会社)に対する一般市民の深い絶望と怒りを、彼が正確に代弁したからなのです。
トランプ現象は、壊れた社会が必然的に生み出した結果であると指摘されています。
自由を取り戻すため
アマーリは、ただ現状を嘆くだけではなく、このディストピアを打ち破るための具体的な解決策も書いてます。
それは、頑張れば報われるという幻想を捨て、労働者が団結して巨大資本と対等に渡り合える拮抗力(対抗する力)を取り戻すことです。
具体的には、かつての時代のように労働組合の組織率を劇的に引き上げ、働く人々が集団で企業としっかり交渉できる環境をつくる、とかね。
あとは、従業員の転職を邪魔したり、裁判を受ける権利を奪ったりする不当な雇用契約を法律で全面的に禁止すべきだと訴えます。これは、国がやらなくちゃだけど。
さらに、投資ファンドが会社や公共サービスを食い物にできないよう、金融業界に対して政治が強力な規制(拒否権)を発動し、企業による無制限な政治献金も制限すべきだと主張しています。
日本も決して無縁ではない
暴政株式会社は、市場に任せておけば誰もが自由で豊かになれるという新自由主義の考え方が、いかに間違っていたかを痛烈に教えてくれます。
日本においても、失われた30年の中で実質賃金は上がらず、非正規雇用や不安定な働き方が定着してしまいました。
十分な貯蓄がなく、会社の理不尽な要求に従わざるを得ない服従か飢餓かという状況は、日本の多くの労働者が日々直面している現実です。
本当の自由とは、単に国から干渉されないことではなく、一部の巨大な私的権力の恣意的な支配から自分の生活と尊厳がしっかりと守られることに他なりません。
これからの働き方や経済のあり方、そして私たちがどう生きるべきかを考える上で、すごく参考になる本。
是非読んでみてほしい。
いいなと思ったら応援しよう!
これからも毎日、本を紹介したいのですが、このnote、ずっと赤字状態です。もし本好きの方がいらしたら、チップを送っていただけると嬉しいです。