【待望の邦訳】世界に意味はない、だからこそ生きる意味がある…哲学者ナンシーの最高傑作『世界の意味』が教える触れ合いの尊さ
今日は哲学の本を紹介!
ジャン=リュック・ナンシーって知ってますか?
フランスを代表する哲学者です。
だいたいナンシーって言われてます。
実は最近まで存命していて、1940年に生まれ、2021に亡くなりました。
そんなナンシーが1993年に発表した『世界の意味』は、彼の思想の最高傑作であり、最も重要な一冊と言われています。
ナンシーといえば、それまでは1986年の『無為の共同体』が最も有名でした。
これがベストセラーで、これ以上の名作は生まれないだろうと言われていました。
なんですが、それを超えてきて世界に衝撃を与えました。
なので、世界の頂点のひとつとされてる本。
日本でも高く評価されながら長らく翻訳困難とされてきましたが、30余年の時を経た2026年4月に待望の日本語版が出版されました。
なので、今日紹介しよう!と思ったんですね。
なぜこの本が書かれたのか?
この本が書かれた1990年代初頭は、冷戦が終わり、歴史は終わった(これ以上の大きなイデオロギーの対立や進歩はない)とささやかれていた時代です。
同時に、それは宇宙のような人間が安住できる調和のとれた世界秩序が失われた無宇宙主義の時代でもありました。
かつての時代には、宗教や政治思想(理想の国家づくり)などが、人生や世界に絶対的な目的を与えてくれました。
しかし、そうした大きな目標が信じられなくなった現代において、ナンシーは「では、目的を失ったこの世界において、生きる『意味』とは一体何なのだろうか?」と真正面から問い直したのです。
世界は無意味ではない
人生に決まった目的がないって言われると「世界には意味がないんだ…」と虚無感に陥りがちです。
そこで、ナンシーは、誰かから与えられる正解としての意味(シニフィカシオンっていいます)と、フランス語の意味・感覚・方向という言葉のサンスで区別したんです。
前者のシニフィカシオンとは、言葉の辞書的な意味や、人間が意のままにコントロールして所有できる目的のことです。
後者のナンシーが重視するサンスとは、私たちが自分の思い通りにできない実存のあり方そのものを指します。
神様のような外部の存在が私たちに意味を与えてくれるわけではありません。
世界の外側に意味を探すのではなく「私たちが今、この世界にただ存在していること」そのものが、すでにひとつの意味(サンス)なのだと主張します。
世界に意味はない。だからこそ生きる意味があるってこと。
まあ、ここら辺はちょっと難しいので、何度か読んでみて下さい!
世界化と砂漠化
ナンシーは、現代の世界の広がりについて、グローバリゼーションと世界化(モンディアリザシオン)という二つの言葉を使い分けています。
グローバリゼーションとは、資本主義やテクノロジーが世界を均質化し、多様性を消し去って単なる商品のネットワークや無世界へと変えてしまう砂漠化のプロセスです。
それに対して、ナンシーが希望を見出す世界化とは、多様な存在がお互いに触れ合い、意味(サンス)を循環させながら世界そのものを創り出していく開かれたプロセスを指しています。
触れ合うことの大切さ
ナンシーの哲学を理解する上でとても重要なこと、というか言葉、それは触れること(触覚)です。
実はナンシーは、この本を執筆する少し前に重い心臓病を患い、心臓移植手術を経験しました。
自分の体の中に他人の心臓が脈打ち、医療技術によって生かされるという過酷な体験を通して、彼は「自分という存在は、決して自分一人で完結しているわけではない」と痛感します。
伝統的な哲学では、少し離れたところから目で見て対象を理解する視覚が重視されてきましたが、ナンシーは限界(人との境界線って意味ね)において他者と物理的に接触する触覚を重視しました。
私たちは常に外部の世界や他者と触れ合って生きています。
ただし、ナンシーの言う触れ合いとは、相手と完全に一体化することではありません。
お互いの違いや境界線を保ったまま、縁と縁で触れ合って生きていく。
その多様な関わり合いこそが、世界を形作っていると考えたのです。
政治と芸術
ナンシーは、国や社会を「ひとつの理想の形」に無理やりまとめ上げようとすることを嫌がっていました。
それが過去にファシズムや全体主義といった悲劇を生んだから。
社会をあらかじめ決められた「作品」のように作り上げようとすることは、必然的に社会に対する暴力と政治的テロルに行き着きます。
政治の本当の役割とは、ひとつのイデオロギーを押し付けることではなく、バラバラで個性的な私たちが共に存在している(共在)という事実を大切に守り続けることだと説きました。
また、絵画や音楽などの芸術も、言葉や理屈ではひとつの正解にまとめきれない感覚(サンス)を表現する大切な手段として注目しています。
芸術は、閉ざされた意味の体系を打ち破り、私たちが「ただ世界に存在している」という驚きへと連れ戻してくれるのです。
苦痛と不幸をどう受け止めるか
この本の終盤では、「悲嘆。苦痛。不幸」という重いテーマが扱われています。
かつての時代であれば、苦痛は「神が与えた試練だ」とか「未来の救済のための償いだ」といった形で、何らかの物語(意味作用)に回収され、正当化されてきました。
しかし、絶対的な価値観が失われた現代においては、不幸はただ不幸として存在し、それ以上の意味を持ちません。
ナンシーは、安易な慰めや物語に逃げ込むのではなく、苦痛の重さをそのまま引き受けることの重要性を説いています。
砂漠のような世界を生き抜く
いまは、資本主義やテクノロジーが世界中を覆い尽くし、昔のような温かい居場所や絶対的な価値観が失われた砂漠のような時代なのかもね…
世界の意味は、そんなあらかじめ用意された生きる目的がない世界を、どうやって生き抜いていくかを考える本。
ちょっと難しい哲学の言葉で書かれていますが、その根底にあるのは、ただそこに一緒に存在し、触れ合っていることの尊さ、みたいなこと。
ぜひ、チャレンジしてほしい!
いいなと思ったら応援しよう!
これからも毎日、本を紹介したいのですが、このnote、ずっと赤字状態です。もし本好きの方がいらしたら、チップを送っていただけると嬉しいです。