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日本の発明ORコード。昼休みの囲碁が生んだ発明を、彼は「独占しない」と決めた

これは、儲けるチャンスを、あえて手放した技術者の話。 #知財戦略

今、あなたのスマートフォンのカメラを、何かの四角い模様に向ければ、瞬時に、情報が読み取られる。

飲食店のメニュー、電車の切符、キャッシュレス決済、ワクチン接種証明。もはや、これを見かけない日はない。QRコード。

この、世界中で使われている発明を生み出したのは、自動車部品メーカー・デンソーの、一人のエンジニアだった。彼と開発チームは、この技術で、莫大な特許使用料を得ることも、できたはずだ。でも、彼らは、その道を、選ばなかった。


「2人、2年、最小限の費用」という、厳しい条件

1992年。デンソーで、バーコードリーダーの開発に携わっていた原昌宏は、製造現場から、こんな相談を受けていた。

「もっと、バーコードの読み取りを、速くできないか」

当時の工場では、部品を管理するために、バーコードが使われていた。でも、英数字で最大20文字ほどしか情報を格納できないため、複数のバーコードを、書類にずらりと並べる必要があった。作業者は、1日に、なんと約1000回もの読み取りを、こなさなければならなかった。

「もっと、多くの情報を、コンパクトに、高速に読み取れて、漢字にも対応できるコードを作ろう」。原は、まったく新しいコードの開発を、決意する。

ただし、会社が示した開発条件は、決して恵まれたものではなかった。人員はわずか2人、開発期間は2年、費用は最小限。大きな期待をかけられての、華々しいプロジェクトでは、まったくなかった。


行き詰まりを打開したのは、昼休みの「遊び」だった

開発は、当初、思うように進まなかった。

より多くの情報を、いかにコンパクトな面積に詰め込むか。既存のバーコードは、横方向にしか情報を持たない「1次元コード」だった。縦横、両方向を使えれば、情報量は、飛躍的に増える。でも、その具体的な設計方法が、なかなか見えてこない。

そんな、行き詰まりを感じていた、ある日の昼休み。原は、職場で、趣味の囲碁を楽しんでいた。

白と黒の碁石が、格子状に並ぶ、碁盤を眺めながら、ふと、あることに気づく。

「碁盤の目のように、白と黒を、マトリクス状に配置すれば、情報を、効率よく入れ込めるのではないか」

この、何気ない気づきが、世界を変える発明の、決定的な転換点になった。


「回」の字に隠された、地道な試行錯誤

ただし、アイデアが浮かんだだけでは、実用化には至らない。

縦横に情報を詰め込んだ四角いコードを、高速で、正確に読み取るためには、機械が、コードの位置と向きを、瞬時に認識できなければならない。工場での読み取りは、様々な角度から行われる。上下左右、どちらから読んでも、正確に認識できる仕組みが、必要だった。

原は、この課題を解決するため、世界中の文字やマークを、地道に調べ上げた。あらゆる図形の中から、「他には存在しない、独自の特徴」を、探し出す作業だ。

そして辿り着いたのが、コードの3つの隅に配置する、「回」の字に似た、特徴的な模様――「ファインダパターン」だった。この模様が、あるおかげで、読み取り装置は、どんな角度からコードを見ても、瞬時に「これは、あのコードだ」と、認識できるようになった。

白黒比率、1:1:3:1:1。この、緻密に計算された比率こそが、QRコードが、360度どの角度からでも読み取れる、最大の秘密だった。

「不器用で、一つのものに凝る」。原は、自分自身の性格を、そう語っている。この、地道で、粘り強い試行錯誤の積み重ねが、世界標準となる発明を、静かに、しかし確実に、形作っていった。


1994年、ついに完成。しかし、そこで、大きな決断が待っていた

1994年、原と開発チームは、期限内に、新しいコードを完成させる。QRコードと名付けられたこの発明は、同年3月14日に、特許出願された。

従来のバーコードと比べ、読み取り速度は10倍以上、情報量は200倍。さらに、コードの一部、最大30%が汚れたり、破損したりしていても、正確に読み取れるという、驚異的な耐久性まで備えていた。

ここで、原と、デンソーという会社は、大きな岐路に立つことになる。この画期的な技術を、自社だけの武器として、独占的に活用するのか。それとも――。


「特許を、開放する」という、思い切った選択

原とデンソーが下したのは、多くの企業が躊躇するであろう、大胆な決断だった。

QRコードに関する特許は取得しながらも、JIS/ISO規格に準拠したQRコードであれば、誰でも自由に使えるように、権利を開放する。

原自身は、この決断の理由を、こう語っている。

「2次元コードが氾濫すると、ユーザーが混乱してしまいます。だから、QRコードをいち早く普及させるために、あえてオープンにしました。それに、インフラの整備は、1社だけでは、実現できません。他の企業が参加しやすい環境を作ることも、目指していたんです」

もし、特許使用料を徴収する道を選んでいたら、短期的には、大きな利益を得られたかもしれない。でも、その代わりに、他の企業が採用をためらい、普及のスピードは、大きく落ちていた可能性が高い。


「自社の名前を、世に広めたい」という、もう一つの夢

ここで、興味深いエピソードがある。特許庁の紹介記事によれば、原には、もう一つの、個人的な夢があったという。

「いつか、自社の名前を、世の中に広めたい」

デンソーは、自動車部品メーカーだ。完成車メーカーの陰に隠れ、自社製品のロゴが、街中で直接、目に触れる機会は、ほとんどない。原は、世界に通用する二次元コードを通じて、この夢を、実現させようとしていた。

皮肉なことに、特許を開放したことで、「QRコード」という名称そのものは、爆発的に世界に広まった。デンソーという社名を、直接的に前面に押し出すことはなかったけれど、「QR」という技術の代名詞が、日本発の発明として、世界中に浸透していったのだ。


「独占しない」という判断が、結果的に、最大の価値を生んだ

QRコードは、その後、携帯電話のカメラで読み取る、ウェブサイトへのアクセス手段として、爆発的に普及していく。スマートフォンの登場以降は、さらに勢いを増し、中国をはじめとする国々では、電子決済の主要な手段として、定着した。

コロナ禍以降は、感染経路の追跡や、ワクチン接種証明にも活用され、その価値は、あらためて、世界中で見直されることになった。

もし、原とデンソーが、特許を独占し、利用料を徴収する道を選んでいたら――。おそらく、QRコードは、ここまで世界中に広がることは、なかっただろう。「自社の利益を、最大化する」のではなく、「技術そのものを、社会に根付かせる」ことを選んだ判断が、結果的に、原自身の夢さえも、はるかに超える規模で、世界を変えることになった。


「儲けそこねた」のか、「もっと大きなものを得た」のか

この物語を振り返るとき、つい、「特許料を取っていれば、莫大な富を築けたはずなのに」という視点で、語りたくなるかもしれない。

でも、原自身の言葉から見えてくるのは、まったく違う価値観だ。「インフラは、1社だけでは作れない」。この一言には、目先の利益よりも、技術そのものが、社会にどう根付いていくかを、優先する姿勢が、はっきりと表れている。

今も現役の技術者として、新しい種類のQRコードの開発を続けているという原。昼休みの、何気ない囲碁の一局から生まれた発想が、これほど大きな物語に育っていくとは、当時、彼自身も、想像していなかったに違いない。


#QRコード #原昌宏 #デンソー #知財戦略 #技術者 #イノベーション #日本の発明 #エッセイ


出典・参考資料

1. QRコード開発の背景と経緯(1992年〜1994年)
1992年、製造現場からの「バーコード読み取り高速化」要望を受け開発開始
開発条件:人員2人、期間2年、費用最小限
当時のバーコードは英数字最大20文字程度、作業者は1日約1000回の読み取りが必要だった
参考資料:デンソーウェーブ公式「QRコード開発|テクノロジー」
URL: https://www.denso-wave.com/ja/technology/vol1.html

2. 囲碁からヒントを得た開発秘話
昼休みに囲碁を打っていた際、白黒の碁石のマトリクス配置からヒントを得た
原氏本人の発言「囲碁のマトリクス状に白黒を配置することが情報入れやすいので、これだと思いましたね」
参考資料:東海テレビ「特集|ヒントは休憩中の"囲碁"だった…『QRコード』開発秘話 生みの親が明かす『特許オープンにした』ワケ」(2019年11月29日)
URL: https://www.tokai-tv.com/newsone/corner/20191129.html

3. ファインダパターンの開発と白黒比率の詳細
3隅に配置する「切り出しシンボル(ファインダパターン)」の考案、世界中の文字・マークを調査
白黒比率1:1:3:1:1による360度読み取り認識の実現
原氏の自己評価「不器用で一つのものに凝る」性格
参考資料:ニューズウィーク日本版「QRコードを生み出した技術者、原昌宏。ヒントは囲碁だった【世界が尊敬する日本人】」
URL: https://www.newsweekjapan.jp/articles/-/44561?display=b

4. 特許出願・登録の詳細と性能データ
1994年3月14日特許出願、1999年6月11日登録
従来バーコード比で読み取り速度10倍以上、情報量200倍、最大30%の汚損でも読み取り可能な耐久性
参考資料:デンソーウェーブ公式「QRコード、特許出願から30年」(プレスリリース)
URL: https://www.denso-wave.com/ja/adcd/info/2403130.html

5. 特許開放の理由と原氏の発言
JIS/ISO規格準拠のQRコードは誰でも無償で使用可能に開放
原氏本人の発言「QRコードをいち早く普及させるためにオープンにしました」「インフラ整備は1社ではできない」
参考資料:日本商工会議所 Assist Biz「原昌宏 QRコード開発者」
URL: https://ab.jcci.or.jp/article/48463/

6. 「自社の名前を広めたい」という個人的な動機
デンソーが自動車部品メーカーであり、自社ロゴが一般消費者の目に触れにくいという背景
QRコードを通じて社名を広めたいという原氏個人の夢
参考資料:経済産業省特許庁「『QRコード』(株)デンソーウェーブ」
URL: https://www.jpo.go.jp/news/koho/innovation/01_qrcode.html


出典についての補足:本記事は、デンソーウェーブ公式発表、経済産業省特許庁、およびニューズウィーク日本版・東海テレビ等の報道機関による、原昌宏氏本人への直接取材に基づく記事を情報源としています。

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