見出し画像

青ブラ文学部|森の静寂に蝶の夢 誘われて


日本語で音読  作者の趣味です(^^)  


英語で音読 は こちら  やはり 作者の趣味ですね


緩やかな丘を登って来た旅の男は、その小さな宿の軒先に馬を繋いだ。
あたりには、草原が広がり、遠く静寂に包まれた森へと続いている。

「旅の人、馬はしっかり繋いで下さいね」
奥から現れた女が、遠くの空を仰ぎながら言った。
若くはないが、落ち着いた風情のある美しい人だった。
午後の陽が、あたりを金色に染めている。

「ああ分かった。お茶を一杯もらえるかい?」
「ええ、そちらでお待ち下さい」
女は、入り口付近に置かれた椅子とテーブルを指して、微笑んだ。

やがて運ばれてきた不思議な香りの飲み物に、男はすっかりくつろいでいた。柔らかい高原の風が心地よく吹き抜けてゆく。

のんびりと旅の疲れを癒やしていると
草原の金色に染まった空に、突如として、青紫の蝶の群れが湧き出て来た。

🦋

       🦋 🦋    
                        🦋


群れは、揺れ動き、形を変え、まるで一つの生き物のように辺りに広がってゆく。あまりの美しさに、旅の男は思わず立ち上がった。

「あぁ、旅のお方、あれに近寄ってはいけません。」

女の鋭い声が背後から響いた。

「何だって?」

道端の柵から身を乗り出して、蝶の乱舞を見つめていた男は、振り返った。

「あれは、人を誘うのです。
 あれに誘われて森に入った者は、帰って来ません」

「まさか!?」

「本当ですよ。私はずっとここにいるんですから。
 あれは危険な生き物。あまり見つめてはいけません。
 こんな人里離れたところでは、そういう事も起きるのです」


旅人は半信半疑だったが、言われた通り柵から離れ
お茶のお代わりをして、一息ついた。
女は、奥に消えた。

その時、馬の甲高い鳴き声がした。
繋いであった手綱がほどけたのか
旅人の馬が柵の向こう、蝶の乱舞する草原へと駆け出して行った。

「あっ 待て!」
男は我を忘れて、草原に踏み込んだ。

たちまち、あたりを漂っていた蝶の群れが男を包みこむ。

奥から現れた女は、息を呑んでその情景を見つめた。
「あぁ、あれほど言ったのに」


馬も旅人も、まるでひとつの絵のように遠ざかり、もう引き返す事はできない。


彼らは、蝶の夢の餌食となるだろう。
あの森の静寂の中で眠るだろう。


女の脳裏に、遠い昔がよみがえる。
旅の途中、この美しい草原で、蝶の乱舞に遭遇したあの日
連れの男は、舞い狂う蝶の群れに連れ去られた。

残された女は、ここに小さな宿を開き、旅人を迎えながら暮らすようになったのだった。

女は、ふっと物哀しい笑みをもらして、ドアを閉じた。
彼女は、連れの男のために祈り、旅人を見守る、宿の女将にすぎないのか。
あるいは、胡蝶のしもべとなったのか。
それを知っているのは、金色の草原だけであった。

              
 終わり



ありがちなストーリーですが
この作品は、筒井康隆さんの「旅のラゴス」という小説から
蝶にまつわる印象的なシーンをお借りして、モチーフとしています。


山根あきらさんの 企画

「森の静寂に蝶の夢」というお題に、応募させて頂きます。
よろしくお願い致します。


#青ブラ文学部
#森の静寂に蝶の夢
#草原
#蝶
#乱舞
#馬
#むうらむにいなれおん26
#日本語音読ー森野花

いいなと思ったら応援しよう!