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忘却の彼方へウルセェババア

3日前に食べた夕飯が思い出せないでいる。夫が作ったご飯をたしかに美味しい美味しいと言って食べたはずだ。

今日、片道1時間半の道をかけて、母が留守なので母が飼っているコーギーのお世話をするために実家に帰った。お昼時で車の中には途中のコンビニで買ったおにぎりと赤ちゃんと我が家の犬がいた。

家に着いて、ハッとした。実家の鍵を忘れてしまったのだ。普段から真面目に地味にコツコツと生きている自信があるのに、ときどきこういうことをしてしまう。車は夫が運転するから、鍵はいらないと判断したのだ。つまらないミスをしてしまい普通に涙がでた。
隣では赤ちゃんがそろそろお腹空いて泣き出しそうになっている。

頭をフル回転させて病院で働いている姉に連絡した。ちょうどお昼休憩の時間で実家の鍵を渡せると言われた。

久しぶりに病院に立ち寄った。その病院は、癌で亡くなった父が放射線治療をしに通っていた病院で何度か送迎をしたことがある。

治療に時間がかかるため、車に父を乗せ近くのコンビニまで走っておにぎりを買いに行った。車に戻ると酸素がうまく吸えず呼吸が絶え絶えになっている父から「何で電話にでないんだ。」と言われた。急ぐあまり気が付かなかった。

また、ある時は父の具合がよく近くのうどん屋まで行きうどんを食べた。お腹いっぱいになったけど、しきりにデザートも頼めと言われてデザートも頼んだ。大食いだった父はほとんど食べられなかったが、私が食べてるのを見て満足していた。

覚えていようと思ったことも1つずつ忘れていってしまう記憶力がもどかしい。病院に行くまですっかりとその日の光景を忘れていた。

3日前の夕飯を忘れるように、家の鍵を忘れるように、1つずつ私から溢れ落ちていくことが怖くなる。鍵1つ忘れたことで今まで忘れていたことを思い出していた。

実家に戻り、赤ちゃんの動画を撮った。駆け寄ると微笑み返してくれるのも今のうちで、ウルセェババアとなじられる日に備えて、甘えん坊の赤ちゃんだった頃を忘れてないでおこうと思った。
動画の中の赤ちゃんは満面の笑みで声をあげていた。


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