オルゴールが止んだ夜《シロクマ文芸部 》
小さい頃、よく遊んだしゃぼん玉。
あの頃の私は、
そっと息を吹き込むだけで、
いくつも空に浮かべることができた。
それだけで、よかった。
何も考えずに、ただ楽しめた時間。
あれから、どれくらい経ったんだろう。
今の私は、もう——
あの頃みたいに、しゃぼん玉を作ることができない。
都会の中で、
気づけば、自分のこともよく分からなくなっていた。
吐く息も、
前よりずっと重くなった気がする。
そんなある日、
街の雑貨屋で、ひとつのオルゴールを見つけた。
特別きれいなわけでもないのに、
なぜか気になって、立ち止まった。
家に帰って、蓋を開ける。
流れてきたのは——
「星に願いを」。
あの頃、よく聴いていた曲。
目を閉じる。
ストローの先から生まれる、丸いしゃぼん玉。
虹色に光って、
まわりの景色をそのまま映していた。
触れれば、それは壊れてしまう。
だから、
ただ見ていることしかできなかった。
でも、
それでよかったんだと思う。
夢とか希望とか、
そんな大げさなものじゃなくて、
ただ、それを見ているのが好きだった。
――目を開けて、蓋を閉じる。
あの頃の私は、
どこかに行ってしまったわけじゃない。
ただ、少し忘れていただけ。
今なら——
もう一度、
しゃぼん玉を吹いてみたいと思う。
いつまでも飛んでいくような、
しゃぼん玉を、
作れそうな気がした。
——マルガリータを飲みながら。
※今回も、こちらのシロクマ文芸部さんの企画に参加させていただきました。
ありがとうございました🙇♀️
