さよならありがとう
これまで長い間行けなかった福島県郡山市。もう一人の采女の郷である。これまで何度も何度も行こうとはした。でも急な用事が入ったり電車が大幅遅延したり、そちら方面の電車にすら乗れなかった。新幹線の不具合もあった。今もまだ完全復旧していないという。これは「まだ来るな」と言われてるんだきっと、と自分を納得させようとしていた。でも何年待てばいいのよ。
そんな日々が続く中で采女の正体をnoteに書き続け、やっと書き上げた。
自分の発見と仮説を早く発表したかった。前のめりで文の不具合も散見されるものの、残り少しだけ校正するのみ、の状態にまで仕上げた翌日は土曜日だった。
早朝6時、ご近所の車がエンジンをかける音が聞こえた。休みなのに早いなあ。目覚めたついでに朝食の準備をする。土曜日朝の冷蔵庫には何もなく、トーストにコーヒーとチーズ一欠片を食べながらボンヤリと考えていた。さっきの車のご近所さんは何処へ行ったのだろう。
あぁ、お休みだからと言ってゆっくり動かなくてもいいんだわ。
私はおもむろに立ち上がった。組み合わせを考える時間が惜しいので昨日の服を着る。念のため防寒用にジャケットを羽織り、すっぴんにスニーカーで飛び出した。鞄に日焼け止めクリームを放り込んだのはわずかな抵抗だ。口紅は電車で塗ろう。
目指すは郡山。今日こそ安積へ行く。
休日の都心に向かう電車は平日の早朝ほどには混んではいなかった。それでも制服の学生達は乗っていた。まぁこのくらいならなんとか息はできる。人が少なければ事故で遅延というアクシデントも少ないだろう。
大宮駅まではスムーズに座って行けた。新幹線の切符を買っていると、どこかの路線で人の立ち入りがあったとかで、大幅遅延のアナウンスが流れて来た。おっとギリギリすり抜けたんだわ。これはいけるかも。
東北新幹線に乗るとわずか1時間で郡山駅に着いた。あっという間だ。何でこれまでこれくらいの事が出来なかったんだろう。
目的地は在来線の隣駅、日和田駅にある。これは1時間に1本しかなかった。田舎あるある。ほぼ1時間待って乗り込んだ。新幹線の大宮駅から郡山駅くらいか。時間と空間の変動差に眩暈がする。とはいえ、ここまではスムーズにきた。
さて、日和田駅に着いたはいいが、大切なのは引き返す時の列車時刻なんだ。それによって現地の滞在時間を計らなければならない。現地でゆっくりしていて、次の目的地行き最終電車が出てしまったこともあれば、次の電車は3時間後と言われて1時間毎のバス停に猛ダッシュしたこともある。そんな風に地方散策では何度も痛い目に遭って結構懲りているから。なので、今は常に帰りの電車時刻と移動時間をスマホのタイマーに入れるようにしている。これが一人旅のコツなのよ。
今回は電車の本数もさながら、目的地まで駅から徒歩20分とあった。Google mapsは助かるが登り下りが分かりにくい。おまけに本日は30℃近い。田舎で飲み水が切れて大変な思いをしたことがあったので、唯一見かけた自販機に走ってペットボトルを調達した。ふと振り返ると何とタクシーが駅に停まったではないか。なに?誰か予約してるの?とりあえず戻って声をかけてみることにした。予約なし。大丈夫そうだ。これはもう乗るしかない。「山ノ井清水までお願いします!」
これがわからない〜。自分が研究して探している場所がニッチ過ぎて、地元タクシー運転手さんも知らない場所だったとは。本社に無線で訊ねたり、すれ違った同僚運転手さんから情報を仕入れたりしてもらい、やっとそれらしき場所の近くに着いた。いや、これは歩いて見つけるには難しいわ。帰りの電車も絶対逃すわ。
目的地付近まで来ると、運転手さんに「待っててください!必ず戻りますから!」と訳の分からない念押しをして、リュックを肩に引っ掛けて走った。何か看板があるはず。松尾芭蕉が歩いたという記念碑か何かもチラッと見かけたが、それは今回どうでもいい。目的はひとつ。
たどり着いた件の場所(トップ画像)でバチバチ写真を撮っていると、運転手さんが探しに来てくれた。もしくは乗り逃げの心配だったのかもしれないが(笑)。
これで満足した。元々は奈良の猿沢池からここまで歩けるかを実地検証するつもりだった、無謀にも(笑)。
けれど、令和の今ですら難しかった旅が千年以上前に女一人、しかも逃避行で出来るわけがない。と、ラストマイルをタクシーに乗って実感した(笑)。長らくこの地に行けなかったのは、行かなくてよかったからかもしれない。でも、やはり行ってよかったんだ。人生は納得の積み重ねなのである。


帰りに郡山駅で見かけたのはGReeeeNの手形足形だった。福島県出身だったのか。随分と肉厚で優しそうな手だなと思った。この手で今も歯医者さんをしておられるのだな。
ということで、もう一人の采女を探し訪ねる旅は終了した。言い伝えの内容は悲劇ではあるけれど、千年以上前の人探しは楽しかった。ありがとう。

この日、安積国造神社では秋の大祭があった。ちらりと寄ってお礼を申し上げた。一期一会。そんな一日だった。
さて、次は何をしよう。
