【ふたつの選択】ライター編 第1話「案件応募」
会社を辞めたあと、わたしはWebライターとして生きていくことを決意した。
もちろん、簡単な仕事ではないことは分かっている。
収入は当面、大きく減るだろう。
いや、「当面」で済めばいい方かもしれない。
それでも、この道を選んだ。
会社員として働いた年月は決して嫌いではなかった。
仕事にもやりがいはあったし、多くの人との出会いにも恵まれた。
ただ、その一方で、組織の中では思うように身動きが取れない場面も少なくなかった。
だからセカンドキャリアは、どこかの組織に所属するのではなく、自分らしく自由に生きよう。
そう決めた。
退職を決意した頃、一度だけ占い館へ足を運んだ。
タロットカードで、過去・現在・未来を一枚ずつ見る、とてもシンプルな占いだった。
過去に出たカードは「吊るされた男」。
現在は「悪魔」の逆位置。
そして未来は「愚者」の正位置だった。
占い師はカードを見つめながら言った。
「これまで、ずいぶん我慢をしてこられましたね。家族のために、自分の気持ちを後回しにして働いてきたのではありませんか」
何も話していないのに、思わず息をのんだ。
続いて現在のカードを見ながら言った。
「でも今は、その束縛から少しずつ解放されようとしています。不要なものを手放し、自分らしい生き方を選ぼうとしている時期ですね」
そして未来のカードを見て、少し笑顔になった。
「愚者は自由を象徴するカードです。もしかすると会社を辞めて独立することを考えていませんか」
何も話していない。
それなのに、心の中を見透かされたようだった。
最後に占い師は真剣な表情でこう付け加えた。
「ただ、愚者は自由な反面、崖のすぐ近くを歩いていても気づかない危うさもあります。計画を立てて独立されるのでしょうが、自由には責任が伴うことだけは忘れないでくださいね」
その言葉は、今でも耳に残っている。
まずは単価が安くてもいい。
収入が少なくてもいい。
とにかく実績を作ることが先だ。
そう考え、わたしはいくつかの仕事募集サイトへ登録した。
ところが、現実は想像以上に厳しかった。
あるサイトは社員募集が中心で、フリーランス向けの案件はほとんど見当たらない。
たまに見つけても、「実務経験者のみ」。
応募することすらできなかった。
別のサイトでは、未経験者でも応募できる案件が比較的多かった。
しかし、応募しても返事はほとんど来ない。
何件送っても反応がない。
そこでAIに相談してみると、
「プロフィールやポートフォリオを充実させた方がいいですよ」
というアドバイスをもらった。
なるほどと思い、まずは実績よりも、自分がどんな人間なのかを伝えるプロフィール作りから始めた。
しばらくすると、一社だけ返信が届いた。
文字単価は〇・二五円。
千文字書いて二百五十円。
原稿用紙にすれば二枚半ほどだ。
自由にエッセイを書くのとは違う。
テーマに沿って調べ、構成を考え、読みやすい文章にまとめる。
三時間。
いや、四時間かかるかもしれない。
時給に換算すれば、とても仕事とは言えない金額だった。
それでも、わたしは応募した。
今のわたしに必要なのは収入ではない。
まずは経験を積み、一つひとつ実績を増やしていくこと。
そう信じて、応募ボタンを押した。
