【第9話・後編】運も実力のうち?なぜか「管理職」として君臨してしまった奇跡
不毛な出世レースや社内営業などという面倒な労働は1秒たりともせず、頭の中で「早く担当物件ゼロの管理職になって、現場労働からエスケープしたいなぁ」と、指をくわえてぼんやり思っていただけのプレイヤー時代の私。
だが、そんな仕事嫌いの私のデスクへ、突如としてマネージャーへの昇進(内示)という、とんでもない棚からぼたもちの幸運が降ってくることになる。
その最大の理由は、会社が私のサボり能力を絶賛したからでは断じてない。ただ単に、組織の不条理なローテーションが引き起こした「消去法」だった。
当時、私のオフィスではベテラン勢の定年退職と、激務に耐えかねた中堅フロントたちの離職が、不運にも同じタイミングでドミノ倒しのように一気に重なっていた。気がつけば、オフィスの中央にあったはずのマネージャーのポストが、ポッカリと空席になってしまったのである。
上層部はパニックになりながら、次の駒を誰にするか社内の名簿を睨みつけて冷徹に消去法を始めた。
「あいつはまだ社歴が浅すぎる」「アイツは今、担当物件が大炎上していてそれどころじゃない」
そうして消去法のドミノがパチッパチッと倒れていった結果、最後にポツンと残ってしまったのが、大きな目立った炎上も起こしていない、社歴だけは無駄に長い「俺」だったのだ。
だが、上層部だって馬鹿ではない。私が普段、仕事を周囲に丸投げしているサボり魔であることくらい薄々気づいていたはずだ。普通なら、そんな惰弱な人間に管理職の椅子を渡すリスクは冒したくない。
それなのに、本社の役員と経理が、私を管理職へ押し込む最終的なハンコを全力で叩きつけた決定打。それこそが、私の徹底したケチ精神が、会社の「コンプライアンスの波」をブチ抜いた結果であった。
どんなに他力本願でサボる仕組みを敷いていたとしても、生きている現場である以上、15分程度のちょっとした突発的な居残りや、急な休日出勤の対応などは、どうしても発生してしまう。
普通の真面目な会社員であれば、「まあ15分程度の残業だし、キリが悪いから定時退社(サービス残業)ってことで書類を出しておこう」と、会社に都合よく自分の労働時間を差し出してしまうのだろう。
だが、私はそもそも働くことが大嫌いなのだ。1分たりとも会社のためにタダ働きしてやる義理などない。
私はこんな性格だから、たとえ15分のわずかな居残りであっても、あるいは数時間の休日出勤であっても、発生した時間はすべて1分単位にいたるまで、カチッと完璧に「時間外手当」として会社のタイムカードに打刻のログを残し、1本残らず請求し続けたのだ。
労働者としての正当な権利を1ミリも妥協しない私の徹底した請求。これが「塵も積もれば山となる」のことわざ通り、毎月のチリツモによって、年単位で見ると「まあまあの残業時間(経費)」へと確実に化け上がっていた。
当時の会社は、世に言う「働き方改革」や「無駄な経費は1円でも削減する」というコンプライアンスの姿勢を、上層部から猛烈に叩き込まれている真っ最中だった。残業を少しでも減らさなければ、本社の役員からオフィス全体が吊るし上げられるというピリピリした状況だ。
そんな中、不動だけが確実にタイムカードの物理的な打刻ログという言い訳のつかない証拠を残して、まあまあの残業代を1円の妥協もなくもぎ取っていくというデータは、会社全体の経費削減の姿勢にとって、これ以上ないほど目の上のコブ(問題児)だったのである。
「他力本願で現場からエスケープしてやったぜ!」とドヤ顔で喜び、自ら進んで残業代ゼロの檻(管理職)へと足を踏み入れた私。
だが、実際に管理職になって現場を降りたあとの、ある時のことだ。
たまたま気心の知れた上層部に私が管理職になった理由ををそれとなく聞いてみたところ、それらしいことを言われた。
私が平社員時代、毎月1分単位の請求で確実にまあまあの残業代を発生させていたせいで、当時の私のすぐ上の上司(支店長)自身が、本社から「お前の管理能力はどうなってるんだ!早くアイツの残業を削れ!」と毎月のように吊るし上げられ、自分の人事査定を根底からブチ壊されかけて胃袋とメンタルをズタボロにされていたというのだ。
上司と本社の経理が弾き出したあの管理職へのスライド計画は、要するに、私を檻の中に閉じ込めて、オフィス全体の残業代を100%削減しつつ、上司自身の査定と身の安全を守るための冷徹なソロバン勘定だったのである。
つまり、会社のセコい経費削減戦略の網に一番おめでたく引っかかった、純度100%のピエロ(人身御供)は私の方だったのである。これぞ究極の因果応報。
しかし、会社の上層部や上司たちは、この時まだ重大な計算違いに気づいていなかった。
私を美しくハメてサブスク化し、こき使ってやろうと目論んだ彼らだったが、その檻の中に放り込まれた私が、今度はマネージャーという職権(権力)のすべてを逆にハッキングし、自分の手を1ミリも汚さずに部下や事務員さんを戦闘員に変えてオフィス全体を完全自動化させる、さらなる悪魔の「他力本願マネジメント」を発動させることになるとは、夢にも思っていなかったのである。
(第10話「部下マネジメント編」へ続く)
※個人情報保護のため、事例は複数の実例を基に再構成しています。
次回予告
夢はニート。仕事嫌いの元フロントが「極限までサボる仕組み」を作ったら、なぜか成果が出ちゃった話。
第10話・前編:『俺に迷惑が掛からなければ好きにやれ』が私のマネジメントだった:部下を育てるつもりなど1ミリもなかった私のマネジメント術
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