01_外航船の航海士という天職
初めまして、海運会社で外航船の航海士をしています。商船系の大学卒業後に入社し、7年間の海上勤務後、陸上勤務を5年半、その後海上勤務に復帰し、主に原油タンカーとLPG船に一等航海士として乗船しています。たった只今は休暇中です。
noteに投稿されている他の方々が航海士についてすでに幅広く書いてくださっているので、私の方では別の視点で、一般の方々があまり知らないような内容を書いていきたいと思います。
航海士と聞くと、船を操縦する人、船と人をナビゲートする人、ワンピースで言うところのコンパスを持ったナイスバディなナミちゃんを想像すると思います。でも実際にはもっともっとやる事が多く深く、会社人生において、船上よりも陸上で働く時間の方が約3倍も長いです。自分自身、船上という現場で働く海上勤務とオフィスで働く陸上勤務を交互に繰り返していますが、船長や航海士という職業の実態は世間ではあまり知られていないようです。友人知人には少しずつ話しているので理解を得てきている気がしますが、初めましての人だと、漁船に乗ってマグロ捕って来るの?とか、フェリーに乗っているの?とか、海上保安庁?軍隊?海猿?というような質問しか残念ながら出てこないです。最近でこそホルムズ海峡閉鎖により原油の輸入が滞っているため、国家備蓄放出だとか、プラスチック製品の生産が追い付いていないだとかの話題がニュースで報道されているので、タンカーという言葉が広まっていると思うものの、重量ベースで99%以上の輸入品を商船に頼っている島国に住む日本人の、一般商船への理解があまり無さそうというのは寂しいものです。子どもたちや学生さんの将来の職業の選択肢を増やすという希望も含めて、世の人々に海運、商船、船長航海士という職業をより知ってほしいと思っています。
そういう自分はもともと山の方で生まれ育ち、親や親戚も船とは全く関係のない仕事をしていたし、船のことなど全く知らず漁船やフェリーですら乗ったことも無く興味も無かったし、社会科の勉強も嫌いで貿易や輸出入なんぞ何も知らなかった。しかし、この仕事を選んだ理由は、島国である日本において、船乗りは絶対に無くならない仕事だと大学生になった時に思ったから。そもそも商船系の大学を選んだのは(正確には、選ばざるを得なかったのは)、別の国立大学を志望していたのに、センター試験で失敗し、前期入試で志望大学を落ちたのもきっかけの1つ。落ちた後、高校の担任教師との面談で、就職には絶対に困らないお勧めの大学があるぞということで、船乗りになるコースがあることも知らずに後期入試で合格し入学。海運のことや、大学1年生の夏休みに乗船実習があるなんてことも全く知らず、夢のキャンパスライフとは無縁のほぼ男ばかりの古びた校舎で興味も無い船の勉強をさせられ、貴重な夏休みに1か月間、たった1単位のために海技教育機構の練習船に乗せられた。しかしここで、記憶のある中ではほぼ人生初めて船に乗り、教官ではあるが航海士という仕事を知り、話を聞いていると日本では珍しい希少価値の高い専門職で、かっこいい制服があり給与も高く、おまけに長期休暇もあるということを知った。そんな単純なことから船乗りになることが将来の選択肢に徐々に入り始め、当時はまだ学科を選択できたので、2年生から航海士になるコースを選んだ。(ちなみに、船乗りの中でも、商船では、航海科と機関科の2つある。昔は無線部や事務部、医務部もあったようだが、現在では人件費削減のため、この3つに関しては別途資格を取ることで航海士が全て兼任している。)機関科を選ばなかった理由は、仕事中太陽の光を浴びることができず景色も見ることができないから。今となっては、機関士がいないと船を動かすこともできないし、船上トラブルの大半が機関に関係しているので、船上でも陸上勤務中でも機関士の方々がサポートしてくれ、その存在はすごく貴重で重要だと改めて実感し尊敬しているので、機関士になる人生もありだったなと思う。それから、最初に乗った練習船はタービン船だったこともあり機関室内が約50℃と熱くて汗だらけで、生涯働くにしては労働環境が悪いと思ったから。結局、航海士であっても、タンカーに乗って中東に行けば、真夏の外気温が40℃を超え、鉄板である甲板上は60℃近くなるので、汗だくで仕事することになったが。また、冬のサハリンに行ったことがあるが、外気温は-20℃と、これはこれで航海士の方がある意味キツイのかもしれない。
幸運なことに、航海学科の友達になった同期の中には意識の高いやつがいて、先取って海技試験(国土交通省が発行する、海技免状という船に乗るための国家資格)の勉強を自主的にしていて、外航船の海運会社に入りたいなら、筆記試験1級まで取っておくべきと言われて、その友達の影響を受けて徐々に勉強を始めた。といっても、船の経験もほぼ無いし、専門用語ばかりで何のことなのか理解できないので、ほぼ丸暗記で受験していた。
冒頭の方で述べた志望動機は、船乗りは絶対に無くならない仕事だと思ったから。というものの、いずれAIに置き換わるであろうと危惧されている職業も多く、航海士もその煽りを受けて無くなるのではないかと思われる人もいるかもしれない。しかし、実際にはそんなことは無いと個人的には断言できる。理由はまた別の機会に。
入社当時はまだ学生気分だったし、練習船で学んだことなんてほんの極微量でしかなく、商船に乗ると学ぶことは無数にあり、毎日新たな発見があり日々勉強という感じ。社会人になってからの方がだいぶ勉強しているし、おじさんになってきた今も覚えないといけないことは無限大にある。その分、やり甲斐は充分にある。
この外航船の航海士という職業は、新月にカメラでは撮り切れない程の満点の星空や、辺り一面水平線しか見えないだだっ広い海、インド洋でよく見られる夜光虫、人懐っこい(船懐っこい?)イルカの大群の並走等々、世間一般の人々の普通の生活ではなかなか見ることのできない景色を堪能でき、日本社会においては芸能人より少なく、社会インフラを支える貴重な存在だと実感しているし、なんだかんだ今となっては天職だと思う。
航海士の仕事は航海当直や操船がベースにあるが、他にも重要な貨物管理、船体管理、乗組員管理、等々があるので、次の機会に話していきたい。
今後、特に現場の航海士目線での話や、より専門的な事柄を語らせていただき、できるだけ多くの方々に海運業界について知っていただきたいと思っています。ご要望あれば、船の裏側や航海士のリアル、海外の港の話、面白いトラブル等々なんかも、特定されない範囲でお話できればと思います。ご支援の程どうぞよろしくお願い致します。
