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【シロクマ文芸部】未来を発明する

 晴れた日に、「縁切り稲荷にいこう」とタカハシに誘われた。担任から、赤点取ったから補習だと、さっき宣告されていたばかりじゃないか。

 「おいタカハシ、赤点で補習じゃないのか」

  タカハシはしれっと答えた。

 「縁切り稲荷で、赤点と縁を切るのさ☆」
 「いいから補習いけ」

 オレは委員長なので、タカハシがサボると担任から注意される。

 「いや補習には行く、行くからさ、その前にちょっと一汗かきたいんだ」
 「あーおまえ、そういえば長距離でインハイ(インターハイ)でたよな」

 タカハシはいそいそと学ランを脱ぎ、ズボンの裾をまくって走る準備を始めた。スポーツとは無縁なオレは青ざめた。絶対に追いつけない。

 「本気なんて出さないって ほら委員長もたまには走ろうよ」
 「・・・」

 500mも走らないうちに、オレは息が上がって会話など出来なくなった。

************

 縁切り稲荷は、高校の裏山にまつられている。東京の縁切り榎(エノキ)ほど有名ではないにしても、たまに遠方から参拝にくる人がいる。そして例外なく山で迷い、救助隊が出動する場面に出くわしたこともあった。

 今日は晴れの天気もあって、縁切り稲荷の周囲も穏やかだ。オレは、全身が汗にまみれ、山道を上った足に血豆がつぶれ、息も絶え絶えで、この世の終わりといった風情だった。

 さしあたってオレは、既に脈拍が穏やかではない。

 「あー引退して走ってないから こんくらいじゃ足りないな」

 タカハシは息も切れていない。汗だくでゼイゼイしているオレを不思議そうに振り返った。

 「ほら縁切り稲荷だぞ 赤点と縁切るんだろ」

 オレの声は情けないほど震えていた。

 「せっかくだし 委員長も一緒になんか、縁切ろうよ」
 「なんだよ急に なに誘ってんだ」

 いつもならタカハシのちゃらい言葉など一蹴していた。しかし今日のオレは慣れない山歩きで大汗をかいたせいもあって、気が付いたら率直な気持ちを言葉にしていた。

 「縁切りの何かって他所(よそ)にだって何個もあるだろ」
 「うん」

 稲荷も、榎も、神社にも縁切りの御利益は意外と多い。縁切りを願う人はおおっぴらにできないだけで、数は少なくないんだと思う。

 だけど。

 「争いと縁を切りたい人もいたはずだ なのに世界は争いに満ちている」
 「世界の平和を憂うなんて やっぱ委員長だな」

 レベチ、とタカハシは笑っている。

 「タカハシ、赤点との縁切りはちゃんと願掛けたか?」
 「うん おけ」

 古文漢文の赤点なら縁切り願掛けでなんとかなりそうな気もする。
オレだって、適当に解答しているから結構ギリギリだったりする。そこまでタカハシに偉そうにいえた義理ではないのだ。 

 「だいたいおまえが赤点とるのは古文・漢文だけなんだからさ」
 「おお 詳しいじゃん」 

 「タカハシが赤点取らなくなったらオレと同格なんだよ」
 「え、まじ」

 「だからトップを取って世界の平和をめざそう」
 「わかった 戻って補習受ける だから帰ろう」

 争いと縁を切ることを世界平和に繋げるには、長い道のりとしか言いようが無いが、戻りもタカハシの足取りは軽快だったので、オレたちは15分ほどで元の校舎に戻ってきた。

 「あー補習 だりぃ」
 「またな」

 縁は切れると別の縁に繋がるという。とりあえず、オレはタカハシと揉めないよう、そればかりを願っていたのだった。

【終】

1日遅れちゃったけど折角なのでしれっと投稿します

「縁切り稲荷」は架空です。東京の縁切り榎(えのき)は実在します。