【シロクマ文芸部】未来を発明する
晴れた日に、「縁切り稲荷にいこう」とタカハシに誘われた。担任から、赤点取ったから補習だと、さっき宣告されていたばかりじゃないか。
「おいタカハシ、赤点で補習じゃないのか」
タカハシはしれっと答えた。
「縁切り稲荷で、赤点と縁を切るのさ☆」
「いいから補習いけ」
オレは委員長なので、タカハシがサボると担任から注意される。
「いや補習には行く、行くからさ、その前にちょっと一汗かきたいんだ」
「あーおまえ、そういえば長距離でインハイ(インターハイ)でたよな」
タカハシはいそいそと学ランを脱ぎ、ズボンの裾をまくって走る準備を始めた。スポーツとは無縁なオレは青ざめた。絶対に追いつけない。
「本気なんて出さないって ほら委員長もたまには走ろうよ」
「・・・」
500mも走らないうちに、オレは息が上がって会話など出来なくなった。
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縁切り稲荷は、高校の裏山にまつられている。東京の縁切り榎(エノキ)ほど有名ではないにしても、たまに遠方から参拝にくる人がいる。そして例外なく山で迷い、救助隊が出動する場面に出くわしたこともあった。
今日は晴れの天気もあって、縁切り稲荷の周囲も穏やかだ。オレは、全身が汗にまみれ、山道を上った足に血豆がつぶれ、息も絶え絶えで、この世の終わりといった風情だった。
さしあたってオレは、既に脈拍が穏やかではない。
「あー引退して走ってないから こんくらいじゃ足りないな」
タカハシは息も切れていない。汗だくでゼイゼイしているオレを不思議そうに振り返った。
「ほら縁切り稲荷だぞ 赤点と縁切るんだろ」
オレの声は情けないほど震えていた。
「せっかくだし 委員長も一緒になんか、縁切ろうよ」
「なんだよ急に なに誘ってんだ」
いつもならタカハシのちゃらい言葉など一蹴していた。しかし今日のオレは慣れない山歩きで大汗をかいたせいもあって、気が付いたら率直な気持ちを言葉にしていた。
「縁切りの何かって他所(よそ)にだって何個もあるだろ」
「うん」
稲荷も、榎も、神社にも縁切りの御利益は意外と多い。縁切りを願う人はおおっぴらにできないだけで、数は少なくないんだと思う。
だけど。
「争いと縁を切りたい人もいたはずだ なのに世界は争いに満ちている」
「世界の平和を憂うなんて やっぱ委員長だな」
レベチ、とタカハシは笑っている。
「タカハシ、赤点との縁切りはちゃんと願掛けたか?」
「うん おけ」
古文漢文の赤点なら縁切り願掛けでなんとかなりそうな気もする。
オレだって、適当に解答しているから結構ギリギリだったりする。そこまでタカハシに偉そうにいえた義理ではないのだ。
「だいたいおまえが赤点とるのは古文・漢文だけなんだからさ」
「おお 詳しいじゃん」
「タカハシが赤点取らなくなったらオレと同格なんだよ」
「え、まじ」
「だからトップを取って世界の平和をめざそう」
「わかった 戻って補習受ける だから帰ろう」
争いと縁を切ることを世界平和に繋げるには、長い道のりとしか言いようが無いが、戻りもタカハシの足取りは軽快だったので、オレたちは15分ほどで元の校舎に戻ってきた。
「あー補習 だりぃ」
「またな」
縁は切れると別の縁に繋がるという。とりあえず、オレはタカハシと揉めないよう、そればかりを願っていたのだった。
【終】
1日遅れちゃったけど折角なのでしれっと投稿します
「縁切り稲荷」は架空です。東京の縁切り榎(えのき)は実在します。