【ファンタジー小説】『今日も魔女の住む森で』第四話 魔女のなぞなぞとクマたちのヒラメキ
第四話 魔女のなぞなぞとクマたちのヒラメキ
ぬいぐるみたちは日記ちゃんにお礼を言い、パタパタと不安そうに手を振る彼女を後にして魔女の図書館を飛び出しました。
「なるべく急いだほうがいいね。手分けして準備しよう」
フクロウの提案にウサギがピンと耳を立てます。
「じゃあ、僕とフクロウで家にカートを取りに行こう!ヒグマとシロクマは魔女の部屋でペンダントをお願い!」
ヒグマは力強く頷きましたが、シロクマはまだ先ほどの疑問が頭から離れないのか、少しうつむき加減です。
シロクマのやわらかな手を、ヒグマがぎゅっと力強く握りしめました。
「行こう!」
ヒグマの温かい手と言葉に、シロクマはハッと顔を上げました。
「またあとで魔女の家でね!」
お互いに声を掛け合い、四匹は二手に分かれて森の道を走り出しました。
息を切らして魔女の家に帰ってきたヒグマとシロクマは、真っ先に魔女のそばへ駆け寄りました。
相変わらず息苦しそうですし、むしろ悪くなっているようでした。
ヒグマは「急いで作り置きしてある魔女のスープをレンジで温めないと」と、小走りでキッチンへと向かいました。
シロクマが魔女の耳元で魔女の図書館でのことや、これから魔女のおねえちゃんに会いに行くつもりであることを話している間に、ヒグマは『紫の霧のペンダント』の入っている宝石箱を持ってきました。
二匹のクマはちょこんと床に座ると、宝石箱を開けて中から木箱と折りたたまれた紙切れを一枚取り出しました。
ヒグマはシロクマに頷いて見せると紙切れを開きました。
魔女だよ♡
また『紫の霧のペンダント』を盗む気だな!
これで六十七回目だぞ。
わたしは諦めの悪いそんなお前たちのことが……ぐぅぐぅ( ゚д゚)ハッ!
ところで、いつものように木箱に魔法をかけて「なぞなぞ」を解かないとペンダントは手に入れられない仕様だ。
がんばれ!!
『なぞなぞ』
「れ」から始まって、「ん」で終わる四つの漢字。
ある時は、作りすぎたカレーの救世主として。
ある時は、安売りでまとめ買いしたお肉のために。
ある時は、忙しい未来の自分への「おいしい仕送り」として。
頑張るお母さんたちの強い味方、時を止める冷たい魔法はなぁ〜んだ?
紙切れの中の魔女のおふざけテンションと、今現在ベッドの上で苦しんでいる魔女のギャップに戸惑う二匹のクマでしたが、すぐに気を取り直し『なぞなぞ』に取り組み始めました。
実はこの「なぞなぞ」は、魔女が盗難防止のために用意したもので、正解しないと木箱が開かない魔法の鍵の役割を果たしているのでした。
ヒグマとシロクマは一生懸命考えますが、どうしても答えを見つけることができません。
ふとベッドの方へ目をやると、魔女が苦しそうに浅い息を繰り返しています。
それを見るたびに「早くしないと」という焦りで胸が押しつぶされそうになり、ヒグマの額にはじわりと冷や汗がにじみました。
いつもならすぐに諦めてしまうヒグマとシロクマですが今日はそうはいきません。
今日の『紫の霧のペンダント』が欲しい理由はいつもとは違うのです。
揚げたてドーナツが食べたいからでも、世界最速ジェットコースターに乗りたいからでもありません。
「絶対に魔女を助けるんだ!」
そして、そんな強い思いが二匹のクマに奇跡をもたらします。
『チィーン』
それは、キッチンでヒグマが魔女のスープを温めるためにセットしたレンジの温め完了の合図でした。
そして、その音を聞いた瞬間から、ヒグマの頭がフル回転し始めました。
『レンジ……魔女のスープ』
『魔女のスープ……まずい』
『まずい……今はどうでもいい』
ヒグマが手を叩いて飛び上がりました。
「さっき日記ちゃんに魔女のおねえちゃんの結婚のところ読ませてもらったよね!
『おねえちゃんが毎日作ってくれていた美味しい魔女のスープがもう飲めなくなって、たくさん冷凍保存しておかなかったことをすごく後悔している』ってあったよね!」
シロクマも満面の笑顔でヒグマに抱きつきます。
「ヒグマ凄い!絶対にそれが正解だよ」
二匹のクマはいっせいに木箱に叫びました。
「答えは冷凍保存!」
すると木箱が勢いよくカタカタと震えだし、カチッと鍵の開く音がしました。
六十七回目の挑戦にしてついに、ぬいぐるみたちは『紫の霧のペンダント』を盗むことに成功したのでした。
「やった!」
二匹のクマはうれしくて思わず手を取り合って踊りました。
ヒグマは『紫の霧のペンダント』をそっと木箱から持ち上げ、首にかけました。
ふかふかの胸元に、石のひんやりとした重みがズッシリと伝わります。
ヒグマはそれをまじまじと見つめました。
吸い込まれそうな真っ黒な石の中を、紫の霧がまるで生きているかのように揺らいでいるのでした。
それからすぐにウサギとフクロウの乗ったダッチオーブンを改造したカートが到着しました。
ぬいぐるみたちは、ぎゅうぎゅうにダッチオーブンの中に収まり、蓋をちょこっと開けると、ウサギの運転で風を切って走り出しました。
元気いっぱいのぬいぐるみたちですが、どこか緊張している様子でした。
カートが少し進むと、魔女の図書館のそばの道の真ん中で、日記ちゃんがぬいぐるみたちを待っていました。
「本当にこの森を抜けるの?」
日記ちゃんの心配で消え入りそうな声にフクロウが答えました。
「理論上、間接的に『紫の霧のペンダント』に触れている限りは僕たちの命が消えてなくなることはないから大丈夫だよ。
つまり誰かがペンダントを身につけている状態でお互いの体の一部にでも触れている状態なら効果は有効だよ。
だから、絶対に手を離さないから安心して」
日記ちゃんはパタパタと地団駄を踏みました。
「そうだけど。一度普通のぬいぐるみになってしまえばもう二度と同じ記憶を持った自分には戻れない」
シロクマがもぞもぞと顔を出して言いました。
「日記ちゃんにおねがいがあるの。わたしたちが留守の間、魔女のそばにいてあげてほしいの」
日記ちゃんはとうとう泣き出してしまいました。
「私はみんなのように得意なことがあるわけじゃないし、一人じゃなんの役にも立たないよ!」
シロクマは「そんなことないよ」と優しく声をかけました。
「お話をするだけでいいの。
きっと魔女は安心するから。
魔女のことをこの世で一番知っているのは日記ちゃんだもん」
シロクマの言葉に日記ちゃんは小さく頷き、
「絶対に戻って来てね」
と言い残してパタパタと魔女の家のほうへと走っていきました。
ぬいぐるみたちの乗ったカートが進むにつれて、だんだんと紫の霧は濃くなっていきました。
きらきらと夕日に照らされて輝く紫の霧は本当に綺麗です。
ぬいぐるみたちは強く手を握り合いました。
この霧が晴れたら、いよいよそこは魔女の魔力の届かない人間の世界です。

