ホテルの鼻歌がよみがえらせた夏の記憶
今回は、のぞみんさんの企画に参加させていただきます。
夏の思い出。
私の小学校入学以来、我が家では夏休みには家族で旅行へ出かけていました。
その年も、恒例の旅行へ。
母から計画を聞かされて以来、まだか、まだかと、ものすごくワクワクしながら楽しみにしていた旅行。
ところが、台風の影響で行けなくなる可能性が出てきて、旅行までの数日間は待ち遠しくもヒヤヒヤしながら過ごしました。
当日は、そんな不安をはね返すような台風一過の見事な晴天。
意気揚々と出かけ、一泊二日の旅行を満喫しました。
ちょうど台風が通り過ぎたばかりだったこともあり、遊泳禁止ではありませんでしたが、海は少し波が高め。
溺れないよう父や母のそばで、押し寄せる波に合わせてジャンプするのが、とても楽しかったことを覚えています。
そんな楽しい旅行の帰り道、事件が起きました。
実家の最寄りの隣駅で乗り継ぎの電車を待っていた私の目に、突如、とんでもない文字が飛び込んできたのです。
新聞に載っていたのは、実家のそばを流れている川の名でした。
〇〇川決壊
ベンチに座って新聞を読むおじさん。
その一面には、見慣れた地元の川が決壊したことを知らせる大きな見出しが躍っていました。
まだ決壊の意味はわかりませんでしたが、写真を見れば、一目瞭然。
よく休日にはお弁当を持って、川べりへピクニックに出かけていた、私にとって一番身近で大好きな場所でした。
うちの家、水に浸かっていたらどうしよう。
旅行に出かけて、すっかり浮かれていた私ですが、崖から突き落とされたような一気に落ち込んだ気分になりました。
次の瞬間には、父の腕をつついて小声で話しかけていました。
「お父さん、あのベンチに座っているおじさんが読んでいる新聞に〇〇川の名前が書いてあるよ」
父が、おじさんの持つ新聞をチラチラ眺めました。
「本当だ、大変だ」
顔がひきつる父。
宿泊先にはテレビはありましたが、コインを入れて見るタイプ。
せっかく旅行に来たのだし、テレビを見ずにゆっくり過ごそうと、見ることもないままに1日を過ごしてきました。
それゆえ、ニュースから取り残されていたのです。
父の答えを待ちました。
「大丈夫だよ。電車は動いているし、うちの辺りではないよ」
父の言葉を信じたい気持ちと、まさかの妄想が重なり、すっかり心が冷え冷えしてしまいました。
乗るはずの電車を待つ時間は、おそろしく長かったようにも思いました。
ようやく乗るべき電車が来て、最寄駅に辿り着くと、駅前にはいつもと変わりない光景が広がっていて、ほっと胸を撫で下ろしました。
同時に、一段とあの決壊のニュースが気になりました。
家に帰り着いた後、夜のニュースを見て、ようやく詳細を理解することに。
ちょうど川の反対側辺りが水浸しになっている光景が映し出されました。
堤防は抉られ、道路は水浸し。
短時間で淡々と伝えられるニュースの映像からは、信じがたい光景ばかりが映りました。
こんなことになっちゃうなんて。
うちは大丈夫でよかった。
でも、たまたま運がよかっただけかもしれません。
もしかしたら、楽しく遊んでいた留守中に、我が家が水に浸かっていた可能性もなくはないと思った時、水の威力と怖さをしみじみ感じました。
すっかりショッキングな夏の思い出になってしまった出来事。
それでも思い返してみると、旅行そのものは本当に楽しかったのです。
宿泊先へ向かう道中では、弟と一緒にホテルの名前を延々と歌にしていました。
「〇〇〇〇パークホテル〜♪」
ただホテルの名前を繰り返しているだけなのに、それが妙に楽しかったのです。
今調べてみると、そのホテルはもう名前を変えたのか、跡形もなくなっていました。
けれど、私の記憶の中には、あの時のメロディが今もはっきりと残っています。
どうやら私は、当時から取るに足らない歌を作っては口ずさんでいたようです。
昔も今も、そのあたりはあまり変わっていません。
災害の怖さを知った夏。
そして、家族と笑いながら過ごした夏。
どちらも、私にとって忘れられない夏の思い出です。
自分の光を思い出すことや、自分本来に還ることとは、特別な何かになることではなく、昔から変わらず自分の中にあるものに、あらためて気づくことなのかもしれません。
のぞみんさんのおかげで、またひとつ大切な気づきに恵まれました。
今回も素敵な企画をありがとうございました。
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