そのプレスリリース、誰のために書いていますか?
プレスリリースを書くとき、多くの人は「伝えるべきこと」を丁寧に並べていく。事実関係を整理し、誤解のない表現を選び、抜け漏れがないように整える。それは正しい。けれど、その正しさが、結果として誰にも届かない文章を生むことがある。
なぜか。
その文章が、『誰のためのものか』を見失っているからだ。
リリースには、少なくとも三つの読者が存在する。
記者、エンドユーザー、そして社内の関係者。
それぞれが違う期待を持ち、違う視点で読む。問題は、そのすべてを同時に満たそうとした瞬間に起きる。
文章が、曖昧になるのだ。
記者に向けてはニュース性を、ユーザーに向けてはわかりやすさを、社内に向けては正確性と網羅性を。すべてを詰め込んだ結果、どの読者にも強く刺さらない文章が出来上がる。
これはよくある失敗だ。
たとえば、冒頭で「当社はこのたび…」と始まるリリース。
その時点で主語は企業に固定される。
だが、記者が知りたいのは「この情報が読者にとって何を意味するのか」であり、ユーザーが知りたいのは「自分にどんな影響があるのか」だ。
主語がズレたままでは、関心は動かない。
つまり、最初に決めるべきは「誰に読ませるか」だ。
ここでいう『誰』は、できるだけ具体的であるほどいい。
「働き方に悩んでいる30代の会社員」
「子育てと仕事の両立に課題を感じている人」
その一人に向けて書いた文章は、結果として多くの人に届く。
逆に、全員に向けた文章は、誰にも届かない。
もう一つの落とし穴は「社内向けの安心感」を優先してしまうことだ。
すべての情報を正確に載せる。関係部署に配慮する。誤解を生まないように補足を重ねる。その結果、文章はどんどん長くなり、焦点がぼやける。
読者にとって必要な情報よりも「社内的に問題がないかどうか」が優先されてしまう。
ここで問われるのは、覚悟だ。
誰に届けるのかを決めた瞬間、何を削るかも決まる。
すべてを語ることはできない。だからこそ、どの一文で読者の関心をつかむのか、その一点に集中する必要がある。
たとえば、同じサービスでも、「機能一覧」を並べるのか「生活がどう変わるか」を語るのかで、読み手の反応はまったく変わる。
前者は説明であり、後者は意味だ。人は説明では動かない。意味で動く。
そして、その意味は、読み手ごとに異なる。
記者にとっての意味と、ユーザーにとっての意味は違う。
そのどちらを優先するのか。あるいは、切り分けて別の形で届けるのか。この設計ができているかどうかで、リリースの精度は大きく変わる。
ここで一度、自分に問いかけてみる。
この文章は、誰のために書いているのか。
その問いに迷いがあるなら、文章にも迷いが残る。逆に、明確な答えがあれば、言葉は自然と絞られていく。
プレスリリースは、情報の羅列ではない。
『特定の誰か』に意味を『届ける』ための文章だ。
その前提に立ったとき、同じ事実でも、まったく違う言葉で語られ始める。
(加々本裕樹)
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