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FA/ロボットの特許勢力図 — Fanucの減速、Boschの急伸、中国大学の物量

シリーズ目次

  • 序章 切り口の全体地図

  • 第1回 7分野の出願トレンド

  • 第2回 AI/MLはどこに効くのか

  • 第3回 FA/ロボットの勢力図(本記事)

  • 第4回 プロセス制御の勢力図

  • 第5回 テック巨人の製造業侵攻

  • 第6回 日本の製造業15社

  • 第7回 特許の経済的価値

  • 第8回 半導体ファウンドリの特許地図

なぜFA/ロボットを掘り下げるのか

第2回で、FA/ロボットはGolden Zone——AI/ML浸透率が低く(3.5%)、しかし被引用ブーストが高い(×2.2〜2.7)——と判定された。被引用Top 1%のうち15.6%をML交差特許が占めるにもかかわらず、全体のML比率はわずか4.7%。

このギャップが意味するのは、FA/ロボットにAI/MLを投入した特許は少数だが際立って影響力が大きいということだ。では誰がそのML特許を持っているのか。誰が先行し、誰が遅れているのか。

BigQueryデータで、FA/ロボット分野のTop 40出願者と主要企業の10年間を分析する。


FA/ロボットのTop出願者 — 意外な顔ぶれ

FA/ロボット(B25J + G05B19/418)分野の出願ファミリー数上位40社を、ML交差率とともに示す。

順位 出願者 国 FA件数 ML件数 ML比率 1 Fanuc 日本 2,900* 129 4.4% 2 Gree Electric 中国 1,253 9 0.7% 3 LG Electronics 韓国 1,232 96 7.8% 4 Samsung Electronics 韓国 966 58 6.0% 5 Siemens ドイツ 966 88 9.1% 6 Seiko Epson 日本 824 6 0.7% 7 ABB スイス 793 28 3.5% 8 Kawasaki Heavy 日本 693 12 1.7% 9 浙江大学 中国 642 25 3.9% 10 ハルビン工業大学 中国 641 7 1.1% 11 清華大学 中国 624 23 3.7% 12 UBTech Robotics 中国 604 7 1.2% 13 State Grid (国家電網) 中国 590 4 0.7% 14 Omron 日本 588 38 6.5% 15 華南理工大学 中国 512 23 4.5% 16 華中科技大学 中国 477 17 3.6% 17 Haier 中国 466 2 0.4% 18 Boeing 米国 426 10 2.4% 19 燕山大学 中国 415 0 0.0% 20 KUKA ドイツ/中国 409 8 2.0%Mitsubishi Electric 日本 399 30 7.5%Bosch ドイツ 396 96 24.2% — Panasonic 日本 392 17 4.3% — Rockwell 米国 382 35 9.2% — Hitachi 日本 365 26 7.1% — Toyota 日本 362 22 6.1% — Sony 日本 339 38 11.2% — Canon 日本 341 13 3.8%

※ Fanucは「FANUC CORP」+「FANUC LTD」の合算。2015年以降のFA関連CPC出願

この表から4つの構造が見える。


構造① — 中国大学の物量

Top 40の中に中国の大学が8校入っている。浙江大学(642件)、ハルビン工大(641件)、清華大学(624件)、華南理工(512件)、華中科技(477件)、燕山大学(415件)、山東大学(387件)、上海交通大学(383件)。

これら8大学の合計は4,481件。Fanuc単体(2,900件)の1.5倍。

さらに注目すべきは、Gree(1,253件)、UBTech(604件)、国家電網(590件)、Haier(466件)、美的/KUKA(409件+美的394件)といった中国企業群だ。中国はFA/ロボット分野で大学+企業の総力戦を展開している。

ただし、ML比率は概して低い。Gree 0.7%、国家電網 0.7%、Haier 0.4%、燕山大学 0.0%。量は多いが、AI/MLとの融合は進んでいない。 「従来型主導」の出願パターンが色濃い。


構造② — ML比率で見る企業の真の競争力

FA件数のランキングとML比率のランキングは、まったく異なる風景を描く。

ML比率でソート:

  Bosch         24.2%  ████████████████████████
  Sony          11.2%  ███████████
  Rockwell       9.2%  █████████
  Siemens        9.1%  █████████
  LG             7.8%  ████████
  Mitsubishi E   7.5%  ████████
  Hitachi        7.1%  ███████
  Omron          6.5%  ███████
  Samsung        6.0%  ██████
  Toyota         6.1%  ██████
  Fanuc          4.4%  ████
  Panasonic      4.3%  ████
  Canon          3.8%  ████
  ABB            3.5%  ████
  Boeing         2.4%  ██
  KUKA           2.0%  ██
  Kawasaki       1.7%  ██
  Seiko Epson    0.7%  █

Boschの24.2%が異常値だ。 同社のFA特許の4件に1件がAI/MLと交差している。製造業のFA分野における「AI/MLカンパニー」宣言と読める。

Sonyの11.2%も特異だ。FA件数では339件と中位だが、ML比率では2位。イメージセンサー技術とAI/画像認識の交差が、FA分野でも明確に表れている。

日本の「FA伝統4社」(Fanuc、安川、川崎、セイコーエプソン)はいずれもML比率5%以下。 一方、Omron(6.5%)、三菱電機(7.5%)、日立(7.1%)はFA外のIT/AI技術を持つ企業であり、その差が特許に反映されている。


構造③ — Fanucの減速、Boschの急伸

年次推移が、最も衝撃的な構造変化を映し出す。

Fanuc — FA出願は減少、ML比率も低下

年     FA件数    ML件数   ML比率
──────────────────────────────
2015     204       3      1.5%
2016     319      12      3.8%
2017     429      28      6.5%  ← ピーク
2018     439      27      6.2%
2019     446      23      5.2%
2020     259      17      6.6%
2021     356      12      3.4%
2022     331      10      3.0%
2023     283       5      1.8%
2024     145       1      0.7%

FanucのFA出願は2019年の446件をピークに2024年は145件へ。ML件数は2017年の28件から2024年の1件へ。

2017年にML比率6.5%を記録した直後、比率が下がり始めている。Fanucは一度AI/MLに足を踏み入れたが、その後撤退したように見える。 これは経営判断としてのML非重視か、それとも出願戦略の変更(特許からノウハウへの移行)か。いずれにせよ、特許データが語るFanucの軌跡は、ピーク後の急減という典型的な「撤退パターン」を示している。

Bosch — ゼロから43%へ

年     FA件数    ML件数   ML比率
──────────────────────────────
2015      22       0      0.0%
2016      36       0      0.0%
2017      37       3      8.1%
2018      46       3      6.5%
2019      81      22     27.2%
2020      94      38     40.4%  ← ピーク
2021      92      40     43.5%
2022     112      41     36.6%
2023     109      25     22.9%
2024      48       7     14.6%

2017年にゼロだったBoschのFA×MLは、2021年に43.5%に達した。 4年間でFA出願の4割以上をAI/ML化した。FA出願の4割超をAI/ML化するという、他社に例を見ない集中度だ。

Boschの「FA参入」自体が2019年以降に本格化しており(2018年46件→2019年81件)、最初からAI/ML前提でFA特許を設計している。 既存のFA企業がMLを「後付け」するのとは根本的にアプローチが異なる。

ABBとKUKA — 対照的な10年

         ABB                    KUKA
年    FA件数  ML比率        FA件数  ML比率
─────────────────────────────────────────
2015    82    1.2%          158    0.0%
2017    80    2.5%          129    0.0%
2019   135    6.7%           91    1.1%
2021   173    6.4%           78    3.9%
2023   144    3.5%           76    2.6%

ABBはFA出願を82件→173件と倍増させ、ML比率も一時6.7%まで上昇。成長しながらAI化を進めている。

KUKAは逆だ。158件→76件と半減。2016年に美的集団に買収された後、出願ペースが明確に落ちている。ML比率は上がっているが(0%→2.6%)、絶対数で見ると微々たるものだ。


構造④ — FA × AI/MLの中身は何か

FA分野でAI/MLが適用されている具体的な技術を、G06Nの細分類で分解する。

          2015  2016  2017  2018  2019  2020  2021  2022  2023  2024
────────────────────────────────────────────────────────────────────
深層学習     42    94   203   293   488   585   540   567   550   632
汎用ML       27    55   126   191   342   407   404   387   328   259
知識ベース   20    31    58    91   141   129   134   114    88   123
確率モデル   12    22    30    43    89    74    63    57    46    39

深層学習(G06N3: ニューラルネットワーク)が2024年に632件で最大かつ唯一の成長分野。 汎用ML(G06N20)は2020年をピークに減少。知識ベース(G06N5)と確率モデル(G06N7)も同様。

FA × AIの特許戦場は、深層学習に一本化されつつある。 画像認識(外観検査、ピッキング)、強化学習(ロボット動作計画)、異常検知——いずれもディープラーニングベースの技術が従来手法を置き換えている。


技術サブ領域の企業別構成 — 「何を」特許化しているか

FA/ロボットのCPC細分類を企業別に見ると、各社の戦略的ポジションが浮かぶ。

企業 B25J9 制御 G05B19/418 FA制御 B25J13 センシング B25J15 グリッパ B25J19 付属 Fanuc 1,335 332 510 196 575 Siemens 360 868 51 31 62 KUKA 469 22 134 96 194 ABB 484 259 98 66 157 Omron 297 250 129 42 86 Bosch 235 129 48 38 40 三菱電機 146 231 63 21 41 安川 281 80 83 — 97

2つの全く異なるアプローチが見える。

ロボット本体型(Fanuc、KUKA、安川): B25J9(ロボットプログラム制御)が最大。ロボットの動作そのもの——軌道計画、速度制御、衝突回避——を特許化している。

FA制御型(Siemens、三菱電機、Omron): G05B19/418(工場の適応制御)が最大。ロボットではなく工場全体の制御ロジック——MES連携、生産スケジューリング、品質フィードバック——を特許化している。

Siemensの G05B19/418 = 868件は全企業で最大。 同社のFA戦略は「ロボットを作る」のではなく「ロボットを含む工場全体を制御する」ことにある。これはTotally Integrated Automation(TIA)/ Xcelerator戦略の知財面での表現だ。

ABBは両方に足を置く唯一の企業。 B25J9(484件)もG05B19/418(259件)も高水準で、ロボット本体と工場制御の両面を押さえている。


協働ロボット(cobot)— 量は伸びたが、AIはまだ入っていない

年     cobot件数    ML交差    ML比率
──────────────────────────────────
2015     214          1       0.5%
2017     480          2       0.4%
2019     619          8       1.3%
2021     685         13       1.9%
2023     738         13       1.8%

協働ロボット関連特許は214件→738件と3.4倍に成長。しかしML交差率はわずか1.8%。 FA全体の3.5%よりもさらに低い。

安全性(ISO/TS 15066準拠の力制限)と物理設計(軽量化、柔軟関節)が特許の中心であり、AI/MLは「あれば良い」レベルにとどまっている。cobotの特許競争は、まだハードウェアフェーズにある。


まとめ — FA/ロボットの特許地図が示す5つの事実

1. Fanucは出願数で首位だが、AI/MLで後退している 2017年にML比率6.5%を記録した後、2024年には0.7%。出願総数も半減。ピーク後の急減という「撤退パターン」に入るリスクがある。

2. BoschはFA×AI/MLの圧倒的リーダーになった ML比率24.2%は製造業のFA企業で断トツ。最初からAI前提でFA特許を設計する「デジタルネイティブFA」アプローチで、伝統的FA企業とは異なる土俵を作った。

3. 中国は大学+企業の総力戦でFAの「量」を支配している 8大学+家電/インフラ企業の合計は、Fanucの2倍以上。ただしML比率は概して低く、「従来型FA」の出願が大半。

4. SiemensとFanucは全く異なる領域を戦っている Siemens = 工場制御(G05B19/418)、Fanuc = ロボット本体(B25J9)。FA特許の「何」が全く違う。ABBだけが両方に足を置く。

5. FA × 深層学習が唯一の成長AI分野 汎用ML、知識ベース、確率モデルはいずれも減少。深層学習だけが2024年にも成長を続けている。FA × AIの競争は、深層学習の応用力で決まる。


データソース: Google Patents Public Dataset (BigQuery: patents-public-data.patents.publications)。2015年以降の出願を対象。CPC分類: B25J(マニピュレータ)+ G05B19/418(工場の適応制御)。AI/ML交差: G06N(機械学習)との共起

本シリーズは Markdown → HTML → note の流れで執筆・公開しています。特許データの取得には Google Patents Public Dataset(BigQuery)を使用し、分析・執筆には Claude Code を活用しました。

この記事は個人の見解であり、特定の企業・組織の見解を代表するものではありません。

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