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『ガール・ウィズ・ニードル』見る者を選ぶおぞましい映画だがあえて"必見"と書く

デンマークで起きた犯罪史に残る事件をベースにしているが、それ自体を主として描いてるのではなく、ストーリーはほぼフィクション。
ホラーと書いてた人もいたが「ホラー」ではない。
現実的でかなり精巧な「人間ドラマ」だと思う。
オフィシャル的には「ゴシックミステリー」。
(自分は映画のジャンル的にというより犯罪史にちょっと興味があって本作を見たかった、というのがある。記事後半にモデルとなった事件や類似してる事件なども載せてみたので興味あったら読んでみてください)


<ガール・ウィズ・ニードル(2025)>

監督:マグヌス・フォン・ホーン
出演:ビク・カルメン・ソンネ、ダウマトリーヌ・ディルホム

(鑑賞日 2025/5/17)

人の「悪意」だけを切り取ったような表情が入り乱れたコラージュ映像で始まる。
抑え気味の美しいモノクロ映像と、弦楽器の不協和音やクリックノイズ/電子音などが混在して狂気を煽る音楽が凄く好み。

おぞましさ、不潔な描写や不快な人達、エロさとグロテスク、暗鬱で狂気に満ち満ちた世界観ごった煮で、それに被弾し絡めとられる主人公カロリーネの行動や発言にも正直感情移入しにくい時間が続く。。
がそれは「極端な貧困と戦争の闇」が生みだした異常さで「まとも」が歪んでた時代性ゆえなのかもしれない。

彼女はある出会いや様々な経緯で「妊娠」する。
戦争から戻った顔を破壊された夫と、妊婦となったカロリーネのサーカスでの邂逅シーンがグロテスクさのハイライト。
(ここは目を背けたいほどおぞましいけど、ある意味美しい…)

凝視するカロリーネ

前半やや引き気味に見ざるを得なかったカロリーネだが、完全なる異常者ダウマの登場によって、その対比で彼女の「まともさ」や「良心」が滲みだし始める。
最初は親切な人として歩み寄るダウマだが、公衆浴場は獲物探しにずっと使っていたのかもしれない。

「正しい事をしたわね」
子供を預けに来た母親なりその知り合いにダウマが必ずかけていた言葉。
まるで呪いのようで…肥大しきって歪んだ精神性が空恐ろしい。。
口唇口蓋裂の赤子を「不要なもの」と表現するえげつなさ。

ダウマがカロリーネを身近に置きたかった理由が自分には今のとこやや不鮮明だが(単に手助けが欲しかったか同志を欲したか…)、生活の為とやや赤子に接する事に充実を見出したカロリーネは、エーテル(当時アルコールの代わりに飲用もされたが毒性の高い液体)を振舞われ母乳を振り絞る日々を続けながら、やがて踏み越えてはいけないところまで行かされてしまう…
決断を迫られたカロリーネの、悲しいが決然とした行動。

罪が明らかになったダウマが裁かれる法廷のシーンはかなり震えが来た。
ダウマの詭弁や申し開きにではなく、カロリーネとダウマが距離を置いて久々に対面する凄みのある緊張感に😱
ダウマはカロリーネに気づいても巻き込まない。
でもそれは「情」とかではなくサイコパスだからではないかな?

ダウマの詭弁に乗せられ、彼女の犯した行為が「必要悪」とか「そういう時代だったから止むを得ない」みたいなことを書いてる人もいるが…それは全然違うと思うな。
犯罪者が時代や環境のせいにしたりする他責思考はままある事。
ダウマに依存せざるを得ない社会状況があったというのはそうだし、今作でダウマの悪魔化表現が比較的希薄とはいえ、「罪の肯定」は厳密に違うしおかしな方向に飛躍してると思う。

ダウマとイレーナ

意外だったけど、今作は多少救いがあって曙光の差す終わり方をする。
カロリーネの最後の決断と行動は、自戒と贖罪でもありまた生き直しのきっかけでもあったろうし、「覚醒」した様子が伺える。
それにしても.…イレーナは何者だったのか?
(モデルとなったダグマー・オーヴァーバイは自分の子供も殺している)
なんにせよ、この終わり方は個人的に凄く良かったし着想に驚いた。

恐ろしくおぞましくえげつない衝撃的な描写がふんだんにあるが、極限の貧困やあの時代の空気感、当時の女性の虐げられ方や生き方を知って考えるきっかけにもなる上に、完成度が高くストーリーが実によく出来ているので、あえて「必見の名作」としておすすめしたい。


主演のヴィック・カーメン・ゾンネ(ヴィクトリア・カルメン・ソンネ)。
病み気味で老いやつれた印象の演技だったが、31歳の美人女優さん。
凄みのある力演だった👏

『MISS OSAKA』より

<ダグマー・オーヴァーバイと、それと酷似したケース>

さて、ダウマのモデルとなったダグマー・オーヴァーバイ("ダウマ・オウアビュー"の英語読みだが)にも触れてみる。

ダグマー・オーヴァーバイ(ダグマー・オーヴァービーとも) (1887 - 1929)

↑この記事には、イギリスのアメリア・ダイアー、ニュージーランドのミニー・ディーンという似たような事件を起こした人間がダグマー以前にもいる事が書かれている。(記事中のリンクから辿れます)

これ以外にも下記リンクの「ベイビー・ファーム」という項を辿ると、同種の犯罪者がまだまだいる事が確認できる。

ダグマーに関してはビジネス(お金目当て)という側面もあったのかもしれないが、(里子の仲介業ではなく自分自身が里親だった)アメリア・ダイアー同様「快楽殺人者」だった可能性が強い
映画ではややボヤっとしてるが、金に強く執着してるような表現もそこまでない。

<寿産院事件や、その他の日本のケース>

日本でも預かった嬰児を多数死に追い込んだ事件がある。
1948年に発覚した「寿産院事件」。

里子の仲介と助産院という違い、積極的な殺害と放置死という違いはあるし時期も違うが、ダグマーが事件を起こしたのは第一次大戦末期から終戦後。寿産院事件は第二次大戦直後。世の中に貧しさが蔓延し、戦時中の閉塞感の最中や戦争の後遺症状態の頃に起きた事件である事は共通している。

後に似たケースが次々と判明する。

新宿区戸塚の淀橋産院より63人の死亡届が出ていて、13,000円で子供を預けた女性がいた事などが明らかとなった。更に17日には文京区春木町の長谷川産院、23日には文京区上富士町の駒込橋産院と、同様の事件が次々に発覚し、東京地検が受理した数は年内に(寿産院を含め)12件に上った。加えて、大阪市でも同様の事件が発覚した。

寿産院事件 - Wikipedia

ダグマーの事件のあとデンマークでは、そして寿産院事件のあと日本では制度や法律が変わった
その意味でもこの二件は歴史を変えるきっかけになった事件。
デンマークでは国民が番号で管理され身分証明を行うようになり失踪が少なくなったとの事。

貰い子や里子が増えた背景として、女性の立場の低さや、貧困層の性や妊娠に対する知識やモラルの低さの一方、人口中絶が「違法」という今より厳しい時代だった事などが指摘されている。

日本でも「寿産院事件」以外に貰い子殺人は事あるごとに起きている。
以下のリンク参照。
「愛知貰い子殺人事件」は被害者の数も突き抜けていて、「日露戦争時には夫が出征・死亡するなどして未亡人となった女性の子供が犠牲となった」とある通り戦争の影響や時代性などデティールも似通っている。


<佐清やエレファント・マンの世界観!?>

カロリーネのぺーターのキャラクター造形で、「"犬神家の一族"の佐清の醸し出す恐ろしさって世界共通なんだな」と思ったこともおまけとして付け加えておく。
自分は無知だけど、戦後の帰還兵を扱った洋画なんかでこの手のグロテスク描写が出てくる作品あるのかもしれないな。。

ぺーター
『犬神家の一族』

戦争物ではないが、容姿の恐ろしさで身構えさせてからさらに人物像を掘っていくという構造で言うと、デヴィッドリンチの「エレファント・マン」に少し似たテイストはあるかも。
「見世物小屋」が出てくるのまそうだし暗鬱とした空気感や映像の温度も近い。

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