役者に泥をかぶせるテレビ局と、現場に責任を丸投げする介護施設の共通点
俳優の佐藤二朗さんと橋本愛さんのハラスメント報道が、連日大きな波紋を広げています。
フジテレビは外部弁護士を交えた調査のうえ、佐藤さんに「厳重注意処分」を下したと公式に発表しました。
しかし、ネットやSNSでは「一番悪いのは、間に入って調整しなかったテレビ局(プロデューサー)だろう」と、局側の対応に対して激しい批判が殺到しています。
この一連のニュースを見たとき、私は「これは介護現場で毎日のように起きている、あの理不尽な構造と全く同じだ」と、胸が締め付けられるような思いがしました。
今回は、この芸能界の騒動を反面教師にしながら、介護業界の悪しき縮図である
組織のマネジメント不全と、現場への責任転嫁
について考えてみたいと思います。
致命的な「情報共有の漏れ」が悲劇を生む
今回のトラブルの根本にあるのは、きわめてシンプルな「伝達ミス」です。
報道によると、橋本さん側には事前に「身体接触に関する仕事上の制約(NGルール)」があったとされています。しかし、現場を管理するプロデューサーは、その重要なルールを主演の佐藤さんに事前に伝えていませんでした。
これ、介護の現場に置き換えると、完全に「あるある」ではないでしょうか。
ケアマネジャーや生活相談員が、利用者やご家族から「こういう対応はしないでほしい」「強いこだわりがある」という重要な新規情報を預かっていた。
にもかかわらず、それを現場の夜勤スタッフやフロアリーダーに申し送り忘れていた。
現場の人間は、いつも通りの良かれと思ったケア(演技)をしただけです。情報が遮断されているのだから、すれ違いやトラブル(事故)が起きるのは当たり前です。すべての原因は、間をつなぐべき組織(中間管理職・法人)のポカから始まっています。
システムのエラーを「個人の資質(ハラスメント)」にすり替える理不尽
本当に恐ろしいのは、トラブルが起きた後の「組織の態度」です。
フジテレビは、自分たちの伝達・管理ミスという大失態を棚に上げ、「佐藤二朗の楽屋での言葉遣いがハラスメントにあたる」として、彼にだけペナルティ(厳重注意)を科してトカゲの尻尾切りを行いました。自分たちはクリーンで厳正な立場であるかのように振る舞ったのです。
この**「システムのエラーを、現場職員個人の資質やハラスメント問題にすり替える」**という手法もまた、一部の介護施設で本当によく見られる光景です。
事前のリスク管理やルール共有を怠ったせいで、現場で利用者と職員の衝突が起きてしまったとき、施設の上層部はこう言いはなちます。
「あの職員のコミュニケーション能力が低いからだ」
「接遇意識が足りないからトラブルになるんだ」
そして、環境の不備やオペレーションのミスには一切触れず、現場の職員個人に始末書を書かせたり、責任を押し付けたりして幕引きを図ろうとします。
佐藤二朗さんがSNSで「あまりの理不尽さに何度も降板を申し出ていた」と激しい悔しさを滲ませていましたが、この孤立無援の絶望感は、組織に裏切られた現場の優秀な介護職の心の叫びそのものです。
現場を守らない組織に、未来はない
今回の騒動の本質は、役者個人のハラスメント問題ではなく、「マネジメント側の機能不全」です。
事前に適切な情報共有さえしていれば、2人のプロの役者がここまで深く傷つき、キャリアを脅かされるような事態にはならなかったはずです。
介護の世界でも全く同じです。
汗を流して最前線で働くスタッフを盾にして、いざ問題が起きたら自分たちだけ泥をかぶらずに逃げる。そんな施設は、どれだけ立派な理念を掲げていても、現場の信頼を失い、いずれ崩壊(崩壊を待たずとも一斉離職)します。
「相手を責める前に、まず自分たちが伝えるべきことを伝えていたか?」
「現場が安全に動ける環境を整えていたか?」
テレビ局の冷酷な対応を反面教師として、私たち介護業界も、情報共有の重要性と**「組織が現場の人間を徹底的に守る姿勢」**の価値を、今一度見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
