見出し画像

認知症進行予防のためにデイサービスだからできること〜社会脳のレジリエンス〜

私は今、3歳の子どもを育てていますが、
作業療法士として得た「知識」や身に着けた「観察力」は現在の仕事だけでなく、目の前の子育てにおいても、とにかく役立っていると実感する武器になっています。

それもそのはず。
発達学もカリキュラムとして組み込まれ、国家試験における個人的加点項目の一つが「発達分野」だったのですから。

そんな私が、どんなに忙しくても、子育ての要点として
死守していることが4つあります。
「寝る」「食べる」「日を浴びる」、そして「愛着形成~社会脳の育成」

授乳するときは、アプリで授乳時間計測を開始したそのまま、SNSを見たい気持ちを抑え、とにかく歯並びのための授乳姿勢と愛着形成のために子どもと目を合わせることを大切にしていたのは良い思い出です。

いつか予期せずやってくる「うるせぇー!BBA」と言われる日に備えながら(備えは大事)
今はひたすら、子供に愛をささやき、心の貯金を貯めている毎日です。


さて、なぜ この「4番目の愛着形成~社会脳の育成」に力を注いだのか。

実はここが、子どもが将来「社会の中でしなやかに生きていく力」の根っこになるからであり、高齢者になってからも大きな影響を受ける土台作りが赤ちゃんから、はじまっていると感じているからなのです。
0歳から100歳まで関係している「社会脳」
今日は発達からみる「社会脳」をテーマにしてみたいと思いました。

1. すべての土壌は「愛着」という安心感から
社会脳の「はじまりのスイッチ」は、生後まもない頃の愛着形成(アタッチメント)です。
赤ちゃんが泣いたとき、誰かが駆けつけ、抱きしめてくれる。この「自分の発信に世界が応えてくれる」という実感が、脳の奥深くにある「安心の基地」を作ります。
• なぜこれが大事なのか?
脳は不安を感じている状態では、他者の意図を汲み取ったり、協力したりする「高度な社会機能」を働かせることができません。愛着は、社会脳が正常に起動するための「OS(基本ソフト)」をインストールする作業なのです。

2. 遊びという名の「脳内トレーニング」
OSが安定すると、子供は「遊び」というシミュレーション活動を開始します。ここでのステップは、驚くほど精密に社会脳を鍛え上げていきます。
① 一人遊び:自己の確立
 まずは自分の手足やおもちゃを使い、「自分が動けば、世界が変わる」という万能感を味わいます。これは、集団の中で「自分という個」を見失わないための基礎体力になります。
② 並行遊び:他者の受容
 隣で別の子供が遊んでいる。直接関わりはしないけれど、その存在を許容する。これは、満員電車やカフェなど、現代社会で不可欠な「他者との適度な距離感」を学ぶ初期段階です。
③ ごっこ遊び:社会脳のブレイクスルー
 「私はお医者さん、あなたは患者さんね」というごっこ遊びは、社会脳の成長において最大のハイライトです。
• 他者視点の獲得: 自分以外の人間がどう考え、どう感じるかを想像する。
• 役割の遂行: その役割にふさわしい振る舞いを選択する。
この時期、脳の前頭前野はフル回転し、「自分と他者の境界線」を引きながらも「イメージを共有する」という高度な処理を覚えます。
④ 協同遊び:集団のダイナミズム
 最後に、共通の目的(砂山を作る、鬼ごっこをする)のために、ルールを守り、時には自分の欲求を抑えることを学びます。ここで、「個の欲求」よりも「集団の利益」を優先するという社会的な知性が完成します。

3. 高齢期における社会脳の「レジリエンス」
さて、ここからが非常に興味深い点です。
加齢や認知症によって、記憶力(エピソード記憶)や計算力(論理的思考)が低下しても、この「社会脳」の回路は最後まで守られやすいという特徴があります。

認知症でも「愛着」は生きている
認知症が進行し、家族の顔や名前を忘れてしまったとしても、「この人は私を大切にしてくれる(安心できる)」という情緒的な愛着は、脳の深い部分で機能し続けます。介護において「信頼関係(ラポール)」が何よりも優先されるのは、その方の社会脳がまだ「安心の基地」を求めているからです。

高齢者の「並行遊び」と「役割」
デイサービスなどで、他者と積極的に話さずとも、同じ空間で編み物をしたり新聞を読んだりしている空間を私たちは「パラレルな場」と呼びますが、高齢者のそういった姿は、子供の「並行遊び」に通じるものがあります。

無理に会話をしなくても、そこに他者がいて、緩やかにつながっている。
それだけで社会脳は刺激され、孤独による脳の萎縮を防ぐブレーキになります。
また、かつての職業に基づいた「役割」を担う(例:元大工さんが棚を直す、元教師が教える)ことは、脳にとって最高のリハビリです。
ごっこ遊びで培った「役割を演じる回路」が再起動し、生きる意欲を呼び起こすのです。

4. 結び:世代を超えて響き合う社会脳
子供が遊びを通じて社会脳を「獲得」していくプロセスと、高齢者が社会交流を通じて社会脳を「維持」していくプロセスは、実は地続きです。

社会脳とは、単なる「スキルの集まり」ではなく、「誰かと共に生きるための生命力」そのものです。

愛着に始まり、遊びで磨かれ、最後はまた安心できるつながりの中へ。
私たちは一生を通じて、誰かという「鏡」の中に自分を見出しながら、
脳を育み続けていくのです。


いいなと思ったら応援しよう!