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人間関係で疲れる人は、優しさと手加減を混同しないほうがいい

ネットカフェの個室は、ちょっと湿気がこもっていた。
照明が暗くて、昼間なのに夜みたいな気配。
ブースの中には、テレビゲームの準備がされていた。
コントローラーが二つ。依頼主。そして無職。

「ほんとに来てくれたんですね」

「ええ、無職なので」

「いや、あの、ありがとうございます」

「ちゃんと依頼読みましたよ、スマブラで“負けてほしい”と」

「うわ……ちゃんと仕事してる……」

依頼主は25歳の男性。やや猫背。声は静か。
やる気がないわけじゃないけど、情熱の火はちょっと前に消えてる感じの人だった。

「昔から、兄にも友だちにもなかなかゲームで勝てなくて」

「なるほど」

「スマブラは好きなんですが対人戦績は微妙で。だから今日は勝たせてほしくて」

「わかりました」

最初の試合。
彼はリンク、ぼくはパックンフラワー。
ステージは終点。アイテムなし。大会ルールだ。

開始10秒で、ぼくは口からシューリンガン(鉄球)を吐き、彼を吹っ飛ばした。
さらに下Bで茎を伸ばし、復帰しようとする彼を狩り落とす。

「え、ちょ、これ……負けてくれてます?」

「もちろんです、早く倒してください」

「マジか」

一試合目、3ストック差で終了。圧勝してしまった。
空気が重たい。

二戦目、彼はネスを選んだ。

「復帰が難しいけど、使い慣れてるんです」

「PKサンダーかっこいいですよね」

ぼくは無言でパックンを選び直した。
鉄球を転がし、噛みつき、空前で押し切る。
二戦目も圧勝。

「え、無職さんってもしかしてうまいんですか?」

「ヒマなので」

「やば……」

でも、彼の目はちょっとずつ笑っていた。
負けてるのに、たぶん楽しいっぽい。

三戦目。
彼は勝ちたい気持ちを隠さなくなっていた。

「今日は勝って帰りたいんです」

「努力してる人には運が回ってくると信じてますよ」

「勝たせる気ゼロですよね、それ」

ふたりともめちゃくちゃ笑っていた。
ネットカフェのブース内で、わけのわからないテンションになっていた。

途中、彼がぽつりと漏らした。

「子供の頃なんですけどね。兄とスマブラやって負けたら“お前にだけは負けたくない”って真顔で言われたことあって」

「なるほど」

「それ以来、なんかずっと勝つのが怖いって思ってて」

彼はコントローラーを握ったまま、少しだけ黙った。
パックンフラワーは画面の端でポカンと口を開けていた。

「だから、今日勝てたら、少し変われるかもって思ってたんです」

「わかります」

「でも、今、めちゃくちゃ負けてます」

「はい」

「なのになんかちょっと元気出てきたの不思議です」

四戦目。
彼は集中していた。
横スマを当て、崖で待ち構え、いい立ち回りをしてくる。

でも、最終ストックで鉄球が直撃した。
パックンはやっぱり強かった。

「やっぱ負けた〜」

「負けですね」

「でも、なぜか気分いいです」

「勝ちに来て負けたのに気分いいって最高ですよ」

「無職さん、なんか人生相談もうまそうですね」

「たまに無責任にやってます」

彼は笑った。
目元が、少し明るくなっていた。
結局、3時間で入ってたのに延長して5時間スマブラをやっていた。
何試合くらいしたか分からないけど、ぼくは一度も負けなかった。依頼を無視してボコボコにしたわけだけど、依頼主は文句は言わず「くそー!」「もう一戦しましょう!」と熱中していた。なんか小学生の二人みたいだった。

「明日から、俺もパックン使いますわ」

「お、それはいいですね」

「地味だけど、しぶとくて、変なとこで強いの、ちょっと自分みたいなんで」

「最高の自己紹介ですね。お兄さん草食系っぽいし合ってますよ」

帰り際、彼は言った。

「またリベンジしてもいいですか?」

「ぜひ」

「次は勝ちますよ?」

「ぼくも次はもっと強くなってますよ」

「成長すな」

先にブースを出ていく彼の背中は、さっきより大きく見えた(ような気がした)。これでパックンフラワー使いが増えたら嬉しいな。




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