砂のジェットコースター——サハラ・シワの4WD【海外での記憶#11|エジプト編-07】
楽しい、静か、そして止まっている。

砂の入口

サハラ砂漠、
シワの入口には関所があった。
パスポートと車両ナンバーを控えられる。
登山の入山届みたいだ。
ここでは、
まず帰る準備をしてから行く。

街を抜けても、しばらくは舗装道路。
けれど路肩から砂が道路へせり出してくる。
前方に砂丘の線が見えた。
すると、砂漠専門ドライバーがタイヤの空気を少し抜く。
「シュー」という長い音。
砂で空転しにくくするためだ。
タイヤの空気圧を下げ、接地面を広げる。
いよいよ、
気持ちが一段ギアアップした。

ついに入った。
サハラ砂漠。
興奮が鳴りやまない。
道は消え、前は砂と空だけ。
ここはサハラの大砂丘帯、Great Sand Sea の縁。
リビア国境まではおよそ50km。
自分が運転なら確実に迷う。
砂漠専門ドライバーが頼りになる。
だが凄さは、道に迷わないだけじゃなかった。

想定以上に起伏の激しい砂漠。
ドライバーテクニックが試される。
最初の登りで、
運転手は一度だけアクセルを緩め、
すっと踏み直し、稜線の少し手前で力を抜いた。
体がふわっと浮き、
次の瞬間には稜線の上にぴたり。
そして一気に駆け降りる。
まるでジェットコースター。
——ためて行き、稜線で抜き、一気に下る。
砂漠専門ドライバーだからこそ、
このリズムで何度も遊んでくれる。
もう最高。心が満たされる。
緑と水の点

途中、緑と水の点が現れる。
車を止めた。
根元まで砂に埋まったヤシの横に、
小さな水たまりと葦(あし)の帯。
自然にできた
むき出しのオアシスだ。

水際には塩の白い縁が続いていた。
乾いたところはパリッと割れ、触るとザラザラ。
葦がカサカサ鳴り、雲の影がゆっくり動く。
風が弱いと水面は鏡みたいに止まる。
塩湖のミニ版のように見えた。

「BIR WAHED AREA」の標識の先に、丸い湧き水。
手を入れると温かい。
観光客の中には水着で入る人もいるらしい。
運転手は顔を洗った。
私もまねして洗う。気持ちいい。
ポコポコと湧く音が小さく続く。

遠くからは泥色に見えるけれど、
近くでは、
透明な水が流れ出していた。
火山の湯ではなく、
深い地下から湧くあったかい水。
赤茶なのは、土と鉄分が沈んだ色。
手のひらをくぐらせると、すっと軽い。
少しだけ鉄分のにおいがした。

散策の途中、小さな実がなっている木を見つけた。
運転手が実をもぎ取って、
まず自分が食べ、それから私に渡した。
さっぱりした甘さ。
皮は薄く、シャリっとする。
デーツの房ではなくナツメ(ナブク)の実。
すぐそばを
小さなトカゲが砂の上を走り抜けた。
生き物がちゃんといる。
私も生きている——冗談だけど、ちょっとそう思った。
砂の記憶と静けさ

再び少し走ると、
風で削られた岩がいくつも立つエリアにとまった。
砂をかき分けると、
指先にざらっと当たった。
白い貝のかけら。
ひとつ拾って掌にのせる。
ここが昔、海だった。
——その実感が手の温度で近くなる。

砂漠は一様ではない。
いろいろな顔を見せてくれる。
手のひらにすくった砂漠の砂もそう。
すくった砂は米粒よりずっと小さな丸い粒。
琥珀色、乳白色、黒色とさまざま。
場所が変わると粒の大きさも色も少しずつ違い、
手ざわりも変わる。
——砂漠は一色じゃない。

サンドボードで遊んだ後、
焚火のそばで、
砂糖強めのエジプトティーを飲む。
湯気がゆっくり上がる。
ときどき風が吹き、砂が小さく鳴る。
時間がふっとゆるむ。
風の音。
砂の音。
静かに大きな景色の中へ沈む感覚。

広さだけが残り、心拍がゆっくり落ちる。
影が伸び、砂の跡が少しずつ消える。
ここでは、
時間は時計じゃなく、空間は地図じゃない。
まざり合った「いま」が長く続く。
初めてのサハラの驚き。
プロのドライビング。
湧き水の温かさ。
実の甘さ。
砂の音。
貝のかけらが「ここは昔、海だった」と教える。
風が少し冷え、湯気が揺れる。
楽しい、静か、そして止まっている。
サハラで見たのは、このやさしいリズムだった。
すべてにありがとう。
海外での記憶
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#00|目次:エジプト編 /カンボジア編/ラオス編/ミャンマー編
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