花びらを/掌編
花びらを重ねると、月まで届いた。
そんなわけないだろって、笑ってたけど。
あのときはちゃんと信じてた。
月には届いた。
でも、あいつには届かなかった。
「重ね方が悪いんじゃない?」
あいつは真顔で言った。
「どう重ねても同じだろ」
「いや、順番とかあるかもしれないし」
花びらに順番なんてあるのかよ。
あいつは、そういうことを本気で考えるやつだった。
「じゃあ、お前がやってみろよ」
そう言うと、
あいつは一枚ずつ、やけに丁寧に重ね始めた。
風が吹いて、半分くらい飛んだ。
「あ」
「あ、じゃないだろ」
「今のはノーカウント」
そんなルールもいつの間にか決まっていた。
あいつといると、
だいたいのことはあとから決まる。
それでも、ちゃんと成立していた。
不思議なくらい。
あの日も、たぶんそうだった。
ちゃんと何かが決まっていたはずなのに。
その肝心なところだけ思い出せない。
花びらは、最後まで重ならなかった。
月も、少し遠かった。
あいつは笑っていた。
「届くといいな」
そう言ったのは、どっちだっけ。
忘れちゃった。
たぶん、どっちでも。
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