【辺野古ボート転覆事故】ご遺族会見の「質問」を考える 第4回 AIは遺族会見の質問を改善できるか
本シリーズは、質問した記者個人を非難するためのものではありません。記者の意図を推測するものでもありません。
ただし、個人を責めないことと、質問の問題点を曖昧にすることは別です。公開された質疑応答をもとに、その質問は会見の目的に沿っていたのか、新しい事実を明らかにしたのか、ご遺族に負わせた負担に見合うものだったのかを考えます。
ご両親が誠実に答えてくださったからこそ、私たちは多くのことを知ることができました。しかし、答えてくださったことが、その質問をしてよかったことを意味するわけではありません。
17の質疑応答を整理して見えてきたこと
第0回では、武石知華さんのご両親による記者会見について、17の質問者との質疑応答を整理しました。
会見の目的に沿って、重要な事実を明らかにした質問がありました。
一方で、事故原因や責任の所在ではなく、ご両親の私的な悲しみに踏み込んだ質問もありました。ご遺族のnoteや会見中の回答ですでに説明されていたことを、改めて尋ねた場面もありました。一人の記者が、精神的にも法的にも重い質問を、いくつも続けて投げかけた場面もあります。
会見を聞いていると、それぞれの質問に違和感を覚えることはできます。
しかし、1時間を超える会見の全体を振り返り、
誰が何を質問したのか
どの質問が重複していたのか
ご遺族がnoteですでに語っていたことは何か
質問によって新たに明らかになったことは何か
会見の目的から離れた質問はなかったか
を人の手だけで整理するには、かなりの時間がかかります。
こうした作業に、AIを活用できないでしょうか。
私自身、この整理にAIを使った
このシリーズを作るにあたり、私は会見の質疑応答をAIに読み込ませ、質問者ごとに「質問の要旨」「回答の要旨」「確認できたこと」を整理しました。
その結果、長時間の会見を俯瞰して見ることができました。
事故原因や安全管理を掘り下げた質問。
刑事告訴の法的な意味を明らかにした質問。
すでにnoteで語られていた内容と重なる質問。
ご両親の私生活や悲嘆に踏み込んだ質問。
一度の発言で複数の論点を重ねた質問。
これらが並んだことで、会見を聞いている時に感じた違和感が、どこから生じたものなのかが見えてきました。
ただし、AIが最初に問題を見つけたわけではありません。
会見を聞いて、「今の質問は、ご両親に聞くことなのだろうか」と感じたのは私です。AIは、その違和感を質疑応答全体と照らし合わせ、言葉にして整理する役割を果たしました。
人が違和感を覚え、AIが全体を整理し、人がもう一度判断する。
今回の作業は、そのような往復でした。
会見前にできること
AIが最も役立つのは、会見が始まる前だと思います。
ご遺族のnote、事故調査報告書、学校や行政の公表資料、過去の報道など、公開されている資料をAIに整理させれば、短時間で次のような一覧を作ることができます。
すでに確認されている事実
ご遺族がすでに説明していること
資料によって内容が異なること
まだ明らかになっていないこと
刑事告訴によって新たに確認すべきこと
ご遺族以外へ質問するべきこと
心理的な負担が大きいと考えられる質問
これを踏まえて質問を考えれば、すでに公表された内容を最初から語ってもらうのではなく、その先を尋ねることができます。
たとえば、
知華さんはどのような娘でしたか。
と尋ねる代わりに、
noteでは、知華さんが学校や先生を大切にしていたことを繰り返し書かれています。そのことが、教員を告訴するまでの葛藤にどうつながったのでしょうか。
と聞くことができます。
公開資料を整理することによって、質問を減らすだけでなく、より深い質問へ変えることができます。
質問を事前に点検する
記者が考えた質問案をAIに読み込ませ、質問する前に点検することもできます。
確認する項目は、それほど複雑ではありません。
会見の目的に沿っているか
新しい事実や考えを明らかにできるか
公開資料ですでに回答されていないか
本人に直接聞く必要があるか
私生活へ過度に踏み込んでいないか
悲嘆を不必要に再体験させる可能性はないか
一つの発言に複数の質問が含まれていないか
より負担の少ない聞き方に変えられないか
今回の会見に出た質問を、この観点からAIに確認させれば、たとえば次のように整理できます。
学校と協議会は、何をしていれば事故を防げたか
会見の目的との関連性は高く、新たな事実やご遺族の考えを明らかにする質問です。事故原因と再発防止につながり、ご遺族へ不必要に私生活を語らせるものでもありません。
亡くなった娘に何と声をかけたいか
心理的負担が非常に大きい一方、事故原因、刑事責任、再発防止について新たに明らかになる内容はほとんどありません。質問によって得られる公益と、ご遺族に負わせる負担が釣り合っているか、再検討が必要です。
月命日をどのように過ごしているか
ご家族の私生活への踏み込みが大きく、告訴会見の目的との関係は弱い質問です。ご遺族が自ら語る場合を除き、公の場で尋ねる必要性を慎重に判断する必要があります。
協議会への返信が約3週間止まっているのはなぜか
やり取りが継続中かどうかを確認する意味はあります。しかし、返信が遅れている理由を遺族へ追及する公益性は高くありません。
AIが出した評価をそのまま採用する必要はありません。
それでも、質問を発する前に「本当にこれを聞く必要があるか」と立ち止まるための材料にはなります。
会見中の重複も確認できる
会見中にもAIを活用できます。
音声をリアルタイムで文字に起こし、これまでに出た質問と回答を整理すれば、
その質問にはすでに回答がある
同じ内容がご遺族のnoteに書かれている
新たに確認したい部分だけに絞ることができる
一度の発言に三つの質問が含まれている
ご遺族が回答を控えた内容への再質問になっている
といったことを、その場で確認できます。
司会者も、
その点については、先ほど回答がありました。未回答の部分に絞ってください。
質問は一問にしてください。
ご家族の私生活に関する内容ですので、回答は任意とします。
と整理しやすくなります。
今回、映像の入手経路について、ご遺族が回答を控えた後に、さらに入手先を推測するような質問が出ました。弁護士が制止し、「遺族提供」として扱ってほしいと説明しています。
回答を控える意思が示された内容について、どこまで再質問するのか。AIによる記録があれば、直前の回答を正確に確認したうえで判断できます。
一人一問を支えるためにも使える
今回の会見では、一人の記者が複数の質問をまとめて投げかける場面がありました。
質問する側には、限られた機会にできるだけ多くのことを確認したい事情があるのだと思います。
しかし、答える側は、娘を亡くしてからまだ4カ月余りのご両親です。つらい記憶をたどりながら、法的な影響や学校、生徒への影響にも配慮し、複数の質問を整理して答えなければなりません。
AIに質問文を確認させれば、
この発言には、誹謗中傷、民事訴訟、協議会との交渉、謝罪の4項目が含まれています。
と分割できます。
そのうえで、会見の目的との関連性が最も高い一問を選び、残りは別の機会に回すことができます。
一人一問は、記者の取材を妨げるための制限ではありません。
ご遺族が一つの質問に落ち着いて答えられるようにするための配慮です。そして、他の記者にも質問の機会を確保することにつながります。
AIは、共感の代わりにはならない
ここまで書くと、AIに質問の適否を判断させればよいように見えるかもしれません。
しかし、AIだけに判断を任せることはできません。
AIは、文章の重複を見つけたり、質問を分類したり、心理的負担の可能性を指摘したりすることはできます。
一方で、会見場の空気をそのまま感じることはできません。
ご両親の声の震え、言葉を探す時間、質問を受けた瞬間の戸惑い、隣にいる夫婦が互いを支える様子。
そうしたものを見て、「これ以上は聞かない方がよい」と判断するのは、会見場にいる人間です。
AIが「質問可能」と判定したとしても、目の前の相手が苦しんでいるなら、質問をやめなければなりません。
AIは共感性の代用品ではありません。
むしろ、資料整理や重複確認をAIに任せることによって、記者が目の前の人を見る余裕をつくる。そのように使うべきものだと思います。
AIにも誤りがある
AIを使う際には、注意も必要です。
AIは、資料に書かれていないことを推測したり、異なる発言を一つにまとめたり、発言者を取り違えたりすることがあります。
したがって、
AIの要約は必ず元資料と照合する
発言の引用は原文で確認する
事実と推測を分ける
公開されていない個人情報を安易に入力しない
最終的な質問は記者と編集者が判断する
という手順が必要です。
特に被害者や遺族に関する情報は慎重に扱わなければなりません。AIを使うことによって、別のプライバシー侵害を生んでは意味がありません。
AIは正解を決める装置ではなく、見落としや重複を減らす補助者として使うのが適切です。
厳しい質問を弱めるためではない
AIで質問を点検することについて、「記者の質問を無難なものにしてしまうのではないか」という懸念もあると思います。
しかし、必要な質問まで柔らかくする必要はありません。
学校は、なぜ下見をしなかったのか。
なぜ安全の打ち合わせをしなかったのか。
なぜ引率教員は船に乗らなかったのか。
過去の乗船で危険を感じた生徒がいたのに、なぜ改善しなかったのか。
事故後、ご遺族や生徒へ何を説明したのか。
こうした質問は、学校、学校法人、協議会、行政に厳しく向けるべきです。
AIによる点検は、責任追及を弱めるためのものではありません。
誰に、何を問うべきかを、より明確にするためのものです。
組織や責任者に向けるべき厳しい質問を、ご遺族へ向けない。
ご遺族から悲しみを引き出すことに時間を使うのではなく、事故を生んだ構造を明らかにすることへ取材の力を向ける。
そのためにも、資料整理や質問の選別にAIを使う意味があります。
質問する前に、一度立ち止まる
AIがあれば、すべての問題が解決するわけではありません。
今回の会見で問題に感じた質問の多くは、AIがなくても、少し立ち止まれば考えることができたはずです。
ご遺族のnoteを読む。
会見の目的を確認する。
前の回答をよく聞く。
一度にいくつもの質問をしない。
答えを控えたことは、それ以上追わない。
悲しみを語らせることより、事故の原因と責任を尋ねる。
どれも、本来は人ができることです。
それでも、限られた時間、多数の資料、質問枠をめぐる緊張の中で、見落としや重複は起こります。
だからこそAIを、質問を発する前に一度立ち止まるための「第二の目」として使うことができます。
この質問は、すでに答えられていないか。
本当にご遺族へ聞くべきことか。
新たに何が明らかになるのか。
相手に負わせる負担に見合うのか。
AIがこの問いを示し、最後は人間が判断する。
その組み合わせであれば、取材の質と、ご遺族への配慮を両立できるのではないでしょうか。
最後に
ご両親は、悲しみを見せるために会見へ立ったのではありません。
なぜ知華さんが命を失わなければならなかったのか。その責任を明らかにし、同じ事故を二度と起こさないために、社会へ伝えるべきことがあると考えたからです。
その思いを受け止めるためには、ご両親が何と答えたかだけでなく、私たちが何を尋ねたのかも振り返る必要があります。
記者の質問によって、事故の構造が明らかになることがあります。
一方で、質問によって、ご遺族が語る必要のなかった悲しみまで、公の場に差し出されることがあります。
その境界を考えることは、取材する記者だけの課題ではありません。報道を受け取る私たちにも、「なぜこの場面が伝えられたのか」「この言葉はどのように引き出されたのか」を考える責任があります。
AIは、その答えを決めてくれません。
ただ、膨大な情報を整理し、重複を見つけ、質問の必要性を問い直すことで、人が立ち止まる機会をつくることはできます。
そして最後に判断するのは、人です。
目の前にいる人の痛みを想像しながら、それでも社会のために何を問わなければならないのかを考える。
AIを使う意味は、人の代わりに質問させることではなく、人がよりよく質問するための余裕をつくることにあるのだと思います。
ご両親が誠実に答えてくださったことが、その質問をしてよかったことを意味するわけではありません。
そのことを忘れず、次に同じような会見が開かれるとき、今回よりも少しだけ、質問する側と答える側の双方が大切にされる場になってほしいと願います。
第0回から、ご遺族会見で交わされた「質問」について考えてきました。本編は今回で一区切りとします。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
※本稿は、沖縄タイムスが掲載した記者会見の質疑応答と、ご遺族が公開しているnoteをもとに執筆しました。質疑応答と発信内容の全文は、それぞれの元記事をご確認ください。
