リリィと忘れられた夢の森 【第十章 最初の約束】
白い光は、まるで朝日が夜を溶かすように広がっていきました。
リリィは目を細めながら、その中心を見つめます。胸が苦しいほど高鳴っています。
なぜだろう。
怖いはずなのに。
逃げたいはずなのに。
隣にいたリリアは少し寂しそうに笑います。
リリアが静かに言いました。
「私たちの始まり」
リリィは息を呑みました。
リリアは星空を見上げます。
すると景色が変わりました。
そこは夢の森ではありません。
空いっぱいに星が輝く丘。
見たこともない美しい世界。
リリアはその丘に立っていました。
まだ幼い頃の姿です。
毎晩空を見上げていました。
星を見るのが好きでした。
風の音を聞くのが好きでした。
花と話すのが好きでした。
そして、誰かの夢を聞くのが好きでした。
「あなたの夢は?」
リリアは会う人すべてに尋ねました。
パン屋になりたい。
絵描きになりたい。
歌手になりたい。
役者になりたい。
空を飛びたい。
旅をしたい。
人を助けたい。
誰かの役に立ちたい。
たくさんの夢を聞きました。
そしてリリアは思ったのです。
「夢って綺麗」
「みんな違う」
「みんな素敵」
でも、ある日。
リリアは気づいてしまいました。
たくさんの夢が、叶わないまま消えていくことに。
諦められる夢。
忘れられる夢。
笑われた夢。
傷ついた夢。
世界にはそんな夢がたくさんありました。
リリアは悲しくなりました。
夢は…夢のまま…どこに行くの?
誰も見たことも、聞いたこともない…
深い…深い…森の中へと流れ着くのです。
【忘れられた夢の森】へと。
そしてある夜。
流れ星へ願いをかけました。
「消えた夢を守りたい」
「忘れられた夢をなくしたい」
「みんなの夢がずっと輝いていてほしい」
その願いはあまりにも強く。
あまりにも優しく。
世界そのものを動かしました。
空が輝きます。
星々が集まります。
そして、一本の銀色の角を持つ存在が現れました。
ユニコーンです。
若い姿のユニコーン。
今よりもさらに神秘的で、月光そのもののように美しい姿。
「君の願いを聞いたよ」
ユニコーンは言いました。
「だが願いには代償がある」
リリアは頷きます。
「知ってる」
「…それでもいい」
ユニコーンは悲しそうに目を閉じました。
「一度始まれば、長い旅になる」
「何度も生まれ変わることになる」
「たくさん忘れる」
「たくさん泣く」
「たくさん傷付く」
「それでも?」
リリアは笑いました。
優しく。
迷いなく。
「それでも」
「…私はーーーーーー!!」
こうして、リリアとユニコーンは最初の約束を交わしました。
その瞬間、星空が大きく輝きました。
無数の光がリリアの胸へ降り注ぎます。
そして、彼女の魂は旅を始めました。
何百年も。
何千年も。
生まれ変わりながら。
たくさんの人生を経験しながら。
レンとして。
ソラとして。
ミアとして。
ルカとして。

数え切れない人生を歩いてきたのです。
思い通りにいかない日々もたくさんありました。
挫けそうで…でも諦めきれなくて…。
ずっと。
ずっと。
景色が消えました。
リリィは涙を流していました。
「私……」
震える声。
「私だったんだ……」
リリアが頷きます。
「そう」
「全部あなた」
「全部私」
「全部ひとつの魂」
その瞬間、今まで見てきた夢たちが頭の中で繋がりました。
絵描きになりたかった少年。
歌いたかった少女。
舞台に立ちたかった女性。
手紙を届けたかった少年。
みんな。
みんな。
自分だった、だから懐かしかった。
だから夢のかけらの場所が分かった。
だから助けたかった。
その時です。
ドォォォォォォン!!
忘却の樹の枝が星空を砕きました。
黒い枝が迫ります。
そして忘却の樹が叫びました。
「思い出してはならぬ!」
リリィは振り返ります。
すると、初めて、忘却の樹の声が震えていることに気づきました。
怒りではありません。
恐れでした。
「どうして?」
リリィは叫びます。
「どうして思い出してはダメなの!?」
すると忘却の樹は静かに答えました。
「お前が最後の夢を思い出せば――」
枝が震えます。
「お前が…消えてしまうからだ」
世界が静まり返りました。
リリィの呼吸が止まります。
「え……?」
リリアも。
リリィ自身も。
ユニコーンも。
誰も何も言いません。
忘却の樹は悲しそうに続けます。
「だから私は守っていた」
「何百年も」
「何千年も」
「お前自身を」
その言葉とともに、星図の中心で最後の光が大きく脈打ちました。
まだ誰も見ていない。
最後の夢。
最も大切な夢。
リリアが願いをかけた本当の理由。
それが目覚めようとしていました。
ユニコーンは静かに目を閉じます。
そして小さく呟きました。
「とうとう、この時が来たんだね……」
光はますます強くなり、星空全体を包み込み始めます。
リリィは涙を拭きながら、その光へ向かって歩き出しました。
自分が消えるかもしれないとしても。
知りたい。
忘れたままではいられない。
その先にある真実を。
そして光の中から、
一本の古い木のベンチがゆっくり姿を現しました――。
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