【Re:write】第20話 鉄屑の女王と、最初の情報
―絶望を、書き換えろ。
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「……ついてきな」
オババが杖を鳴らす。
屑鉄通りの住人たちが道をあける。無言の畏怖。
一行は、ガラクタの迷路を抜けた。
巨大な鉄の塊。
蒸気機関車の残骸が、墓標のように鎮座している。
オババがレバーを引く。
機関車の側面が音もなく開き、闇が口を開けた。
「……あたしの工房兼、寝ぐらさ。まあ、入りな」
外の喧騒が遮断される。
濃密な空気。油と、古い金属と、微かな薬草の匂い。
壁一面に機械部品。
年代物の工具。
部屋の中央、錬金術の釜が青い炎を揺らめかせている。
「……すげえな。こりゃ、博物館モンだぜ」
ドレイクが呻く。
視線は壁の自動義手に吸い寄せられている。
アリアはミミを抱き寄せ、周囲を警戒した。
「さて……」
オババが椅子に深々と腰かける。
「約束通り、手助けはしてやる。で、王立大図書館だがね……」
釜の茶をすする。
「……諦めな。今のあんたたちじゃ、蟻一匹入り込めやしないよ」
「……どういうことだ」
カイの声が低い。
アリアはカイの横に立ち、オババを見つめた。
胸の奥に、小さな寂しさが沈んだ。
カイとオババの視線がぶつかる。
「今の図書館は、公子アルベールの私兵どもが完全に固めてる。あそこはもう、ただの図書館じゃあない。奴の研究施設、あるいは要塞さ」
アリアが息を呑む。
「そんな……。では、私たちは……」
「まあ、そう落ち込むなよ」
オババが笑う。喉の奥でカラカラと音がする。
「あたしは、『今のあんたたちじゃ』と言ったのさ。つまり、やりようはある」
オババの視線がカイを射抜く。
「あんたのその『頭脳』と、そこのドワーフの『腕』。その二つを貸してやりゃあ、喜んで図書館への『裏口』を開けてくれる変わり者が、一人だけいる」
「……誰だ」
「工房区画に住み着いてる天才さ。いや……『変人』と言った方が正しいかね」
オババがニヤリと笑う。
「一日中、歯車や釜とだけお喋りしてるような、若い女だよ」
「……女?」
ドレイクが眉を上げる。
「名は、エラーラ・ノヴァ。先代の宮廷魔術師の弟子だったが、考え方がぶっ飛びすぎてて破門された筋金入りさ。……あんたたちと、同類だろう?」
カイは無言で思考を回す。
(宮廷魔術師の弟子。破門。図書館への裏口)
「その女が、どうして我々の助けになる」
「あの子は昔から図書館に入り浸ってた本の虫でね。追い出された後も研究を諦めきれず、こっそり図書館に忍び込むための『秘密の通路』を自分で掘っちまったのさ」
オババが肩をすくめる。
「あたしがその材料を融通してやったんだから、間違いねえ」
「……なるほど。取引か」
カイが頷く。
「話が早くて助かるよ」
オババが立ち上がる。
ガラクタの中から奇妙な羅針盤を取り出し、カイへ投げた。
針は定まらない。
あらぬ方向を向き、微かに震えている。
「そいつを持って行きな。エラーラが若い頃に作った『魔力方位磁針』の失敗作さ。あんたたちの知恵でそいつを直し、あの子に届けてやりな。それが、あたしからの紹介状代わりだ」
「世話になったな、オババ殿」
ドレイクが頭を下げる。
「フン。礼には及ばないさ。アルベールの奴が、あたしの縄張りの上をうろちょろしてるのが気に食わなかっただけだよ」
オババが手を振る。
「せいぜい、奴の計画を引っ掻き回しておやり」
扉が開く。
一行が背を向ける。
ガラクタの迷路の向こう、工房区画の喧騒が待っている。
オババは一人、湯気を立てる茶を啜りながら、その背中を静かに見送っていた。
2025/12/30改稿
鉄屑の女王と、最初の情報 お読みいただきありがとうございます。
混沌の支配者、鉄屑のオババとの取引。
彼女が提示した次なる一手は、もう一人の「天才」との出会いでした。
物語の歯車が、また一つ大きく動き出します。
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