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【Re:write】第36話 魂の器と、賢者の狂宴

―絶望を、書き換えろ。


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一夜にして、工房は祭壇へと変貌した。

壁一面、張り付けられた羊皮紙。曼荼羅のような数式が、空間を埋め尽くしている。
天井。水晶と銅線の惑星模型が、不規則な軌道で回転している。乾いた駆動音。
中心の作業台。掌サイズの水晶の器が鎮座する。空っぽの器。
工房のガラクタたちが、息を潜めて見守っている。

「――全天球魔力集積回路、オンライン!時空連続体への干渉準備、完了!これより、世界で初めての『魂の鋳造』を開始する!」

エラーラの高笑い。白衣ではない。星と月の刺繍が施された怪しげなローブ。片手には鳥の羽根つきの杖。

狂気と歓喜。瞳孔が開き、瞬きが少ない。

ドレイクがこめかみをピクつかせる。
「……おい、アリア」低い囁き。
「あいつ、頭のネジが一本、完全に飛んじまったんじゃねえか?」
「し、静かにしてください、ドレイクさん!あれは、エラーラさんなりの、儀式なのですから……たぶん」
アリアの引きつった笑顔。アリアの口角が固い。
視線が一度、壁の数式へ逸れ、戻る。指先が裾を掴み、皺を伸ばして離す。

エラーラは止まらない。器の周りで踊る。杖を振る。
古代語と数式の読み上げが混じる。語尾が跳ね、息が短い。意味不明の詠唱。

「虚数時間軸に固定したマナの奔流を、界律定数で除算し、その剰余を触媒とする!いでよ、魂の原型!万物の霊、我に力を!」

「もう見てらんねえ……」ドレイクが頭を抱える。

「――静粛に」
カイの声。腕を組み、冷徹に分析する目。

「一見、非合理に見えるが、彼女の行動には論理的根拠がある」

「「はぁ!?」」

ドレイクとアリア。完璧なハーモニー。

「エラーラの理論によれば、創世魔法で『生命』という複雑な概念を創造するには、術者の精神状態を特殊な位相に同期させる必要がある。この儀式は、そのためのトランス誘導装置だ。極めて、合理的な判断だ」
ドレイクの歯が鳴る。
「お前まで、あいつの側に付くのか、この石頭!」
「カイさんまで、エラーラさんの宇宙語に汚染されたんですか!?」
二人のツッコミが響く。

「……みんなで、おゆうぎかいしてるの?」

ミミの声。無垢な一言。
誰かが息を吐く。張り詰めた空気が、風船のように萎む。

カイとエラーラが動きを止める。かすかな笑み。
エラーラが咳払いをする。杖の先が下がり、声の高さが落ちる。

「……茶番は、ここまでだ。準備はいいかい、二人とも」

狂気は消えた。真摯な探求者の光。
カイが羊皮紙を手渡す。エラーラの理論を翻訳した、魂の創造プログラム。
アリアが頷く。竪琴を構える。
アリアの指が、弦の上で一度だけ止まり、位置を探して戻った。
カイの手が、水晶の器にかざされる。

アリアの指先。最初の和音。

工房の光が吸い込まれる。複雑で、物悲しい旋律。生命が生まれる瞬間の、喜びと苦しみ。
旋律に呼応し、空間に満ちていたマナが奔流となる。
旋律に導かれ、器の中で形を成していく。

歌が終わる。
静寂が戻る。

水晶の器の中。温かい、柔らかな光。
小さな魂の灯火が、揺らめいていた。

世界はまだ知らない。
王都の片隅。運命を覆す小さな魂が、産声を上げたことに。

水晶の器の光が、作業台の縁をなぞる。
ランプの火が揺れ、壁の羊皮紙が擦れて小さく鳴る。
工房の外で、鎚の音が一つ。遠くへ逃げていった。


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小説「Re:write」のこれまでの話をまとめたものはこちら。


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