【Re:write】第16話:黒煙の村と、小さな灯火
―絶望を、書き換えろ。
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「……臭うな」
ドレイクが鼻を鳴らした。街道の乾いた土埃ではない。もっと粘つく、嫌な臭気だ。
「焦げ臭い……ですね」
アリアが袖で鼻を覆う。
「風上だ」
カイは視線を上げた。街道の先、緩やかな丘陵の向こう。
細く、黒い煙が、墓標のように直立していた。
「グリューネワルト。次の補給地点だ」
ドレイクが戦鎚を担ぎ直す。
「……だった場所、かもしれんがな」
村は死んでいた。
家々の骸。炭化した柱。踏み荒らされた麦畑。
「……酷い」
アリアの声が震える。
カイは焼けた壁に触れた。熱はない。鎮火から半日以上。
「略奪か?」
ドレイクが足元の蹄の跡を蹴る。
「山賊にしちゃあ、派手にやりやがったな」
「いや、違う」
カイは即答した。視線は破壊された穀物庫の断面へ。
「破壊痕が均一だ。統率された集団行動。山賊や魔物じゃない」
「……軍隊、か」
ドレイクが顔をしかめる。
「アルベール公の騎士団か、代官の私兵か。……どっちにしろ、碌なもんじゃねえ」
ガタリ。
瓦礫の隙間。
三人の視線が一点に突き刺さる。
「……ネズミか?」
ドレイクが構える。
「いや」
カイが歩み寄る。瓦礫を退かす。
そこにいたのは、ネズミではなかった。
煤で汚れた、小さな塊。ボロボロのワンピース。
少女だ。
腕の中には、半分に割れた木彫りの人形が抱きしめられている。
「……あ」
少女が、ひくりと喉を鳴らす。
瞳孔が開いている。恐怖による硬直。
「大丈夫。敵じゃないわ」
アリアが膝をつく。目線を合わせる。
少女は動かない。
ただ、人形を握る指先だけが白くなっている。
「……どうする」
ドレイクが、カイを見る。
「この村の生き残りだ。放っておけば死ぬぞ」
「面倒ごとだ」
「分かってる。だが、見捨てるほど俺の魂は錆びちゃいねえ」
ドレイクはそっぽを向いた。
カイは少女を見下ろした。
(ノイズだ。不確定変数。生存確率の低下要因)
思考が冷徹にリスクを弾き出す。
だが、視界の端でアリアが動かない。
その背中が、無言の圧力を発している。
(レオンの遺言。『アリアを頼む』。彼女の精神的安定は、パーティーの機能維持に不可欠)
計算終了。
「……保護する」
カイの声に、アリアが弾かれたように顔を上げる。
「それが現時点での最適解だ」
「へっ。理屈っぽいこった」
ドレイクがニヤリと笑う。
アリアが、少女の手をそっと包み込んだ。
「お名前は?」
少女の唇が、微かに震える。
「……ミミ」
蚊の鳴くような、掠れた音。
「そう。ミミちゃんね」
アリアが微笑む。ミミの強張っていた肩から、ふっと力が抜けた。
炭化した家々と、崩れ落ちた壁。
黒い残骸が広がる荒野の真ん中で、ドレイクが外側を塞ぎ、カイが一歩後ろに立つ。
アリアの膝元に、少女の小さな影だけが低く残っている。
風が吹く。
焦げ臭い死の匂いの中、彼らの足元にだけ、小さな、しかし確かな体温が灯っていた。
2025/12/29改稿
お読みいただきありがとうございます。新たな仲間、ミミが登場しました。この出会いが、カイとアリア、そして一行の関係性に、これから大きな変化をもたらすことになります。
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