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【Re:write】第11話 オークヘイブンの鍛冶師

―絶望を、書き換えろ。

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「……おい」
レオンの声には、苛立ちが滲んでいた。

「さっきから黙りこくって、何を考えてる」
「ルート解析だ」
カイは前を見据えたまま答える。

「現在地から王都への最短経路。食料消費量。……生存確率は87%」
「数字で話すなと言ってるんだ!」
レオンが頭を抱える。
アリアが困ったように微笑んだ。
 
ピタリ、とカイの足が止まった。
「……どうした?」
「静かすぎる」

カイの視線が、後方の森へ向けられる。
さっきまで聞こえていた鳥のさえずりが、不自然に途絶えていた。
(……環境音の欠落。生態系の威圧反応)

カイは片膝をつき、地面に指先を触れた。
微かな、しかし規則的な振動。
(……振動パターン照合。複数の四足歩行。……武装した騎馬隊。)
「来るぞ」
カイが立ち上がる。

「追手か!?」
「馬が三頭。……接触まで推定3分。このままでは捕捉される」
「3分だと!? 逃げ切れるわけがねえ!」
レオンが焦燥に声を荒らげる。
レオンが腰の剣に手をかける。

「戦うか?」
「否。その剣では折れる」
カイの視線が、レオンの剣の柄に向けられた。
度重なる戦闘で酷使された鞘の口が、ささくれている。

「金属疲労が蓄積している。騎士団の鋼と打ち合えば、三合で砕けるぞ」
「なっ……」
レオンが言葉を詰まらせる。
図星だったのだ。

だが、カイは冷静に進行方向――街道の先の丘を指差した。
「計算上、勝機はある」
「ルート変更。次の街――オークヘイブンへ逃げ込む。人混みに紛れ, 装備を整える」
「え……?」
「俺たちの脚力で全力疾走すれば、間に合う」

カイが、アリアとレオンを見る。
「走れ。振り返るな」
「クソッ、そういうことかよ!」
レオンがアリアの手を引いて駆け出す。
「急ぐぞアリア! 転ぶなよ!」
「は、はい!」

オークヘイブンは、煤と鉄の匂いがする街だった。
あちこちから鎚音が響き、熱気が肌にまとわりつく。
レオンが酒場で聞き出した路地へ入る。
カイは、路地裏の古びた石造りの工房の前で足を止めた。

看板はない。

ただ、重厚で正確な鎚音だけが、心臓の鼓動のように響いていた。
「ここだ」
「ここ? 看板もないぞ」
「音が違う。……ここなら、まともな鉄が打てる」

中に入ると、熱風が顔を叩いた。
燃え盛る炉。
飛び散る火花。
その中心で、一人の小柄な男が、巨大な鉄塊と格闘していた。

「……なんだ、ひよっこども」
男――ドレイクが手を止める。

丸太のような腕。
煤で汚れた顔に、鋭い眼光。
「冷やかしなら帰りな」

レオンが、意を決したように愛剣を差し出した。
「剣を、直してほしい。……こいつじゃ、もう持たん」

ドレイクは一瞥しただけで、鼻を鳴らした。
「量産品だな。直すだけ無駄だ。新しいのを買った方が早い」
「なんだと……!」
「芯までガタが来てる。継ぎ接ぎしたところで、次は持ち主ごといかれるぞ」
 
「……いい鉄だ」
不意に、カイが呟いた。
彼は、壁に掛けられた一本の剣を見つめていた。
「折り返し回数、推定15回。炭素分布の均一性が、異常なほど高い。……手打ちで、ここまでの精度が出せるのか」

ドレイクの眉がピクリと動く。
「……ほう。おめえさん、目が利くな」
「事実を述べたまでだ。……だが」
カイは、炉の方を指差した。

「ふいごの設計が古い。送風効率が悪い。炉内温度が揺れている。」
「……あ?」
ドレイクの目が細められる。

場の空気が凍る。

「小僧。てめえ、 俺の仕事にケチつけんのか」
「ケチではない。最適化の提案だ。炉内温度に±3.7%の誤差が出ている。それが、鋼の強度に微細なクラックを生む原因だ。温度管理システムを導入すれば、品質はさらに向上する」
「システムだぁ? 職人の勘に勝る機械があるかよ!」
「勘という名の不確定要素こそが、品質のばらつきを生むんだ」
 
「お前ら, いい加減にしろ!」
レオンが叫ぶ。
「宇宙語で喧嘩するな! 俺にはさっぱり分からん!」
「まあ、ふふっ」
アリアが笑い出した。
「兄様, なんだかお二人とも、楽しそうですよ」
「どこがだ! 一触即発だろうが!」
 
カラン。
乾いたベルの音が、熱気を切り裂いた。
入り口に立っていたのは、白銀の鎧。
騎士団の紋章。
「――いたぞ! 例の余所者どもだ!」
兵士たちが雪崩れ込んでくる。

出口はない。

「全員, 捕らえろ!」
ドレイクが、ニヤリと笑った。
「……へっ。俺のシマで騒ぐたぁ、いい度胸だ」
彼は、巨大な戦鎚を肩に担ぎ上げた。
「小僧ども、下がってな。……祭りの時間だ」
 
逃げ場のない閉鎖空間。
炉から吐き出される熱気が、入り口の冷たい外気と衝突し、視界を陽炎のように歪ませている。
その赤熱した空気の中で、ドレイクが振り上げた戦鎚の影だけが、怪物のように壁一面を覆い尽くそうとしていた。

鼻腔の奥に、鉄の焼ける匂いが、重く、熱く、こびりついて離れない。


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2025/12/28改稿


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