見出し画像

【Re:write】第26話 頑固者の追憶と、最初の鉄

―絶望を、書き換えろ。


【初めましての方へ】まず世界観を把握するなら
物語の始まり、第一話へのリンクはこちら
👉 第一話:観測者は森で目覚める
作品案内・あらすじはこちら
👉 はじめて読む方へ|『Re:write』は第1話からどうぞ

前話:第25話 三つの絶望と、小さな問い
次話:第27話 少女の決意と、第三の道

埃が舞う。

工房の天井付近。吊るされた惑星模型が、錆びついた音を立てて回転している。
その影が、床に散乱した羊皮紙の山を、規則的な周期で横切っていく。
作業台の上。
一冊の古文書が鎮座している。
黒い革表紙。
タイトルはない。
ただ、その内側から漏れ出る異質な光だけが、光源として機能していた。
その光を挟み、二つの影が凍りついている。
カイとエラーラ。
思考の迷路に入り込み、出口を見失った彫像。
 
光の届かない工房の隅。
闇に沈む一角に、岩のような質量があった。
ドワーフの鍛冶師、ドレイク・アイアンハンド。
彼は腕を組み、足元の石畳の一点を睨みつけている。
(……くだらねえ)

吐き捨てた息が、煤けた空気を揺らす。
小僧も眼鏡も、天才だということは認める。
だが、天才というのは揃いも揃って、脳内で組み上げた理屈が世界の全てだと思い込む悪癖がある。
カイの言う「情報毒」。形も重さもない概念。
そんなもので、あの質量を持った化け物を殺す?
(……俺たちが信じるのは、叩いて、熱して、形作った、嘘のつけねえ鉄だけだ。理屈じゃ人は守れねえ)
 
ドレイクの視線が、作業台に立てかけられた自らの戦鎚(ウォーハンマー)へと滑る。
長年の相棒。
無数の傷。
古文書の光を受け、鈍く、冷たく輝いている。
彼は無造作に歩み寄る。
柄を握る。
ミシリ、と革巻きのグリップが悲鳴を上げ、その節くれだった拳が白く変色した。
ドレイクの鼻から、短い息が抜けた。
 
もう、見てはいられない。

ズシン。

工房の床が、物理的な振動を伝える。
カイとエラーラの間に、ドレイクは分厚い隔壁のように割り込んだ。
「……小僧ども」
炉の熱気よりも確かな熱量。
低く、重い。
「てめえらの宇宙語は、もう聞き飽きた」
 
彼は、カイでもエラーラでもなく、全ての元凶である光る書物を、指で指し示した。
「そいつが、とんでもねえ槌だってことは、俺にも分かる。だがな、どう叩けばいいかも分からねえもんは、ただの鉄クズだ。違うか?」
ドレイクは言葉を切る。

カイとエラーラ。
二人の視線を、正面から受け止める。
「まず、決めろ。そいつを『武器』として使うのか、それとも『研究材料』として調べるのか。話は、それからだ」
 
ドレイクの言葉が、熱した鉄を打つ打撃音のように、空間を支配した。
浮足立っていた天才たちの思考が、強制的に着地させられる。

回転を続ける惑星模型の影が、三人の顔の上をゆっくりと横切っていく。
作業台の上、『名もなき神々の書』だけが、答えを促すように、静かに、妖しく明滅を続けていた。


前話:第25話 三つの絶望と、小さな問い
次話:第27話 少女の決意と、第三の道

2025/12/31改稿


続き/背景を読むなら

物語の始まり、第一話へのリンクはこちら
👉 第一話:観測者は森で目覚める
作品案内・あらすじはこちら
👉 はじめて読む方へ|『Re:write』は第1話からどうぞ

👉小説「Re:write」のこれまでの話をまとめたものはこちら。


いいなと思ったら応援しよう!