【Re:write】第18話:王都の城壁と、迫りくる影
―絶望を、書き換えろ。
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街道を外れてから、半刻ほどが過ぎていた。
王都を正面から目指せば、検問に捕まる。
だから一行は、外周丘陵を南東へ回り込んだ。
丘陵が途切れた。
乾いた風が、砂埃を運んでくる。
眼下。
アストリア王国王都の全景が、暴力的な質量で視界を埋め尽くした。
陽光を弾く白い城壁。波打つ甍の海。天を穿つ尖塔。
圧倒的な秩序。
その喧騒が、熱となって肌を撫でる。
「……でけえな」
ドレイクが呻く。
「兄様と、何度も来たことがあります……」
アリアの瞳が揺れる。
胸の奥が、理由もなくざわついた。
「でも、こんなに遠く……大きく感じたのは、初めてです」
ミミがアリアの背から顔を出す。
言葉はない。
ただ、息を呑む音だけがした。
だが、カイの網膜が捉えたのは、感傷ではない。
現実だ。
街道。人の流れが淀んでいる。
検問所。
「……チッ。ヴァレリウスの旗だ」
ドレイクが舌打ちする。
「工房に来た連中と同じだ。手配が回ってるな」
正面突破不可能。
接近すれば包囲される。
「どうする、カイさん……」
アリアの声が強張る。
カイは答えない。
視線を走らせる。
監視塔の死角。巡回兵の歩調。検問の処理速度。
情報がノイズとなり、脳内で再構築される。
(どんなシステムにも穴はある。組織の肥大化は、伝達の遅延を生む)
不意に、カイが振り返った。
「どうした、小僧?」
「……来る」
空気が凍る。
丘陵の稜線。砂塵が舞い上がっていた。
音はない。だが、殺意だけが風に乗って届く。
「追手か! しつけえ野郎だ!」
「斥候部隊です」
カイの声は平坦だ。
「位置は特定された」
前門に鉄壁。
後方に牙。
アリアがミミを抱きしめる。
ドレイクが戦鎚の柄を握りしめる。
カイの瞳に焦燥はない。
極限状況。思考が加速する。
視線が城壁を舐める。
東門。南門。二つの騎士隊の管轄境界。
指揮系統の断絶点。
そこにある、黒い染みのような排出口。
「……ドレイク」
カイは城壁から目を離さない。
「東門の先は、職人区画だな?」
「ああ。一番ごちゃごちゃした場所だ。なんでえ、急に」
「そこから王城の逆……スラム街へ抜ける最短ルートは?」
「スラム街だと? ……ああ、一本だけあるぜ。『屑鉄通り』だ。だが、あそこは……」
「そこだ」
カイが指差す。
東門と南門の中間。古い下水道の排出口。
「あそこから侵入し、スラムの混沌に紛れる」
ドレイクが目を見開く。
「……本気か? 自殺行為だぜ」
数秒の沈黙。
ドレイクの口元が歪んだ。獰猛な笑み。
「……だがな、小僧。職人ってのは、いつだってありえねえもんに挑むもんだ。乗ったぜ」
「アリア」
カイが振り返る。
「危険な賭けになる」
アリアは目を閉じた。
そして、開く。強い光。
「はい。カイさんの判断を、信じます」
後方。
砂塵が大きくなる。蹄の音が、鼓膜を叩き始めた。
「行くぞ」
四つの影が弾けた。
乾いた大地を蹴る。
迫る白い巨壁。
背後には、死の足音。
太陽が傾く。
荒野を疾走する彼らの影だけが、長く、黒く、城壁へと伸びていた。
2026/6/14改稿
お読みいただきありがとうございます。前門の虎、後門の狼。絶望的な状況でこそ、カイの「システムを読み解く」能力が真価を発揮します。果たして一行は、この鉄壁の包囲網を突破できるのか。次回、王都潜入です。
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