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【Re:write】第15話 茨の道と、鋼の誓い

―絶望を、書き換えろ。

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オークヘイブンを背にして、三日が過ぎた。

乾いた風が、街道の砂埃を巻き上げる。
視界を遮る白い霞。
足裏に伝わる硬い土の反発だけが、前進している事実を告げていた。
ドレイクの背中は黙々と揺れ、アリアは兄の形見の鞘を、指が白くなるほど強く握りしめて俯く。
 
昼下がり。街道沿いの大きな樫の木が落とす、濃い影の下。
干し肉を噛む乾いた音が、静寂に吸い込まれていく。
アリアが顔を上げた。
木漏れ日が、その真っ直ぐな瞳を射抜く。

「カイさん。あなたは、兄様の死を、ご自分のせいだと思っていませんか?」

風が止まる。

カイの思考の奔流が、一瞬で凍結した。
(……肯定。原因は俺にある。俺が『元凶』でなければ、レオンは死ななかった)
「……その通りだ」

「兄は、自らの意志で戦いました」
アリアは強く首を横に振った。
揺れる銀髪。
「だから、自分を責めないでください。
でも……
もし、
あなたがその罪を背負って戦おうというのなら」

彼女は、自らの胸元をきつく押さえた。
「その罪を、私にも……半分、背負わせてください。私は、もうただ守られているだけではありません。兄様の分まで、私がカイさんを支えます。あなたのその茨の道を、一人では歩かせません」

カイの論理回路に、予期せぬノイズが走る。
(罪の共有? 非合理的だ。だが……なぜだ。胸の奥が、ほんの少しだけ緩む感覚)
――行動原理再定義。アリア、能動的支援者へステータス変更。
「……了解した。君の支援を、最優先にする」

アリアが、ふわりと笑った。

その笑顔だけが、乾いた風景の中で鮮やかに滲んだ。

夜。爆ぜる焚き火の音が、闇を弾く。

ドレイクが紫煙を吐き出した。
薪を一本、無言で焚き火に放り込む。
火の粉が夜風に散る。
煙の匂いが夜気に混ざる。

「……それで、小僧。昼間言ってた『武器』とやら、一体どんな代物だ? 俺の鎚みてえな、でっけえ鉄の塊でも作る気か?」
「いや、違う。物理的な質量で叩き潰す武器ではない」
カイは揺らめく炎を見つめ、脳内でデータを再生する。

「ドレイク。あの時、お前も見たはずだ。奴の装甲が、斬られたり砕かれたりするのではなく、『砂』になって崩れ落ちたのを」
「ああ……。ありゃあ、気味の悪い光景だったぜ」
「あれは、分子結合の強制解除だ」
 
カイは地面に数式を描く。
木の枝が土を削る音。
「俺たちが『硬い』と感じているのは、物質を構成する原子同士が強く結びついているからに過ぎない。俺のオリハルコンは、その『結びつき』に干渉し、強制的に書き換えたんだ。『鋼鉄』という定義を、『砂塵』へと」
「……鉄を、砂に変えたってのか?」
「そうだ。奴ら(レギオン)が、この世界の物理法則を無視して現れる『情報生命体』であるなら、物理的な衝撃よりも、その存在定義そのものを書き換える攻撃こそが特効薬になる」

カイは手元の小石を拾い、強く握りしめた。
「奴らのOSに侵入し、その構成情報を内側から崩壊させる、致死性のプログラムコード……。俺はそれを、『情報毒(インフォ・トキシン)』と名付けた」
「……さっぱり分からんが、とんでもねえ代物だってことだけは分かるぜ」
ドレイクが呆れたように、しかし楽しげに笑う。

「だが、そんなもん、どうやって作るんだ? ここは戦場だぞ。工房も、実験室もあるわけじゃねえ」
「その通りだ。開発には、二つのものが必要になる」
カイは指を二本立てた。

「一つは、『知識』。この世界の魔法体系、古代技術、そして過去のレギオン出現に関するあらゆる記録データ。もう一つは、それらを解析し、微細な実装を行うための『設備』だ」
「知識と、設備……」
「王都だ」

アリアが顔を上げる。

焚き火の光が、その決意に満ちた表情を照らす。
「王都ならば……『王立大図書館』があります。建国以来の、あらゆる書物や記録が、そこには眠っていると聞きました」
「ほう、そいつはいい」
ドレイクもニヤリと笑う。

「設備の方も、心当たりがねえわけじゃねえ。王都には、各国の職人が集まる工房区画がある。俺の昔馴染みもいるだろう。それに、『賢者の塔』の連中なら、お前の言う訳の分からん理屈にも、興味を示すかもしれん」

王都。敵地。

だが、そこにしか希望はない。

「……決まりだな」
カイは立ち上がり、北の空を見据えた。

「当面は王都に入り、『王立大図書館』と『工房』に辿り着く」
「はい、カイさん!」
「へっ。面白くなってきやがった」
 
翌朝。

朝露に濡れた街道を、三つの靴音が踏みしめる。
背中の荷物は、昨日よりも少しだけ重く感じられた。

喪失の痛みは消えない。

それは物理的な質量となって肩に食い込み、彼らが背負うべきものを無言で訴えかけてくる。
だが、その痛みこそが、前に進むための推進力だった。
朝日が、三人の背中を長く引き伸ばす。
先頭を行くカイ、続くドレイク、そしてアリア。
影はまだ細い。

だが、彼らの視線の先には、地平線の彼方で陽炎に揺らめく、巨大な王都のシルエットが、蜃気楼のように静かに待ち構えていた。

遠くで鳥が一声だけ鳴き、すぐ途切れた。


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2025/12/29改稿


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