AIモデルがなぜ「これは自信がない」と判断するのか
機械学習モデルの予測がどのようにして生まれ、どんなときに迷いが生じるのか、その根本を理解してみたいと思ったことはありませんか。モデルがなぜ「これは自信がない」と判断するのか、その背景には多彩な要因が潜んでいます。
この記事では、そんな不確実性を解き明かすための新しいアプローチとして、概念に基づく説明手法と不確実性評価の融合に注目します。まるで懐中電灯を片手に暗い部屋を照らすように、モデルの自信のなさをコンセプト(概念)という光で見つめ直していくのがポイントです。
まえがき
モデルに対する理解を深めたいと考える人々は少なくありません。しかも、ただ当たった外れたを見極めるだけではなく、モデルがどのように躊躇したり、うまく判断できなかったりする場面を把握したいと思う方も多いはずです。
モデルの予測結果は数字や確率だけで示されがちですが、実際のところ、モデルがうまく判断できない理由はさまざまです。たとえば画像なら背景のうつり方、テキストなら紛らわしい単語など、要因はけっこう人間にも分かる形で存在します。
では、それらをきちんと取り出して整理できれば、もっと分かりやすい解釈や改良が見えてくるはずです。この記事では、その具体的な方法として「コンセプト」に注目し、不確実性の根本をひもとく研究を分かりやすくお届けします。

背景と目的
1. なぜ不確実性を説明する必要があるのか
機械学習モデルやディープラーニングの技術が多彩な分野で利用される現代、その推論が信頼に足るものかどうかは大問題です。医療診断から自動運転、あるいはレコメンドシステムなど、あらゆる現場でモデルの予測に頼る状況が生まれています。
しかし、精度の高さはもちろん重要としても、それだけではどの状況でモデルがミスしやすいかを十分には把握できません。
特にモデルが出す予測に「確信を持てない」ケースがあるとき、単に確率値を見ただけでは「なぜこんなに不安定なの?」という疑問はなかなか晴れません。
ここで出番となるのが不確実性(uncertainty)の分析です。不確実性を分解して可視化し、それがどこから生じているのかを解釈できると、より堅牢で公平なシステムへ改善する糸口が得られます。
2. 従来の研究と課題
不確実性の定量化と、そのモデルへの組み込みは、Bayesian Deep LearningやMonte Carlo Dropoutといった手法の発展によって活発に取り組まれてきました。しかし、不確実性を数値として示すこと自体と、その原因や根拠を説明することは別問題です。
過去には、SHAP値や勾配ベースの手法を用いて入力特徴との関連を局所的に示す(Feature Attributionする)アプローチも見られました。たとえば「この画像のこの領域が不確実性に影響している」と部分的に説明するわけです。
ところがそれらは、局所的な説明に留まりがちであり、データセット全体を俯瞰するような不確実性の要因をつかむのは難しいという課題がありました。また、画像のピクセル単位など微視的な説明だと「何が写っているから不確実性が増すのか」がよく見えない、という問題もあります。
3. 提案の意義
そこでIsaac Robertsらによる研究では、コンセプト(概念)単位の説明に着目し、その手法をConcept Activation Vectors (CAV)と呼びます。これは、画像やテキストなどの高次元データを扱うとき、人間が理解しやすい「耳」「顔」「服装」「単語の意味領域」といった概念を、数学的にベクトルとして抽出し、モデルの判断や不確実性にどう寄与しているかを調べる方法です。
さらに、従来のCAVは主にモデルの予測クラスを説明するのに使われてきたところに、不確実性を対象とした説明を組み合わせようというのが本研究の新しいアプローチです。
つまり「この不確実な予測は、どんな概念の影響で揺れているのか?」という疑問に答えるわけです。これにより、局所的にも、またデータ全体を眺めるグローバルな視点でも、不確実性の正体を理解する手がかりが得られます。

不確実性をどう扱う?
1. 不確実性の種類
不確実性には、しばしば大きく分けて二つの形があるといわれます。
・Aleatoric Uncertainty(アリATORIKとも呼ばれることがある)
・Epistemic Uncertainty(エピステミック)
Aleatoricはデータ自体のノイズや変動を起因とする不確実性、Epistemicはモデルのパラメータや構造に関する不確実性を表します。本研究ではMC Dropout(推論時にもドロップアウトを有効にすることでサンプル的に予測を得る)などを用いて、最終的に出力される確率分布のエントロピーや、Aleatoric・Epistemicの分解を測定する手法を用いています。
こうした不確実性値をまとめてu(x)と書くとき、その値が大きいほど、モデルは予測に自信が持てないことを示します。
2. なぜ説明が必要か
従来は、u(x)の値が大きければ「怪しい予測だ」「異常かもしれない」という解釈で止まりがちでした。しかし本研究の発想では、単に数値としての不確実性を示すだけではなく「何が写っている(あるいはどんな概念を含む)せいで、このサンプルは不確実なのか?」を知りたいと考えます。
たとえば犬と狼の画像が混在するタスクで、ある画像がオオカミか犬か判定が曖昧だったとしましょう。不確実性が高いのは、背景が雪景色なのか、耳の形状が微妙に犬寄りにも見えるのか、体毛の特徴に混乱があるのか、そうした概念を特定できれば、再学習時にデータを補強するときの方針が立てやすくなります。

本研究で提案された新しい視点
1. コンセプト活性化ベクトル(CAV)とは
CAVの一般的な考え方は、ある層の活性(ReLUなどで負の値をカットした後のベクトル)を多数集めて行列Aとし、そこに非負値行列因子分解(NMF)を施すことで、よく似た特徴パターンを持つ部分をまとめる、というものです。
これを画像分野で使うと、耳に対応する特徴ベクトルや足に対応する特徴ベクトルなど、人間にも理解しやすい意味でまとまりのある概念を自動的に得られる可能性があります。
本研究では、まずデータ全体を不確実サンプル群(UNC)と確実サンプル群(CER)の二つに分け、それぞれについてNMFを適用してコンセプト辞書(概念の集合)を抽出します。UNC側の概念は、不確実さに寄与する特徴を映し出すと期待されるわけです。
2. 不確実性を説明するためのパイプライン
この研究では、不確実性を説明する流れを大きく4ステップに分けています。
【ステップ1】 モデルMで各サンプルのクラス予測と不確実性u(x)を算出
MC Dropoutなどで、ある入力xに対する予測がどれだけバラつくか、あるいはエントロピーが高いかを測定し、不確実性のスコアとしてu(x)を求めます。
【ステップ2】 不確実サンプルと確実サンプルを分離
u(x)の値が大きいものをUNC、小さいものをCERと呼ぶわけですが、明確な閾値の設定をガウシアン・ミクスチャーモデルなどで行います。GMMを用いれば、二つの山(分布)に分かれるはずなので、より平均が大きい山に属するサンプル=UNCとするかたちです。
【ステップ3】 不確実サンプル群・確実サンプル群それぞれでNMFを行い、コンセプトを抽出
ReLU出力をパッチ単位に切り出し、NMFで分解します。UNCサンプルから得られるコンセプト辞書VUNC、CERサンプルから得られるコンセプト辞書VCERの二つを用意します。
【ステップ4】 コンセプトの重要度や局所的なアトリビューションマップを計算
NMFにより得られたコンセプトに対して、それが不確実性を高める方向にどの程度影響しているかを、ソボル指数などを用いて測定します。局所(各入力に対して)ではこの画像の何番コンセプトが重要というスコアを出し、さらにどこがそのコンセプトに該当するパッチなのかを可視化します。
一方、グローバルには、UNCで特に高スコアのコンセプトを集計することで、データ全体を通じて不確実性をもたらしている要因が浮き彫りになります。
3. メリットと留意点
この方法の強みは、局所的な説明だけでなく、そのモデルはどういう特徴を誤認・混同しているのかをデータセット全体の視点から理解できるところにあります。
ただし、NMFのパラメータ選択(コンセプト数やパッチサイズ)に左右される部分がある点は注意が必要です。また、すでに不確実性が高いサンプルをいくらいじってもスコア変動が小さい場合があり、ソボル指数によるコンセプト重要度の測定には工夫の余地があると著者らは述べています。

実験と応用例
1. 不確実性の高いサンプルをリジェクトするタスク
まず著者らは、モデルが予測を行う際に「これは怪しいから保留にしよう」というリジェクト判断をするときに、コンセプトの情報を使うと精度が上がるかどうかをテストしています。
実験では、ImageNetの一部クラス(犬種など)からなるImageWoofやImagenetteを用いて、加えてNINCOと呼ばれるデータセットの未知画像も混ぜています。従来は不確実性スコアu(x)が大きい順にリジェクトするやり方(Total EntropyやAleatoric, Epistemicなどの値に基づく)だったのですが、今回の研究ではコンセプトが不確実グループで活性化しているかどうかを加味した仕組みを導入しました。
結果として、単純にスコア順でリジェクトするよりも、コンセプトの情報を加えることで性能が向上することがわかりました。たとえば、OOD(未知画像)が混入している場合でも、その不確実な要因を示すコンセプトを優先してリジェクトできるため、より効率的に誤判定のリスクを下げられるというわけです。
2. ノイズや未知クラスの判別:学習に役立たないサンプルを外す
さらに、未知クラス(例:犬の分類タスクにオオカミやキツネといった異種を混ぜる)と、画像自体がブレていたりノイズだらけだったりといった無意味なノイズとを区別できるかを検証する実験も行われています。
目的は、アクティブ・ラーニングなどの再学習シナリオを考えたとき、モデルが曖昧がゆえに不確実になったサンプルのうち、真にラベル付けする価値のあるサンプルだけを人間が優先的に選びたい、という動機です。
たとえばただのブレブレ写真はラベリングしてもメリットが薄いが、未見の動物ならモデルのクラス境界を拡張するうえで重要かもしれない。
著者らの方法では、不確実と判定された画像群からNMFで抽出された概念に、明らかにノイズを示すコンセプトが含まれている場合、それを指標にサンプルを除外する手法を試しました。その結果、単に不確実性が大きい順で絞り込むよりもうまくノイズを取り除けることが示されています。
3. テキスト(言語モデル)への応用:バイアスの検出
本研究は画像に限らず、自然言語でもCAVアプローチを応用できると示しています。具体的には、BERTのようなLLMを用いて職業バイオ(人物の職業や経歴を説明する文書)を職種分類するとき、不確実な予測をするケースでどのような単語・フレーズがモデルの混乱を生むのかを分析しました。
著者らは実験で、医師と推定されたテキスト群のうち、不確実なサンプルに着目してNMFを行ったところ、女性を示唆する単語(例:sheなど)が含まれる領域に特定のコンセプトが活性化していると判明しました。しかも、そのコンセプトを除去すると、誤分類がやや緩和され、モデルが性別に絡むバイアスを持っている可能性が浮かび上がったのです。
もちろん、この修正が万能薬というわけではありませんが、どの概念が不確実性に結びついていて、モデル判断を歪めているかを探るうえで、有益な手がかりとなることが示唆されます。

考察:限界と今後の展望
1. なぜコンセプトが有効なのか
単なるどのピクセルが不確実性を上げるかを示す局所的マップより、耳や顔など意味単位での要素を取り出すと、人間がそれを理解して再学習データを集めたり、ラベル付け方針を変更したりしやすいという利点があります。また、単なる数値指標に比べて原因が具体的に分かるため、対策を講じやすいのも強みといえるでしょう。
2. パラメータやデータ構造への依存
一方でNMFのような手法では、あらかじめ指定するコンセプト数やパッチサイズ、あるいは埋め込みベクトルの次元など、多くの設計上の自由度があります。それをどう最適化すれば最も人間にとって意味のある分解となるかは、まだ定型解があるわけではありません。
また、基底モデル(たとえばResNetやBERTなど)のどの層で活性を取り出すかによっても、得られるコンセプトの粒度や意味が変わります。具体的には、表層に近い層では色や縁取りなどの低レベル情報が中心になり、深い層ではより抽象的な特徴が抽出されるのが一般的です。
3. 不確実性スコアの計測自体の課題
MC DropoutなどでEpistemicやAleatoricを分けられるとはいえ、実際には未知の未知というか、想定外のデータが来たときの振る舞いまで厳密に測定するのは困難です。しかもモデルが極端に不確実なサンプルについて、いくらコンセプトをいじってもスコアがあまり変わらないケースもあり得ます。著者らは今後、重要度測定の手法改善の必要性も示唆しており、より洗練された測定アルゴリズムへの発展が期待されます。
4. 公平性と倫理への応用
性別や人種といったセンシティブな情報が、どこまでモデルの混乱や偏りに影響しているかは、社会的に大きな問題です。CAVを利用すれば、データ中で活性化しているセンシティブな概念を特定し、それが不確実性や誤差を生じさせている原因となっているかを検証できます。
もちろん、これをどう政策や実装に落とし込むかはまた別の議論ですが、少なくともモデルのブラックボックス性を和らげ、公平性を損ねる要因を見つけ出すための有力な一歩にはなるでしょう。

本研究の意義
本研究は、モデルの不確実性をなぜそうなるのかという観点で説明する手段として、コンセプト(CAV)を活用する提案をしています。局所的にもグローバルにも、どんな概念が不確実性の原因となりやすいかを可視化し、その知見をもとに再学習やサンプル選択、あるいはリジェクト戦略に利用できるというメリットを示しました。
実験では、画像分類(ImageNet系のデータセット+OOD)の場面と自然言語(BERTで職業推定)の場面で効果を検証し、どちらでもコンセプト視点ならではの有用な洞察が得られています。
とはいえ、NMFに依存する設計の自由度や、ソボル指数による重要度計算の限界など、まだ改善の余地も多いとされています。モデルをより安全かつ公平に使うため、今後さらに発展するであろう分野として注目されます。

あとがき
人が何らかの物事を判断するときに「うーん、どうもピンとこない」と迷いを感じる瞬間があります。それは決して当てずっぽうではなく、曖昧さに直面したとき人間は追加の情報や根拠を求めるからこそ生じるプロセスともいえます。
機械学習モデルもまた、隠れたノイズや未知の要素に対して揺れ動くことを避けられません。ただ、その揺らぎの正体をきちんと捉えることができれば、システムはより信頼しやすくなるでしょう。
不確実性は、決してネガティブな要素ばかりではありません。モデルが「迷い」を示すということは、新たな知見や改善の可能性が隠れているサインでもあります。
今回取り上げたコンセプトベースの手法によって、そのサインをつかみやすくする道が開けてきました。次にモデルを検証するときには、「ただ当たっているかどうか」ではなく、「どうして迷っているのか」という問いを立ててみる価値があるでしょう。
今回の研究は、その揺らぎを概念という軸で捉え直すという、興味深い一歩を示しています。精度向上や公平性の確保に向けた幅広い応用を想像すると、今後の展開からも目が離せそうにありません。
