【短編小説】地上50センチの視界から見る路地裏(後編)
※こちらは、なんのはなしですか的な短編小説です。
物語が続いておりますので、
先に前編から読んでいただくことを
おすすめいたします。
背筋を伸ばしながら、あくびをする。
今日も、散歩してくるかにゃあ〜。
そんなことを思いながら、入口に向かうと、ご主人さまがドアを開けてくれた。
あの日、ご主人さまから別れを切り出されて以来、外出に寛容な日が増えている気がする。
気ままに散歩しながら、路地裏の様子を伺う。
以前まで居場所だったところには、とある男性が入ってきたようだ。
秘密の裏口がバレていないといいけれど。
そんなことを思っていながらも、そこから不法侵入する勇気などない。
外側から見るに留めておく。
今日は、いつもよりも近づいてみることにした。
あんなに距離を取っていたのに、こんなにいきなり距離を詰めて大丈夫なものだろうか。
そんな不安がなかったわけではないけれど、今まで安心して過ごしてきた居場所だっただけに、近寄りたくなった。
入口近くに座り込んでみる。
にゃあ。
(•••!!)
懐かしいなぁと思っていたら、無意識のうちに声が出てしまった。
声に気づかれたのか。それともたまたまか。
このタイミングで、建物の中から人が出てきた。
確実に目が合った。
中にいた男性は、入口にいる猫に気づいて、一度戻っていった。
「驚かせてしまったかにゃあ?立ち去ろうかにゃ。」
そう思っていたら、お水を入れたお皿を持って出てきてくれた。
「水しかないけど、よければ飲んで」
そう言いながら男性がお皿を床に置く。
初対面であるご主人さま以外の人を信じていいのか、とても迷ったが、喉が渇いていたことは事実だった。
そして、何よりもご主人さまとはまた違った安心感のオーラが出ていた。
一口舐めたら、もう終わり。
必死に水を飲んだ。
相当喉が渇いていたみたい。
その後、男性は自分のことをどう思って見ていたのかはわからない。
適度な距離感で、近くに座り、休んでいたように思う。
どれくらいの時間が経っていたのだろう。
水を飲み終えて、少し休憩もして、そろそろ帰ろうと決めて、立ち上がった。
人間は、「ありがとう」とか、「ごちそうさま」とか言うみたいだけれども、あいにく猫の言葉は、人間の言葉に変換されない。
小さな声で、「みゃあ」と言い、男性と建物に背を向けて歩き出した。
「また、おいで。」
そう声をかけてもらった。
また行ってもいいのかな、と思ったら、心が弾んだ。

それから、数日後。
ご主人さまから、声を掛けられる。
「みーちゃん。次のおうち、見に行こうか。あまり遠いところだと、みーちゃんがお散歩するにも困るかなあと思って、近くのエリアで探していたんだけどね。みーちゃん好きそうな場所見つけたんだよ。今から出かけよ?」
ひとり気ままに出かけることは好きだけれど、環境が変わることを極度に恐れるタイプである。
ご主人さまを応援したい気持ちは、もちろんあるが、それとこれとは別だ、と思っていた。
とはいえ、出かけることは、すでに決定していることのようだ。
ご主人さまに言われるがまま、出かけることになった。
自分にとっては、散歩コースの見慣れている道を、ご主人さまと一緒に歩くのは、なんとも不思議な感覚だった。
次のおうち、どこだろうなあ。
不安がいっぱいの散歩コースは、いつもと違う景色に見える。
怖くて前を見ることができず、ご主人さまの足もとだけ目で追って歩いた。
ご主人さまが立ち止まった。
「みーちゃん、ここを見てみるよ」
「みゃあ!」
まさか、あの場所だとは、思いもしていなかった。
〜つづく〜

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