『幸せ』への入り口は、すぐ近くに | 短編小説
こちらは、RaMの創作ストーリーです。
本日の🍀nanohanacafe🍀のお客さまは、子育て中のママさんです。
完全フィクションのなんのはなしですか短編小説です。あまり重くならずに、お読みください。
『幸せ』への入り口は、すぐ近くに
いつもは、子どもたちといる時間。
今日は、子どもの担任の先生から、「お母さんだけいらっしゃることができませんか?」と言われて、母ひとり学校に向かうこととなった。
子どもたちの世話を夫に任せ、家を出る。隣に子がいないことを、寂しく思うような、身軽に感じるような、不思議な気持ちだった。
普段、子どもたちとずっと一緒にいて、楽しいこともあれば、いろいろな思いで錯綜してしまうこともある。
ひとりの時間が取れることは、ありがたいことなのだけれど…。
意識的には考えたって仕方ないことだと思っている。この後学校に到着した自分の姿を想像しただけで、ネガティブ思考が止まらなくなった。
学校に行くことの憂うつさよりも、はるかにこの思考でいっぱいいっぱいになってしまう自分が、嫌になる。
子どもが、学校に行きたくないと思う気持ちも、わからないわけではない…。
大人の歩幅では、自宅から徒歩10分ほどの距離の遊歩道を、子どもたちはおしゃべりしながら、時に道草しながら歩くのかな…。
そんな想像をしながら歩いていると、気付いたら校門前まで来ていた。

学校に到着すると、担任の先生は笑顔で迎え入れてくれた。
先生の本音や心の内は、見えない。
本当は、親としてのできてなさを責めたい思いもあるのかもしれない。
我が子の状態のせいで、先生の仕事も増やしてしまっているかもしれない。
心の内がわかるということで、安心することもあるのかもしれないが、それによって傷つくこともあるのだろうし、結果がどうなるのかは、たぶん誰も知らない。
先生の心の内にあるものを言われなかったことだけが救いかもしれないのだ。
いずれにしても、これは、ただ自分の自動思考による被害妄想でしかないだろうということは、早くから気づいていた。
『一緒に育てていきましょう』という言葉。
この言葉は、今の自分にとって、心強いはず…そう思いたい。
その言葉通りに受け取ることができたら、どんなにいいだろうか。
届けようと発された言葉を、素直に受け取ることができなくて、面倒な保護者だと思われているかもしれないことを含めて、トゲトゲな感情に覆われている自分のことを、本当に嫌いになりかけていた。
どうして信じてあげられないのだろう。
先生のことも…、
何よりも大切な、愛する我が子や夫のことも…。
心の内がカタチになって見えたら、どれもはっきりする。
まるで重厚感のある濃いグレー色をしたもやもやは、少しは淡く、軽くなるのかな。

学校を後にしたわたしは、そんなことを思いながら、歩き始めた。
今の状態で、現実を受け入れなくては居られない自宅に帰るのは、少ししんどかった。
ダメ元で、夫に、「もうちょっと時間をもらっていいか」と聞いてみたら、珍しくすぐに返事が返ってきた。
「いいよ。ゆっくりしておいで。」
どうやら、何かを察していたらしい。
あれほどまでに、子どもたちと家にいるのがしんどくて、ひとりの時間が欲しかったはずなのに。
いざ、ひとりの時間ができても、今の自分には、行ける場所も、会いたいと伝えられる人も、いない。
みんな、仕事に、育児に、忙しいのだ。
そんな時に、突然付き合ってくれるような人は、思い当たらなかった。
『どこかで、お茶でもして帰ろうかな…。』
そう思っていたところ、一匹の黒猫が近づいてきて、足元にやってきた。
黒猫を撫でてみた。毛並みの良さが伝わってくる。
温かみを感じて、張り詰めていた心の中の糸が、ちょっとだけ緩んだ。
その瞬間、涙がとめどなく流れ落ちた。立っていられなくなって、近くにあったベンチに腰を掛けた。
知らない家の黒猫が、ただそっと近くにいてくれたことが、より多くの涙を誘っていた。

泣いたら、だいぶ気持ちが軽くなり、その分歩き出せそうな気がした。
すでに涙で化粧が落ちていることは想像できたけれど、どこかに寄り道したかった。
黒猫が、じっとこちらを見ている。
「ついてきてほしいの??」
身体も冷えちゃったから、温かいもの飲みたいんだけど、この黒猫の行方も気になる。
「•••数分だけなら、いっか!」
子ども心をくすぐられるような気分がして、不思議とワクワクしていた。それは、しばらく触れた記憶のない感情で、足取りも軽く感じられた。

5分ほど歩いていくと、とある建物の前にたどり着いた。建物内の様子を窺うと、何かのお店のようだ。
立ち尽くしていると、黒猫が建物の後ろに回ってしまい、1人になってしまった。この状況を不審に思われやしないかと、ドキドキする。
突然のことで、どうしていいかわからず困惑していると、建物の中から、一人の男性が出てきた。

「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました。」
建物の中から出てきた男性に、声をかけられた。
『あの・・・失礼ですが、ここは、どこでしょうか?』
「みーちゃんに引き寄せられてきてしまいましたか。最近、お客さんを連れてきてしまうんですよね、この黒猫。ここは、🍀nanohanacafe🍀です。誰でも、ふら〜っとお入りいただけます。メニューは、まだ手探りしている段階なので、少ないですけどね。寒かったでしょう。中に入って、休んでいきませんか?」
あの子は、案内猫だったのか。見知らぬ男性に誘われるがまま、中に入ってしまった。
何を隠そう、誘われたら、断れない体質なのだ。
「もしかして、ママさんですか?いや…。なんだか参観日のあとのような雰囲気を感じまして」
『そうです。でも、息子が不登校になってしまったので、参観日も行ってないんです。今日は、先生とお話しに行ってきて、そのまま帰りたくなくて、ボーッと歩いていた時に、黒猫ちゃんに出会って、ついてきました。』
あ…、余計なことまで話してしまったかも。と、気づいた時には、大抵もう遅いものだ。
話しながら、なぜだか、目に涙が浮かんでくる。初めて会った人の前で、涙を流すまいと、必死に堪えた。
「そうですか。じゃあ、家に帰る前のエネルギーチャージが必要ですね。バレンタインも近かったので、とっておきのスイーツがあるのですが、いかがです?もしお嫌いでなければ、コーヒーとのセットでお出しできます。」
『あ…お願いします。』
「はい。準備しますので、こちらの席に座って、お待ちくださいね。」
角のソファー席に案内された。
また断れない性が出て、注文までしてしまった。
ここまで来たら、いただいて帰ろう。
我ながら大げさだと思いながらも、覚悟は決まっていた。

気づけば、子どもたちのことばかり考えていて、自分のために、何か美味しいものを食べようと思うことも減っていた。
毎日必死に家事をして、子どもたちと遊んで、一生懸命生活をしてきたはずだ。
なのに、心が苦しいのは、なぜなんだろう。
涙で流したはずのグレーな感情に再び覆われ始めてきたところで、店内にコーヒーの香りが漂い始めた。
コーヒーはアロマだと思っていたけれど、自宅でコーヒーを飲む時には、感じたことのないぬくもりをまとった香りがする。この感覚は、これまで味わったことがなく、不思議な感じがした。
この温度感は、どこから来ているの?
そう思っていたところに、チョコレート菓子が3種類乗ったプレートと、温かいコーヒーが運ばれてきた。
コーヒーの良い香りに、自然と口元が緩む。
「バレンタインが近かったので、知り合いのパティシエから、チョコレートをいただいたのです。でも私がダイエット中でしたので、ヘルシーなものにしてもらいました。お豆腐で作った生チョコレート、米粉で作ったチョコブラウニー、おからで作ったチョコレートチップ入りのクッキーです。ヘルシーな食材を使っているので、ダイエット中でもお楽しみいただけるかと思います。それでも、チョコレートはちゃんと感じられますよ。試食しましたが、美味しかったです。コーヒーは、コクと苦味強めの深煎りのものをご用意しました。豆は、グアテマラ産です。濃厚なチョコレートとの相性は良いと思いますので、お楽しみください。それでは、どうぞごゆっくり。」

『これは…。』
かなり驚いた。突然訪れた店で、まさかこんなおしゃれなチョコレートをいただけるなんて、思いもしていなかったから。
『いただきます』
まずはコーヒーを一口いただく。
店主の男性がおっしゃるように、苦味もありながら、コクも感じられる。冷えていた身体の中に、ほどよい温度のあたたかい液体が流れ込み、一気に身体がほぐれていく感じがした。
さて、何から食べようか…。
ヘルシーな食材とのことだが、3種類も並べられると、目移りしてしまう。
先に一口含んだ苦めのコーヒーと合わせたくて、生チョコレートをフォークで刺して、口に運んだ。コーヒーで温められた口の中の温度も相まって、濃厚なチョコレートが溶けていく。豆腐が使われているとのことだったが、豆腐感は全く感じられない。ココアパウダーの苦みと、その中のまったりとしたチョコレートの甘さのおかげで、心の内の奥底までほぐれていくようだった。
次に、クッキーを一口食べてみる。おからを使っているとのことで、粉っぽいかと思いきや、思ったよりもさくさく食感のクッキーで、心地よく食べられた。少し感じる塩気もいい感じだ。
米粉のチョコブラウニーは、クルミ入りで、食感にもアクセントが加わっている。しっとりしていて、生クリームが少し使われているかな?と思いながら、一口ずつ味わっていった。
これだけ、目の前の食事に集中したのは、久しぶりだったかもしれない。夢中になって、チョコレートを食べ、コーヒーを飲んだ。
気付くと、お皿の上には、生チョコレートひと欠片だけになっていた。
濃厚な生チョコレートを、大切に口に運び、舌の上で溶けていくのを感じた。じんわりとチョコレートの香りが口の中に広がったところで、カップに残っていた一口分のコーヒーも飲みきった。
時間にしたら、20分ほどだったかもしれないが、時が止まっていたかと錯覚するほど、穏やかな時間が流れていた。
心が、完全に、満たされていた。

「ゆっくりできましたか?」
タイミングを見計らっていたらしい店主に声をかけられた。
『どれも、とっても美味しかったです。ごちそうさまでした。』
「それはよかった」と、おだやかな笑顔で言われ、初めて会う人にこれだけぴったりハマる商品を提供してくるこの人は何者なのだろう?と思う。
当たり障りのない会話をしながら、帰り支度をしていると、ふと現実を違う角度から見ている自分がいることに気づいた。いつもと違う心の中の自分が訴えてくる言葉たちを、そのままつぶやいてみた。
『どうしようもなく不安になったり、落ち込んだり。家族のことを責めたいわけではないのに、責めてしまったり。どれも、自分が傷つかないように、守りたかったのだと思います。傷つかないように生きるのは難しいですね…。でも、傷ついたら、その傷が深くならないうちに、癒やすことが必要なんだなと、チョコレートをいただいて思いました。』
「ケガをしたら、必要な治療をしますもんね。絆創膏貼ったり、薬を塗ったり。場合によっては、手術をして、療養しますしね。痛みが伴ったとしても、ひとりじゃないですから。甘さも大事ですよね」

店内にいた大人ふたりがよくわからない話をし始めたからか、さっきまでテーブルの近くにいた黒猫ちゃんが、ニャンのはなしですかと言わんばかりに、背を向け始めた。
突然の何の話かわからないつぶやきにも、応じてくるこの店主の男性は、やっぱり不思議な力のある人だ。
お支払いをして、お礼を言い、お店を後にする。
数時間前に涙を流していたとは思えないほど、心は軽くなっていた。
今なら、わが家に帰れる。
早く帰って、会いたい人たちがいるということが、幸せだ。

普段子どもたちを連れて歩いている時と、家までの道の景色は変わらないはずなのに、どこか違うように見える。
いつものように鍵を開けて家に入る。
やけに静かだと思ったら、3人並んで、既に眠りについているようだ。
確かに、夕食には間に合って帰ると思っていたから、何も準備していなかった。それも自宅にある物で頑張って作って、子どもたちに食べさせ、お風呂にも入れてくれたのだろう。
台所には、洗われていない食器があふれ、惨状となっていたけれども、夫の頑張りが見て取れた。
近くに行くと、気持ちよさそうに眠る3人の寝息が聞こえてきた。起こさないように、そっと子どもたちの額に手を添える。あたたかさを感じて、思わず頬が緩んだ。
あのカフェで感じたぬくもりを思い出し、夫の手のひらに自分の手を重ねてみた。
何も起こらない人生なんて、ないんだよね。
どんな困難も、辛いことも、あたたかさでそっとほぐして柔らかくして、みんなの両手で持てば、乗り越えられない壁なんてないはず。
きっと大丈夫。
この大丈夫に根拠はないかもしれないけれど、まずは信じてみることにしよう。
気を取り直して、日常に戻っていく。
台所に行き、大量の食器洗いと洗濯物を回して、明朝の日常の準備を始めた。
『幸せ』への入り口はこちらです
《了》
※本日の物語も、フィクションです。

〜 あとがき 〜
人生、いろいろありますよね。余白を作ることが大切だと思う、今日この頃です。
わたしに、子どもはおりませんので、母親というものの偉大さを感じつつも、その大変さはこれっぽっちもわかっていないかもしれません。
そんな簡単にいかないよ!というお声は、公開前から聞こえてくるようですが、登場人物の声に耳を傾けていたら、このような物語になりました。
月1開店している🍀nanohanacafe🍀。
これまでの物語は、下記マガジンに収容しております。
創作初心者の拙い物語たちですが、どうぞよしなに。
いいなと思ったら応援しよう!
応援くださり、ありがとうございます✨いただいたチップは、note活動のための研鑽、創作のために必要な文房具の購入費用として、使わせていただきます。