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彩りと心のしわあわせ【第13話】やってみたことで得られた宝物

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【第13話】やってみたことで得られた宝物



るいさんと約束した水曜日。
ちゃんとお店に来てくれたるいさんは、いつものコーヒーを飲みながら、そうたくんが来るのを待っていた。


15時を回ろうとしたその時。
ママに手を引かれて、そうたくんがやってきた。

「こんにちは。今日もわがままを言って、すみません。いつもよりは、早く戻ってこれそうなので、それまでどうか、よろしくお願いします。」

そうたくんのママは、そう伝えて、足早に去っていった。

そうたくんは、ママが去っていき少しは寂しがるかと思いきや、もう3年生にもなった男の子。

なによりも、るいさんが店内にいることに興味が湧いたらしく、一目散に駆け寄っていった。

「おばちゃん、久しぶりだねぇ!今日会えるかもしれないってママから聞いてて、楽しみにしてたよ!」

わたしも、るいさんに再会できたあの日は、心からうれしかったのだけれども、この目の輝きは、今のわたしでは出せないなあ。
そんなことを思いながら、ふたりが宿題の準備を始めていたのを見て、わたしもふたりの飲み物を用意する。そうたくんには、いつもオレンジジュース、るいさんにはアイスコーヒーだ。

最初の10分くらいは、わたしも、るいさんとそうたくんの宿題を見ていたが、珍しく店内にはお客さんがパラパラとやってきて、律輝さんが忙しそうにしている姿が見えた。

るいさんに、「ちょっと席外しますが、何かあったら呼んでください」とメモを残し、ホールに回った。

アイスコーヒーの注文がたくさん入ってくるのを見て、今日は外の気温が高めであることを知る。

ケーキセットがよく売れた。
飲み物と一緒に、律輝さん特製のオレンジマーマレードをのせたシフォンケーキが、どんどんお客さんのテーブルへ出されていく。

宿題終わりの2人に提供しようと思っていた分まで売れるほど、平日の割に珍しく盛況していた。

わたしが落ち着いたのは16:30だった。
飲み物のおかわりと金平糖を持って、急いでふたりのもとに行く。

「一緒にできなくて、ごめんなさい!あれ。もう宿題全部終わったの??」

「うん、終わったよ〜!おばちゃん、わかりやすく教えてくれたから、すぐできたよ。ママにも言わないと!」

そうたくんから褒められたるいさんも、まんざらでもなさそうだ。

そんな話をしていたら、そうたくんのママが迎えに来た。宿題が終わったそうたくんも、さっぱりした様子で、帰ったら遊ぶんだ〜!としきりに話していた。

「そっか~。教えてもらって、よかったねぇ。」とそうたくんのママは、にこやかに話を聞いてくれている。

そうたくんのママが、支払いをしながら、お礼を言ってくれた。
「とっても助かりました!ありがとうございました。」

「宿題終わっていたら、お家でゆっくりできますね!お気をつけて、お帰りくださいね。」


ママとそうたくんは、仲良さそうに帰っていった。



二人が帰った後、わたしは、るいさんのところに向かった。

「るいさん、教えるの上手ですね。もしかして、これまでに経験あったんですか?」


しばらく沈黙した後、話しにくそうに、答えてくれた。

「実は、家庭教師のアルバイトをしてたことがあったんです。10代の頃、たった数ヶ月ですけどね。」

「学校の先生になることに憧れて、大学に入って、家庭教師のアルバイトも始めたのですが、まあ、合わなかったみたいで、引きこもってしまいました。そこから、今日までまったく教えるという機会がなく、過ごしてきました。今回自信がなかったので、勉強し直しましたよ。昔のテキストだったので、範囲は違うかも…と思いつつ、基本は抑えておかないと。家にワークブックがあって、助かりました。」


なるほど、と納得した。るいさんは、元々教えることに興味があった人らしい。
それにしても…数日前にお願いして、そこからワークブックを引っ張り出して、予習して来てくれるなんて、どこまでまじめな方なのだろう。失敗への恐怖もあるのかもしれない。だとしたら、家から出られなくなることも、理解できる気がした。

「わたし、ずっと見ていたわけじゃなかったですけど、るいさんには、素質があるなあと思いましたよ。驚きました。わたしも勉強教えてもらいたかったですもん。」


少しの間、無言の時間が続いた。
しばらく待ってみると、るいさんが小声でこうつぶやいた。

「そうたくんが、少しでも勉強楽しいな、と思ってくれるようになったら、うれしいな。」


その時の笑顔は、これまでに見たことないような穏やかなものだった。

今日、たった2時間だったかもしれないけれど、るいさんにとって、大きな価値のある時間だっただろうと思う。

「今日は、いつもと違うことをして疲れたと思うので、しっかり休んでくださいね。これお渡しします。とっても助かりました。本当にありがとうございました。」

お店のミニカードを渡した。
今日は、気持ちがやすらぎそうな、淡いグリーンカラーのカードにした。

心の奥に秘めたあたたかな光。
どんなに小さなものであっても、
大切にできたなら、
あなたの一番の応援団になってくれる。
そう信じています。



「こちらこそ、ありがとうございました。」
るいさんは、そう言って、帰り支度を始めた。


るいさんが店の出口に着いた時、律輝さんがわざわざキッチンから出てきてくれて、あいさつしてくれていた。



些細なきっかけだったけれども、ひとりの人の人生を変える時間となることがある。

今回は、たまたまるいさんの変化に立ち会わせてもらったけれども、わたしだって、何も安心がない中で、外への一歩を踏み出せるかと言われたら、難しい。


「律輝さん。あーちゃんの体調は、どうでしょう?ちょっとお店のことも含めて、相談したくて。」

「聞いてみるよ。できるだけ早くがいいんでしょ?」

「はい。ありがとうございます。」


律輝さんは、わたしたち姉妹のことも、よく理解してくださっている。

「あーちゃんは、とってもステキな人と巡り会えたんだなあ」と妹から見ても、うらやましく思う。


ぼーっとしながら、テーブルを拭いていたら、律輝さんから話しかけられた。
今日の夜、大丈夫らしい。貴重な時間にお邪魔することは、申し訳ないな…と思いつつ、お言葉に甘えて、お邪魔することにした。


「あの地域に人気な場所にしようと思ってる」

最初に彩芽から聞いた言葉には、おそらくおばあちゃんの意思を受け取ってのことだっただろう。

おばあちゃんが亡くなった今、どのように考えているのか、聞きたい。これからの展開も含めて、すり合わせをしたいと思っていた。


律輝さんの業務が終わり、一緒に彩芽が待つ家に向かった。


第14話へつづく

#創作大賞2024
#お仕事小説部門



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