多くの人を沼らせる幸せな道化師の魅力から学ぶ、生きる価値。
一瞬で視線を奪われた。
でも、見てはいけないもののような気がして、目が合う前に、視線を反らした。
見てはいけないものに限って、視線を奪われてしまうのは、なぜなのだろうか。「怖いもの見たさ」なのか、はたまた「見てくれなきゃ困るよ~」という圧に押されているだけなのか。
定かではないが、わたしが目にしたそれには、何らかの魔力が秘められていると思っている。
そして、それを目にした者たちは、こぞって、それに勧められるとある名品に、心も胃袋も掴まれてしまうのだ。
2025年5月中旬。
わたしは、夫と共に、北海道函館市に行くことになった。新幹線の切符が、安く抑えられたのだ。
2泊3日の弾丸旅行。せっかく行くのであれば、現地ならではの体験をしたいと思い、夫婦で「函館旅行」のオススメを検索して、プランを設定することにした。
夫は、函館市には初上陸。
一方、わたしは、人生で3度目の函館上陸となる。
過去2度の来訪は、修学旅行に、過去の職場での職員旅行。完全プライベートで行くのは、初めてのこと。
しかも、北海道新幹線が開通してからは、始めての訪問となれば、新函館北斗駅にも初めて降り立つことのできるというワクワク感も加わった。
函館について調べていく中で、ひときわ目を惹く存在があった。
北海道函館市内に 店舗ある飲食店。
『ラッキーピエロ』
実は、函館に来るのは人生で3度目となるわたしも、その建物こそは見たことがあっても、今まで店内に入ったことがなかった。
存在はなんとなく見かけていても、一度も入ろうとせずに素通りしてきたのは、店内の見た目から圧倒される独特の雰囲気だったのだろう、と今となっては思う。
加えて、ピエロに対する印象の影響も大きい。

ちょっと不気味なような…
この派手やかなピエロだ。
ピエロ。
意味を調べると、こんな説明文が出てきた。
サーカスなどの狂言回しをつとめる道化役者。
紅を入れた白塗りの顔、長袖の寛衣、こっけいな動作などを特徴とする。
元来、イタリアの即興喜劇中の道化役がフランスのパントマイムの役柄に取り入れられたもの。
人前で、こっけいな振る舞いをする人。笑いものになるだけの人。
とある映画の影響もあるのか、「ピエロ=不気味」という謎の方程式が、私の脳内を占領していて、「ここは、入ってはいけない店なのかもしれない」と、思い込んでいた。
とはいえ、『ラッキーピエロ』は、函館市初上陸の夫が「行きたい!」と一番初めに候補として挙げてきた店。
さもなれば、店内に行かないという選択肢さえない。

函館市にまつわる情報を調べていると、必ずと言っていいほど出てくる『ラッキーピエロ』でのお食事シーンに、何度そそられたことか。
行かないわけにはいかないのだ。
できる限りの予習をして、ピエロへの不信を薄めようと努めた。

満開に咲いていた、一番の見頃である八重桜を見るのもほどほどにして、函館到着後の空腹なわたしたち夫婦は、早速お店へと向かった。

今回伺ったお店は、ラッキーピエロ マリーナ末広店。
入口には、早速ピエロが鎮座していて、わたしの緊張感が高まる。入れなくなる前に、空腹の勢いのまま入店した。
先に注文して、後から席を確保するスタイル。
注文時に受け取った紙に席番号を記載して、指定の場所に出しておくと、店員さんが席まで料理を運んでくれるらしい。「郷に行っては郷に従え」の言葉通りに、店員さんの指示に従うことにする。
お昼時ということもあって、注文レジには長い列ができており、店内もかなりの賑わいだ。
多くの方が楽しそうに飲食をしている様子を見て、わたしの中にあった方程式は、勝手な思い込みであり、誤った認識だったのだ、と気付くことになる。
注文の列に並ぼうと、最後尾へ向かう。
こんな派手な椅子がお出迎えしてくれるお店は、おそらく、どのチェーンのハンバーガー屋さんや、ファミリーレストランにはないだろう。

店内の写真を撮れるくらい、列の進み具合が、少しゆっくりめだったのは、お昼の時間帯、地元客ではなく、観光客が訪れる時間だったからなのかもしれない。
夫と入れ替わりながら、列に待機して、少し店内を散策した。
マリーナ末広店といえば、2024年公開の映画、『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』でも飲食シーンがあったらしい。

この聖地巡礼用の席は、どの時間帯に行っても、食事を楽しんでいる方がいらっしゃった。

入店される人の中には、怪盗キッド様やコナン君のぬいぐるみキーチェーンを手にした人もいたから、公開から年月が経ったとしても人気なのだろう。

この看板が一番こわかったかも。。。

ツッコミどころ盛りだくさんな店内。
こちらのお店は、どこかアンティーク感漂う店内。立地的に、赤レンガ倉庫が立ち並ぶベイエリアだったことも影響していそうだ。
お店によって、装飾のスタイルや、商品の値段が異なるとのこと。
ちなみに、今回は伺えなかったのだが、車で移動ができる方は、本店に行くのが楽しそう。
さて、話を戻そう。

事前に調べて、食べたいと思っていたメニューをセレクトした。いくら空腹とは言え、ふたりで食べるには多すぎたか?と、心配になりながらも、注文を済ませた。
できるだけ海の見える窓側の席が空くのを待って、着席。

賑やかな入り口付近とは打って変わって、
海も見える、おしゃれな内装。
初めて行くレストランのシステムで、ドキドキしながら注文した商品は、ほどなくして、どれもできたて熱々の状態で運ばれてきた。
ダントツ人気ナンバー1セット(チャイニーズチキンバーガー、ラキポテ、自家製ウーロン茶)

それに加えて、注文した
チャイニーズチキンオムライス

この写真で、伝わるだろうか。
頼んだ商品が並んだ自分たちのテーブルは、「おいしそう…!」に溢れていて、圧巻だった。
なんとも食べ応えがバツグンそうな、お料理たち。ドキドキわくわくの実食タイムである。
まずは、チャイニーズチキンバーガー。

こちら、チャイチキバーガーと呼ばれて愛されている、一番の看板商品とも言えそうな一品。
大きめの甘辛な味付けの唐揚げが3つと、シャキシャキの新鮮レタスとマヨネーズが、たっぷりとゴマが散りばめられたパンにサンドされている。
唐揚げはアッツアツの状態で、火傷しそうになるけれど、味付けが絶妙で、次から次へと口に運びたくなる。マヨネーズがいい仕事をしていて、罪深い悪魔的な美味しさがある。
一口食べたら、知る前のわたしには戻れない。
その表現がピッタリとハマる感覚だ。
そして、バーガーに添えるものと言えば、ポテト。『ラッキーピエロ』での名物と言えば、このラキポテなのだそう。

太めで、ホクホク感の強いポテトに、ミートソースとクリームソース(チーズソース)が、贅沢にもたっぷりかけられている。
ソースはかけられた状態のため、手で掴んで食べるわけにはいかない。フォーク必須だけど、これもハマっちゃう味で、みんながリピートしたくなる気持ちもわかる。
次に、視覚だけでも幸せになれそうな、チャイニーズチキンオムライス。

このオムライスのサイズは、もちろんのこと、卵の仕上がりが抜群で、驚いた。
固めの仕上がりかと思いながら、スプーンですくってみると、フワフワ感がしっかり残っている。
中のケチャップライスは、ちょっと中華味を感じたので、もしかすると、単純なケチャップライスではないのかもしれない。
卵にせよ、ライスにせよ、油を多めに使ってくれているのが、ものすごく伝わってくる(←褒め言葉)。
そこに、これまた大きめの甘辛な唐揚げが3つと、福神漬がちょこんと添えられている。
甘辛な唐揚げに関しては、既に触れているので、割愛。
福神漬と言えば、カレーライスのイメージだが、オムライスと一緒に食べる福神漬も、食感や酸味が加わって、味わいを深めてくれた。
商品紹介からも伝わるように、油感が強いものばかりで、レタスと福神漬しか、さっぱり担当がいないのだ。
罪深い味に魅了されてすっかりこってりしてしまった胃の中をすっきりさせて、もう一度、次の一口の幸せへと誘ってくれるのが、自家製ウーロン茶。

飲みきれず、持ち帰りました。笑
このダントツ人気ナンバー1セットは、本当に、よくできている。
すでに、満腹を感じているはずなのに、ひとくち、またひとくちと、オムライスやバーガーを口に運んでしまう。
気づけば、テーブルの上には、食べ終わった空の食器になっていた。

この1回の訪問では、足りなかった。
本能が、身体が、「あの味を、もう一度!」と叫んでいることに気づく夫婦。
結局、『ラッキーピエロ』にドハマリしてしまった。二泊三日の函館滞在中に、計3度もお店に訪問し、『ラッキーピエロ』の魅力を味わった。
夫に至っては、店内にあったガチャガチャまでして楽しんでいた。

旅行から戻り、既に1か月が経過しているものの、未だに、チャイニーズチキンバーガーの味が忘れられず、「これを食べたいがためにまた函館行きたいなあ」と、夫婦そろってつぶやくほどに、ぞっこんなのである。
なぜ、こんなにも、幸せな道化師は、愛されるのか。
これまで、入らず嫌いをしてきただけだった。
この魅力に染まっているのは、きっとわたしたち夫婦だけではないことだろう。
滞在中、お昼時以外にも訪問したが、朝早くから、夜遅くまで、店内には、いつも人がいた。
もちろん、店内にいる人の中には、観光客や修学旅行生もいたのだろうけれど、時間帯によっては、地元の方しか来られないだろうと思うと、多くの人から愛されるお店であり、味わいであり、キャラクターであることがわかる。
たった一度、足を踏み入れただけで、こんなにはまってしまった。
そして、推したいと思ってしまっている。
北海道道南地方にしかない、『ラッキーピエロ』の魅力は、なんだったのだろうか。
一番先に思い浮かべるのは、もちろん「味」である。
提供される商品の味は、お客さんの体験価値に大きく影響する。積極的にリピートしたいと思えるのは、ポジティブな経験が伴ってこそだ。
でも、ここでいうポジティブな経験は、味だけに留まらない。
飲食している時間。
店に到着するまでの道のり。
誰と過ごしたのか。
何を食べて、何を話し、どのように過ごしたのか。
そのような要素も、きっと体験価値に影響してくる。
加えて、「ラッキーピエロ」には、その地域に根付くためのブランディング力があった。
実は、これが一番大きいのではないかと思う。
全国各地からラッキーピエロに訪れた方の口コミを見ると、様々なところで、「全国展開になってほしい」というコメントを見かける。
旅先だけでなく、その地から離れた後でも、食べたいと思う味。
それだけ、この店での体験価値や満足感が高いということなのだと思う。
価格設定や、店内の装飾、各種キャンペーン。
『ラッキーピエロ』について調べていくと、地元密着型だからこそできる、地域への還元をしようとしていることを知った。
この企業の姿は、巡り廻って、地域だけにとどまらず、幸せ溢れる魅力が伝播していく。
もちろん、わたしも、「この店が、近くにあったらいいのにな」と思わないことはない。
けれど、それが、総合的に見て、プラスに働くかどうかは、わからない。
この『ラッキーピエロ』という存在は、むしろ函館市を中心とした北海道道南地方にあるからこそ、輝き続けられるということなのかもしれない、とも思う。
仮に、利益が、これまで以上になると見込まれることであったとしても、
手広くしすぎて、目の前の幸せが薄くなるのであれば、
届ける範囲を広げるよりも、
目の前にいる大切にしたいと思う人に、たっぷりの幸せやより濃厚な喜びを届けたい。
このように思うことは、生活者として、はたまた商品提供者として、起こってもおかしくはない感情のようにも感じる。
地元を重視して、おいしさを届け続ける。
地元密着型の信念を持っている、この『ラッキーピエロ』を、わたしは、心から尊敬する。
『ラッキーピエロ』から溢れる幸せともいえるべき魅力は、「口福」以外の言葉で表現することは難しい。
もちろん、表面上での美味しさは、間違いない。
『ラッキーピエロ』について知るには、まずは、食事をする時間がなくては始まらない。
その美味しさを作り上げてくれる店員さんや食材だけでなく、味わいを格上げしてくれているのは、その店が持つ歴史や信念なのだと思う。
他の地域では味わうことのできない、北海道道南地方でしか出逢うことのできない刺激を知ってしまったことは、幸せであり、切ないことでもある。
わたしの経験上の辞書に書かれている感情の中に、『ラッキーピエロ』で経験したものと重なるものは存在しないことに気づいたわたしは、またあの日の追体験ができることを、心待ちにしながら、目の前にいる大切にしたいことを、じっくりと温めながら深めていきたい、と思うのだった。
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