見出し画像

彩りと心のしわあわせ【第15話】想いをつなぎ、紡ぎ続けて

*この物語のはじめから読む*

第14話を読む*


【第15話】想いをつなぎ、紡ぎ続けて



5月に入り、新体制での営業が始まった。

基本的に、厨房は律輝さん、ホールと会計はわたし、ホールの提供手伝いと庭の整備などをるいさんが担当して、回し始めた。


そして、たまに、るいさんは、先生になる。

特に宣伝もしていないのだが、そうたくんの周りからの口コミが口コミを呼んで、勉強を教えてほしいという親子が来店されることもあった。

いきなり先生になるのも、るいさんに負荷がかかりすぎるかもしれないと心配していたが、ワークブックを見て、時折喫茶に置いているタブレットを活用しながら、それは上手に、一緒に勉強するスタイルを取っていた。


関わり方だけを見ると、先生という印象よりも、同級生に近い感じなのかもしれない。


役割というのは、人を大きく成長させ、自分への信頼にも繋がるようだ。


彩芽が週に3回ほど、喫茶に顔を出してくれるが、来るたびに、るいさんが楽しそうにされている様子に驚かされていた。


そして、今年もあの日がやってくる。
5月25日、はるくんの命日だ。

この日のお店の営業をどうしようか、と悩んでいた。

まず最初に、彩芽に相談をした。

「もちろん行ってきてよ!私、その時間だけお店に出るよ。るいさんもいるし、きっと大丈夫だから。」

それは、律輝も、るいさんも同じ返事だ。


谷口教授に連絡をとり、例年どおり待ち合わせの約束をした。加えて、お墓参り後のランチにと、【喫茶カラフル】へ誘った。教授からは、「もちろん」と返事が来た。

恩師に職場をみてもらうことは、恥ずかしさもあり、緊張や迷いもある。わたしの心の内は、複雑なものではあるが、今のカタチを見ておいてほしいと思った。




5月25日。
曇り空の隙間から、少しだけ陽が入ってくるような日だった。

待ち合わせ場所で、教授と合流して、はるくんが眠っている場所へ向かう。はるくんのご両親が出迎えてくださり、7回目のお墓参りを終えた。

教授と【喫茶 カラフル】へ向かう。

ドアを開けるとすぐに、「いらっしゃいませ」とるいさんが声をかけてくれ、席に誘導してくれた。

その手には、お水が2つ用意されている。

「え、わたしは仕事に戻りますよ。」

「ここなさんも、今日は、お客さんですよ。これは、わたしからではなく、律輝さんと彩芽さんからです。ゆっくりしていってください。オーダー決まったら、呼んでくださいね。」
そう言って、るいさんは去っていった。


見覚えのあるカードを渡された。
わたしが、ふだんお客様に渡しているお店のミニカードだ。2人からのメッセージが書かれていた。

いつもありがとう。

教授にも同様にカードが渡されていたが、何と書いてあるかは、わからない。

教授に「ランチセットでいいですか?」と尋ね、食後の飲み物も確認した後、再びるいさんを呼んだ。

注文を済ませて、ふぅっとひと息ついたところで、谷口教授から話しかけられた。

「普段は、こっちの視点で、お店のこと見ることないから、ちょっとした緊張感あるでしょ?」


「はい、だいぶ。」苦笑しながら答える。


「お客さんがどう感じるか、とっても大切な視点だと思うから、今日はいい経験ができるね。ところで、今注文を取りに来てくれた方が、前に相談しにきた時の方?」
 
「あ、そうです。」

教授は、察しが良い。やっぱりごまかしが効かないなとも思う。


「すごいじゃない。長年人との関係を閉ざしていたとは思えないスムーズさ。行動としては立ち止まっているように見えたかもしれないけど、ちゃんと心が動いていたんだね。」

「そうなんですかね。やっぱり祖母の存在が大きいと思っているのですけど。」


「おばあさんの存在と、いろいろな巡り合わせとタイミングが合うと、とてつもない変化が起こるものだよ。きっと、それをアシストしたのは、おばあさんではなく、あなただと思うけどな。いい仕事したと思うよ〜。」


「わたし、何もしてないですよ。ただただ、信じて待つことにはしてたんですけど。」


「それが、いい仕事なんじゃないか。これまでのあなたなら、自分がなんとかしてあげなきゃ、って思ってたでしょう。」
教授は、ははは、と声を出して笑いながら、こう話し続けた。

「なんとかしてあげるって言うことは、どこか、引っ張り上げる感覚になっちゃうからね。自分が先に立つ者で、こっちにきなよって、あたかも自分たちがいるフィールドに無理やり連れてくるような感じって例えると少しわかりやすいかなあ。『信じて待つ』って、とってももどかしいし、分かるからこそ何か手を差し伸べることをやりたくなっちゃうけど、今回は、喫茶スタッフとして関わったから、ひとりの人として見て、待つことにしたんでしょ。良い距離感だったと思うな。」


教授から言われたことを、自分の脳内で整理していたら、食事が運ばれてきた。
教授の分を律輝が、わたしの分をるいさんが提供してくれた。

「ご来店ありがとうございます。心和さんのお姉さんの夫です。【喫茶 カラフル】で厨房を担当させていただいています。本日のランチは、ナポリタン、彩り野菜のパセリパン粉焼き、トマトと卵のスープ、サラダです。サラダにかかっているのは、すりおろし玉ねぎドレッシングで、手づくりです。前の店主の味を思い出しながら作ってみました。まだまだ及ばないですが、どうぞごゆっくりお召し上がりください。」


「いただきます」とつぶやき、サラダを一口いただく。ドレッシングの再現度に驚きを隠せなかった。

この店でナポリタンは初めて食べる。美味しい。
教授も、「ここの食事は、彩りもいいし、どれを食べても、美味しいよね」と太鼓判を押してくれた。

おいしい食事を、ゆっくり味わいながら、時間をかけて食べる。
それだけで、心が満たされる感覚は、大切にしたいなあと思った。


ちょうど食事を終えたタイミングで、るいさんがコーヒーを持ってきてくれた。

教授が、るいさんに突然声をかけた。
「ここのお店、本当にステキですよね。」


るいさんは、一瞬驚いたようだが、強く頷いた後に、こう話し続けた。
「はい、本当にステキな場所で、ここで過ごした時間は、私にとってかけがえのないものばかりです。停滞してましたが、あの日々があったからこそ、諦めずに誘ってくれたおかげさまで、今の自分があると思えるようになりました。ご恩を忘れたことはありませんし、これからも今の自分に何ができるか、考えていきたいと思っています。」


「あなた、素晴らしいね。」

るいさんは、褒められて照れてしまったのか、お辞儀をして、バックヤードに下がっていった。


「今日も良い時間が過ごせたよ。ありがとう。」
教授は、お支払いを済ませて、お店を出るところだ。

「あ、わたしお見送りしてきます。」

るいさんに伝えて、教授と一緒に店を出た。


「教授、今日もありがとございました。あの…さっき言われたお話のことですが。これまで、自分がなんとかしないと!って思いが強くありました。だけど、相手には相手の生活があって、人生があって、他人であるわたしが何かできるわけでもないんですよね。仕事に自分をがんじがらめにされて、身動きが取れなくなるほど疲弊することもあったなあと、これまでの仕事への向き合い方を思い返しています。自分を支える生き方だけでなくて、みんなと支えあえる生き方もいいな、と気づきました。この仕事は、わたしにとっては適度な距離感を保てて、いいのかもしれません。」


「あなたは、真面目だからねぇ。仕事に囚われない方が、イキイキとできるのかもね。ここは、喫茶だけにとどまらない動きをしていきそうな予感があるよ。無理だけはしないようにね。」


教授は、「みなさんによろしく」と言い、手を振って帰っていった。


店に戻り、3人に感謝を伝えた。

お客さんになってみて、改めてステキな場所だったこと、これからも、この場を続けていけるように、細い糸を紡ぎ合わせて強くなれるように、何ができるかを考えていきたいと思っていることも伝えた。




今のわたしの仕事は、専門で何かをやっている人ではないし、ただの店員でもないと思っている。


その方によって、
癒しだったり、応援団になれたり、はけ口になったり。
ひとことでは言い表すことは、難しいようだ。

でも、日常の中に、気付いたらあるような存在になれたら、うれしい。

そんなわたしも、【喫茶 カラフル】で起こる彩り豊かな一コマに、心を動かされ、癒され、励まされている。

支え合いの循環が出来ているようだ。


おばあちゃんの手のひらからバトンを受け取った彩芽とわたし。
わたしたちは、この段階だからこそ感じられる幸せを噛み締めている。

これからもいろんなことが起こると思うけれど、手を取り合いながら、乗り越えていきたい。


1人ひとりが抱えている生きづらさを癒やしつつ、少しでも前を向いて、生活ができる日を夢見て。

わたしと【喫茶 カラフル】の物語は、それぞれの人生の時間を通して、カタチを変えながら、続いていくことだろう。


おしまい



最終話までお読みくださり、
本当にありがとうございました。
おまけの編集後記を、後日公開します。


#創作大賞2024
#お仕事小説部門



いいなと思ったら応援しよう!

RaM 応援くださり、ありがとうございます✨いただいたチップは、note活動のための研鑽、創作のために必要な文房具の購入費用として、使わせていただきます。