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第2話「できる子ばっかりに見えた日」

晴斗は、楽泳スイミングスクールへ入会した。

体験の時、
湊が優しく話しかけてくれたこと。

水の中に足をつけたこと。

少しだけ楽しかったこと。

その気持ちが、
晴斗の中に残っていた。

「やってみたい」

そう思った。

でも――。

最初のレッスンの日。

大きなプールを見た瞬間、
晴斗の足は止まった。

「……広い」

水面がキラキラしている。

でも、
今日は少し怖く見えた。

周りには、
もう泳げる子たちがたくさんいた。

バシャバシャ泳いでいる子。

楽しそうに潜っている子。

コーチに褒められている子。

晴斗は、
ぎゅっとお母さんの服をつかんだ。

目の前に大きなプール、たくさんの人 これが怖さにもなる

更衣室へ入る。

大きいお兄ちゃんたちが、
友達とふざけ合いながら着替えている。

笑い声。

大きな声。

走り回る音。

その声と、
その様子を見て、
なんだか怖かった。

晴斗は、
静かに隅っこで着替えた。

周りのみんなが、
大きく見えた。

自分だけ、
小さく感じた。

プールサイドへ向かう。

水の音。

笛の音。

みんなの声。

全部が、
少し怖い。

「……やっぱり帰りたい」

その時だった。

晴斗の後ろに、
黒い影が現れた。

「ほらな」

低い声。

晴斗が振り向く。

そこには、
大きな怪人が立っていた。

体には、
いくつもの鏡が埋め込まれている。

鏡の中には、
周りの“できる子たち”が映っていた。

怪人の名前は――

クラベール。

「見てみろよ」

クラベールが笑う。

鏡に映るのは、
泳げる子。

潜れる子。

笑っている子。

「みんなできてる」

「お前だけできない」

「お前だけ遅い」

「お前だけ怖がってる」

怪人クラベールが晴斗の前に現れる

晴斗は、
唇をぎゅっと噛んだ。

すると、
クラベールが耳元でささやく。

「やっぱり無理なんだよ」

「頑張っても、
できないやつはできない」

晴斗の目に、
涙が浮かんだ。

その時――。

「晴斗くん!」

湊の声だった。

晴斗が顔を上げる。

湊は、
優しく笑っていた。

「今日は、
水の中を歩くだけでも大丈夫やけんね」

「できることを、
少しずつやっていこう」

その瞬間。

クラベールが、
舌打ちした。

「ちっ……」

すると、
プールサイドの向こうから、
青い光が現れる。

ラクエイ・クロス。

ラクエイ・クロスは、
晴斗の前に立った。

クラベールが笑う。

「こいつは怖がってるぞ!」

「周りはみんなできる!」

「こいつだけできない!」

ラクエイ・クロスは、
静かに答えた。

「できないんじゃない」

「“今”できないだけだ」

クラベールが襲いかかる。

「そんなきれいごと!」

ラクエイ・クロスは、
晴斗を守るように前へ出た。

「怖くてもいい」

「不安でもいい」

「でも、
一歩やってみようとした」

「それは、
すごいことなんだ」

そして、
ラクエイ・クロスの拳が、
クラベールを吹き飛ばした。

「うわああああ!!」

クラベールの鏡が割れ、
黒い煙になって消えていく。

ラクエイ・クロスが晴斗の力になる

「くそっ……」

「また、
比べさせてやる……」

煙になりながら、
消えていった。

レッスンが始まった。

晴斗は、
怖かった。

でも、
湊がそばにいた。

「うん、いいやん!」

「歩けたね!」

「今日はここまでできた!」

少しできるたびに、
褒めてくれた。

晴斗は、
少しずつ笑顔になった。

帰り道。

お母さんが、
湊に頭を下げた。

「ありがとうございます」

「まだ怖がっていて……」

すると、
湊は笑った。

「大丈夫ですよ」

「晴斗くん、
ちゃんと頑張ってます」

そして、
優しく続けた。

「子どもって、
本人だけでも、
コーチだけでも、
上達できないんです」

「もちろん、
晴斗くんの頑張りは大切です」

「でも、
おうちでの“できたね”とか、
“頑張ったね”とか」

「そういう言葉が、
すごく力になるんですよ」

水泳はみんなの力で上達していく!

お母さんは、
静かにうなずいた。

すると、
湊はティッシュを取り出した。

「おうちで、
こんな練習してみてください」

「鼻から息を出す練習です」


【今回の練習方法】

① ティッシュを1枚持つ

② 鼻の前にティッシュを近づける

③ 鼻から
『ふーーーっ』
と息を出す

④ ティッシュが
ふわっと動けば成功!

ポイントは、
“強く”ではなく、
“長くやさしく”吐くこと。

遊びながらで大丈夫。

親子で笑いながら、
「動いたー!」
と言いながらやることが大切。

お家でできる呼吸の練習方法

その日の夜。

晴斗は、
家でティッシュを持っていた。

「ふーーー!」

ティッシュが、
ふわっと揺れる。

「わっ!」

晴斗が笑った。

お母さんも笑う。

「できたやん!」

「もう一回やろ!」

晴斗は、
何度も何度も、
楽しそうに息を吐いた。

そして、
次の週。

晴斗は、
プールサイドを走ってきた。

「コーチ!!」

湊が振り向く。

晴斗は、
ティッシュを取り出した。

「見て!!」

「鼻からできるようになった!!」

「おうちでいっぱいやった!!」

ふーーーーっ!

ティッシュが、
大きく揺れる。

湊は、
笑顔で拍手した。

「すごいやん!!」

「めっちゃ上手!!」

晴斗は、
嬉しそうに笑った。

その様子を――。

プールの物陰から、
クラベールが覗いていた。

「くっ……」

「“できた”を、
増やし始めたか……」

悔しそうに顔をしかめる。

でも、
晴斗はもう、
前みたいな顔をしていなかった。

怖いけど。

不安もあるけど。

それでも、
少しずつ前へ進み始めていた。

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