25曲目:ジュ・トゥ・ヴ【音楽レビュー】
こんにちは! 今日も来てくださってありがとうございます。今回はピアノ曲の中でも特に甘酸っぱいあの名曲をレビューしていきます。ちょっと期間が空いちゃったけど、不定期で投稿できるときに投稿するのでレビューシリーズ、楽しみにしていてくださいね。
概要:軽やか爽やか愛の歌
エリック・サティ 1900年
「ジュ・トゥ・ヴ」(作品番号なし)
フランス。それは愛と自由の国。ラヴェルやドビュッシーに代表されるように、小粋で叙情的な曲が作曲されるイメージがある(というか両者に強い影響を与えたのがサティなのだ)。別名は「音楽の異端児」。独自の路線を征く変わり者であり、芸術家なのだ。
彼の代表作には他にジムノペディが挙げられる。心の内面の絶妙な動きを描くのが得意な作曲家と言ったところだろうか。それにしてもジュ・トゥ・ヴ……「あなたが欲しい」なんてタイトルである時点でもうロマンス過ぎやしませんか。

・どうやら歌詞があるらしい
ちなみに曲の形式はシャンソン。今となっては歌謡の一ジャンルだが、かつてはざっくりと「歌」みたいな意味で使われた言葉のようだ(つまりカンツォーネみたいなもの)。面白いのが女声版と男声版で違う歌詞が用意されていることだ。要約すると女性版は「私の何もかもをあげるわ」、男声版は「お前のすべてが俺のもの(※ジャイアンではない)」みたいに主張もちょっとずつ違う。こりゃまた熱烈な歌詞。
※フランス語版の歌詞の和訳を載せたサイト(今回参考にさせていただいたもの)は最後の参考資料に置いておきます。
調べてみると「ワルツと喫茶店の音楽」として、ポーレット・ダルティのために書かれたのもののようだが、伴奏や器楽バージョンはサティが作曲しているとのこと。昼下がりにコーヒーを飲みながら聞き流すのに心地よいので、ぜひ一度ご視聴あれ。
感想:舞い上がる恋心を巧みに表現
アルペジオ(縦向きの波線部分)を巧みに利用した、穏やかで繊細なイントロ。7月の広場を吹き抜けるそよ風のような爽やかさを感じる。

この先は三拍子のままワルツだ。根底で弾むズンチャッチャなリズムに乗っかって心が小躍りしていく。この速度は弾いている人により絶妙に異なるが、それが各々の恋愛観を示しているようでまたいい。
さて、歌詞では女性からの(あるいは男性からの)熱烈な愛の歌ということが分かるのだが、器楽だけだと若い(恋愛を知らない)男性の純朴な恋心のようにも聴こえてくる。俗に言う「トゥンク」した胸の高まり。

それに加えて、恋に疎い少年が「何だこの気持ちは」となるような初々しく瑞々しい感情もうかがえる。多分、女子だともっとませてると思うんだ。ここにあるのは後に「あの頃は青かったな」と顧みるような愛にもなっていない我儘な欲求だけ。だからこそ「あなたが欲しい」なんていう直球なタイトルがつけられたのかもしれない。
胸が膨らんでいくように上がってー下がってーという呼吸みたいな音型もなかなかに秀逸。明らかなサビではない箇所にもささやかな感情が投影されている。楽譜を細かく見ていくと「あゝ、青春だぁ」と感じる部分がたくさん見つかるだろう。ジュ・トゥ・ヴはそんなエッセンスに満ちた曲だ。

中間部では「ドレミファソラ」で音が上がったあと、後先顧みないスキップが二回×2回分繰り返される。ワルツのズンチャッチャのリズムが薄れるくらい強烈な部分でもあり、もう恋に浮かれてウッキウキである。

大人っぽさを全面に押し出しながら実は少年少女の初心な恋愛模様を示した曲のようにも聞こえてくる。このあとに訪れるであろう別れとか人生の憂いとか、そんなもの一切知らないと言わんばかりの純粋な恋愛感情。
やはり、愛は世界を救う音楽を作る。
シャンソンなら伴奏に徹する部分もあるだろうが、ピアノソロで演奏する場合には淡々と弾くのではなく、遊び心を込めて鍵盤を叩いてほしいなと願うこの頃。一度弾き始めたら最後まで止むことのないスピード感。後先考えずに動いたあの頃、若い心を忘れちゃった大人にこそ聴いてほしい名曲だ。
おすすめ音源
幸いにもユーチューブには録音状態や速度、様々なカスタムで色々なジュ・トゥ・ヴがアップロードされている。色々聴いて好きな一曲を見つけ出してほしい。
こちらは音が柔らかく余韻が強いバージョン。淑やかだが同時に女性的で複雑な感情が引き立てられる。ノスタルジックな音質の中で後腐れのない感傷に浸れる。
ピアノにソプラノ、それからチェロもやってきて3人で作るジュ・トゥ・ヴ。フランス語がわからなくても大丈夫。滑らかでアンニュイな表情で歌われる音楽の輪の中には確かな愛情を見いだせるだろう。
最後に
楽しく演奏するってなかなか難しいことですよね。私が大学時代にオーケストラに所属していた頃、ほとんどが初心者で構成される団体だったために、私含めてみんな生真面目に譜面を追うことしかできませんでした。ところが、OBの先輩が練習しているのを聴くと何かが違う。上手いのはもちろんなのですが、横顔がすごく楽しそうなんです。結局私には感情を音に込めるということは出来なかったのですが、そんなエピソードを思い出させてくれる音楽でした。聴いている人も奏でている人も感情に浸れるのが音楽のいいところだと私は思うんです。
参考文献
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。もし面白いなと思っていただけたら「スキ」を頂けると嬉しいです。また次回の更新もお楽しみに!
追記)2025.0912 サムネの文字を変更しました。
