わたしいきてる〜第30話 ぴーちゃんの麻痺している左腕
入院36日目。9月2日。
あっという間に9月になった。
今日はいいことがたくさんあった日だった。
3回目の手術の後から始まったバケツで被ったくらいのぴーちゃんの寝汗、薬の匂いの汗が
とにかく臭かったのだが、その汗がようやく落ち着いた。
汗をかくたびに、看護師さんを呼んで下着もパジャマも着替え、シーツを替えてもらっていた。
そのぐらい大量のきつい匂いの寝汗をかいていた。
3回の手術で使った薬がようやく出きったか、汗も落ち着いて、ぴーちゃんは朝までぐっすり眠ってくれた。
気づいたら朝の5時半。ぴーちゃんが入院してから私がこんなにぐっすり眠れたのは初めてだった。
午前の車椅子のお散歩が日課になったぴーちゃん。1階のコンビニに行くエレベーターの中でぴーちゃんが私に聞いた。
「ママ、私の左手ってもう一生動かないのかな?」
左手が動いていた時の自分を思っているのだろうか。ぴーちゃんの切ない質問を私はこう切り返した。
「人間の体はね、可能性に満ち溢れてるから、動かそうと思えば動くし、動かそうと思わなければ動かないんだよ。ただそれだけのことだよ。」
ぴーちゃんは無言のまま、エレベーターが1階に着いた。
車椅子のぴーちゃんを連れてコンビニへ入り、雑誌を選ぶことに集中していた私に、ぴーちゃんが話しかけた。
「ママ、動いたよ。」
「え~~何が動いたの~?」
能天気な私が、雑誌コーナーから視線を横にいるぴーちゃんへ移すと
さっきまで麻痺して動かなかった左腕が動いている!!
『うそ!!え??』
「やったー!!やったねーーー!!」
と私が喜ぶと、
「やってやろうと思ったら動いたんだよ!
人間の体ってすごいね。」
ぴーちゃんは、私の理論を実践で証明してくれた。
私は、一筋の光を信じる勇気が、人を行動させてくれることを学んだ。
今日もリハビリの時間がやってきた。いつものOTの先生に、朝のうれしい左手のことを報告した。
「すごいねー。じゃあ、今日は座る練習をしてみようかな。」
と、自分の左手と右手に体重をかけて座るリハビリを始めた。
右手も左手も筋力が落ちているから、ちょっとだけ負荷をかけて、なおかつ自力で背もたれなしで座れる未来が見える。
なんとよく考えられているんだろう。 未来が明るく見えるリハビリがぴーちゃんは大好きだ。
自分の手で支えて一人で座れた時のぴーちゃんの笑顔。
まだ顔面にも麻痺があるから笑顔は歪んでいる。
でも、本当に最高にかわいい笑顔だった。
31話に続く
