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[上は現場を分かっていない]で止まる人へ医療職に必要な視座・視野・視点の話

マネジメント初心者の医療職が最初に身につけたい「物事の見方」


医療現場で働いていると、こんなことを思う場面があるはずです。

[このやり方、無駄だな]
[もっと効率よくできるのに]
[なんでこういう運用になっているんだろう]
[上は現場を分かっていない]

こうした違和感は大事です。
改善の種は、たいていそこにあります。

ただし、その違和感をそのまま出すだけでは、改善はなかなか進みません。
現場の不満で終わることが多いです。

では、同じように現場の課題に気づいていても、改善を前に進める人と、進められない人の差は何か。
私はそれが[視座・視野・視点]の差だと思っています。

この3つは似ているようで、実は別物です。
そして医療職、とくに主任、係長、教育担当、リンクスタッフのように、少しずつ管理や調整に関わる立場になると、この3つを分けて考えられるかどうかで仕事の質がかなり変わります。

しかも、これは精神論ではありません。
医療の管理に関する研究では、対話や支援を重視する管理のあり方は、職員満足、患者安全、医療の質に良い方向でつながりやすいと整理されています。 
また、[分からない][危ない][こうした方がいい]を言いやすい空気、つまり心理的安全性は、学習、改善、発言、安全の土台になるとされています。 

つまり、視座・視野・視点を整えることは、ただ頭が良さそうに見せるためではありません。
医療の質と安全を上げるための、かなり実務的な話なのです。


視座・視野・視点は何が違うのか

先に結論を言います。

視座は、どの立場で考えるか。
視野は、どこまで広く見るか。
視点は、どんな切り口で考えるか。

この3つです。

似ていますが、役割が違います。
ここを混ぜると、話が一気にあいまいになります。


視座とは、どの立場の高さで考えるか


視座とは、思考を置く位置です。
簡単に言うと、[誰の立場で考えているか]です。

同じMRIの予約枠の問題でも、立場によって見え方は変わります。

担当者なら、
[今日の検査が回るか]
を考えます。

主任なら、
[スタッフ配置と枠の使い方は適切か]
を考えます。

係長や課長なら、
[部門全体の安全性、効率、教育に無理はないか]
を考えます。

経営に近い立場なら、
[その枠の使い方は病院全体の収益、地域での役割、患者満足にどう影響するか]
を考えます。

この違いが視座です。

医療現場では、忙しいほど視座が下がりやすいです。
目の前の患者さん、目の前の検査、目の前のトラブルに追われるからです。
これは悪いことではありません。現場では必要です。

ただ、管理に関わるなら、それだけでは足りません。

視座が低いままだと、問題は[忙しい][人が足りない][上が分かっていない]で止まります。
視座が上がると、
[本当に人が足りないのか]
[業務の置き方が悪いのか]
[そもそも運用設計に無理があるのか]
と考えられるようになります。

つまり、視座が上がると、感情から構造へ移れます。

これは今の医療制度とも相性がいい考え方です。
実際、診療報酬改定の全体方針でも、医療DX、チーム医療、機能分化、連携、業務改善が重視されています。つまり、[自分の仕事が大変]ではなく、[病院としてどう機能するか]が問われているということです。 


視野とは、どこまで広く見ているか


視野とは、物事を見る範囲です。

自分の担当だけ見ているのか。
自部署まで見ているのか。
他部署とのつながりまで見ているのか。
病院全体まで見ているのか。

これが視野です。

医療は、一つの職種だけでは完結しません。
医師、看護師、放射線技師、臨床検査技師、薬剤師、事務、地域連携。
それぞれがつながって、ようやく患者さんに医療が届きます。

だから、視野が狭いと問題を取り違えます。

例えば、検査開始が遅れるとします。
視野が狭いと、
[技師の動きが遅い]
で終わります。

でも、視野を広げると、

病棟からの搬送連絡が遅い、
前処置の説明が統一されていない、
オーダー優先順位が不明、
医師確認で毎回止まる、
帰室先調整が弱い、

こういう流れの問題が見えてきます。

つまり、視野が狭いと個人の問題に見える。
視野が広いと流れの問題に見える。

この差はかなり大きいです。

しかも今の制度は、まさにこの[流れ]を評価しようとしています。
救急医療では、24時間の受け入れ体制、人員配置、検査・処方の実施体制、地域救急への取り組みが評価対象になっています。 
急性期でも、多職種が協働して病棟を回す体制を評価する加算の考え方が示されています。 

つまり、視野を広げることは、現場のためだけでなく、制度の方向にも合っています。


視点とは、どの切り口で考えるか


視点とは、評価の切り口です。
同じ出来事を、何を基準に見るかです。

例えば、新しい運用を導入する時でも、切り口は1つではありません。

安全性はどうか。
患者さんに分かりやすいか。
スタッフの負担はどうか。
収益にはどう影響するか。
教育コストはどうか。
他部署との連携は壊れないか。
半年後も回るのか。

これが視点です。

医療職は、どうしても自分の専門の視点が強くなります。
放射線技師なら画質や検査効率。
看護師なら安全性や患者対応。
医師なら診断や治療。
事務なら請求や運用の整合。

どれも正しいです。
ただ、管理では[自分の専門の正しさ]だけでは足りません。

現場では完璧でも、教育負担が重すぎて広がらないことがあります。
逆に、現場では少し手間でも、算定漏れを防げるなら病院全体では意味が大きいこともあります。

あなたの改善活動でも、現場から出た案は、物品見直し、算定漏れ防止、ルール修正、教育、効率化、システムと、かなり幅広かったはずです。実際、放射線課のパイロット運用では、改善案が85件集まり、その内訳も診療報酬、物品、運用、教育・システムに分かれていました。 
これは、現場に改善の種はあるが、それをどういう視点で整理するかが大事だということです。

視点が少ない人は、正しいけれど浅い。
視点が多い人は、現実に強い。

そう言えます。


マネジメント初心者が最初にぶつかる壁

マネジメント初心者は、だいたい次のどれかで止まります。

1つ目は、視座が上がらないことです。
役職はついたけれど、思考はまだ担当者のまま。
そのため、[自分が大変か][自分が納得できるか]で判断してしまいます。

2つ目は、視野が広がらないことです。
自部署の中では優秀でも、他部署とのつながりで見られず、改善案が局所最適になります。

3つ目は、視点が少ないことです。
安全か効率かのどちらかだけで見てしまい、結果として定着しません。

ここで大事なのは、役職がついたから急に全部できるようになるわけではない、ということです。
最初はできなくて普通です。

問題は、できないことではありません。
自分が今、どこで止まっているかを言葉にできないことです。



医療の管理で、なぜ[厳しく回す]だけではうまくいかないのか

ここは初心者ほど誤解しやすいところです。

管理というと、
[指示を出す]
[守らせる]
[甘やかさない]
というイメージを持ちやすいです。

もちろん、医療なのでルールは必要です。
安全のために曖昧にできないことは多いです。

ただ、研究を見ると、医療の管理で成果が出やすいのは、単に厳しい管理より、対話・支援・巻き込みを重視する型です。
複数の見直し研究では、関係を重視する管理のあり方は、職員満足、追加努力、患者安全文化、医療の質などに良い方向でつながりやすいと整理されています。 

これは[優しくしよう]という話ではありません。
[言わせる力]と[巻き込む力]が大事、という話です。

医療現場では、ヒヤリ、違和感、無駄、危険は、上の人ほど見えません。
一番先に気づくのは、現場です。
だから、管理者がやるべきなのは、全部自分で見抜くことではなく、現場が言える状態を作ることです。



心理的安全性がない職場では、改善は止まる

ここで大事になるのが心理的安全性です。

少し難しい言葉ですが、意味は単純です。
[この場で、分からないと言っても大丈夫]
[危ないと指摘しても干されない]
[改善案を出しても嫌な顔をされない]
そう思える空気のことです。

医療チームにおける心理的安全性の見直し研究では、これがあることで、発言、学習、チーム機能、安全、高い質の医療につながりやすいと整理されています。 
AHRQも、助けを求めること、新しいやり方を試すこと、失敗から学ぶことを支える環境づくりを、良いチームの条件として示しています。 

逆に、心理的安全性がない職場ではどうなるか。

みんな黙ります。
問題が見つかっても上がってきません。
表面上は静かでも、中では事故の芽が育ちます。

だからマネジメント初心者ほど、
[正しいことを言う]より、
[言える場を作る]
を先に意識した方がいいです。



現場改善が通る人は、熱意がある人ではなく、整理がうまい人

現場でよくあるのが、正しいのに通らない改善案です。

例えば、
[この物品は高いから変えたい]
という提案。

現場としては正しいかもしれません。
でも、管理の話にするなら、

感染面は大丈夫か。
在庫管理は変わらないか。
他部署でも同じ物品を使っていないか。
年間でいくら変わるか。
説明と教育の手間はどれくらいか。
変更後も再現できるか。

ここまで整理しないと弱いです。

逆に言えば、ここまで整理できれば、かなり通りやすくなります。
たとえば、フォーマットを作成し、
課題、目的、改善内容、期待効果、測定方法、スケジュール、関係部署を、並べます。
これを単なる書類ではなく、視座・視野・視点を強制的に広げる道具にします。

つまり、改善を通す人は、気合いが強い人ではありません。
整理の精度が高い人です。



どう鍛えるか

ここまで読むと難しく感じるかもしれません。
でも、最初にやることはかなりシンプルです。

問題が起きたら、まずこう聞きます。

[これは、自分の仕事の話で終わっていないか]

これで視座が少し上がります。

次にこう聞きます。

[この問題に関わる部署はどこか]

これで視野が広がります。

最後にこう聞きます。

[安全、患者、現場、経営の4つで見るとどうか]

これで視点が増えます。

マネジメント初心者のうちは、これで十分です。

いきなり立派な管理者になる必要はありません。
ただ、

立場を一段上げる。
範囲を一段広げる。
切り口を一つ増やす。

これを繰り返すだけで、思考はかなり変わります。


まとめ


視座は、どの立場で考えるか。
視野は、どこまで広く見るか。
視点は、どの切り口で考えるか。

医療職のマネジメント初心者が最初にやるべきことは、
部下をうまく動かすことでも、立派な提案書を書くことでもありません。

まず、自分の見方を変えることです。

自分の仕事だけを見る人は、忙しさに振り回されます。
部署まで見られる人は、改善の入口に立てます。
病院全体まで見られる人は、改善を成果に変えられます。

そして、その方向性は、研究とも、今の制度とも一致しています。
医療の管理では、対話・支援・巻き込みが成果につながりやすく、心理的安全性は改善と安全の土台になります。 
さらに、制度は[個人の頑張り]より[体制と連携]を評価する方向に進んでいます。   

つまり、視座を上げること、視野を広げること、視点を増やすことは、意識高い話ではありません。
今の医療で成果を出すための、かなり現実的な技術です。

最初の一歩はこれで十分です。

[この話は、自分の仕事の話で終わっていないか]

ここから始めれば、現場の違和感は、ただの愚痴ではなく、病院を良くする提案に変わっていきます。

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