僕の憧れ〈夢〉、俺が知っている一番の英雄〈日和〉 日和・直人 アフターSS

ある日の休日。俺は部屋を軽く片付けていた。普段から片付いているから、そこまで片付けるものはないけれど、この後のことを考えておけば完璧に近い状態に仕上げておくべきだと思ったから。
教科書を棚に戻したり、少しだけ散らかっていたCDを纏めて―
「ん」
パサリ・・・と落ちた紙が一枚。色画用紙が半分に折りたたまれたこの紙を持ち上げ、広げてみると―
「・・・ああ。懐かしいな。まだ、あったんだ」
それは、今よりも汚く、でも丁寧に書かれた文字。作文原稿いっぱいに書かれた、文章。一行目には、「将来の夢」と書かれていた。少し、バランスが崩れているが。
「そういえば、日和と会ったのもこれの夢を見たからか―」

「しょうらいのゆめ、せがわなおと」
「ぼくのしょうらいのゆめは、ヒーローになることです!なぜかと言えば、ひとびとをすくっていくあのすがたが、とてもかっこいいと思ったからです!」
«―そんなのは嘘だ»
「ぼくのお父さんは、いろんな人をえがおにするヒーローです。だから、ぼくも同じようにヒーローになりたいと思いました!」
«―大丈夫だよ、直人。きっと―»
「そのためにも、がんばってべんきょうをしたいと思います!大人になるためにも、今よりもがんばってみたいです!」
«―ねえ、どうして!?目を開けてよ!―》


「くはっ、はあ、はあ、はあ・・・ああ・・・夢か」

また嫌な夢を見たな、と冷や汗を拭く。今でも思い出す、嫌な記憶。それに―

「親父―」

あの後に、約束をした。でも、思い出すことが出来ない―。その事実が、今でも俺を苦しめる。

「・・・バイト」

度の合わないメガネをかけて、ボサボサの髪を直し―これも切らないとな。
適当な服を着て、いつものかばんを背負い外へと出る。
これが俺の―瀬川直人の日常だった。

「ああ、お腹すいた・・・」

春休み最終日。俺は短期バイトで春休みの期間をぶっ続けで働き通した。やることも無かったし、いっそのこと何かの事故が―とか思ったりしていたから。
ただ待ち望んでいたことは何も起こらず、無作為に時間だけが過ぎていった。得れたのは少し多めのお金。割と食べる俺はお金が結構必要だった。

「とはいえ・・・少し、働きすぎたかな」

時刻は夕方。昼休憩も取らずに働き通したのが今になって疲労として来ている。それに、お昼ごはんを抜いたのもデカい。

「帰ったら、何を食べようか―」

そんなことを考えていた時。突如、目の前に刃物が突きつけられた。

「金出しなあ!」

人通りが少ないとはいえ、まだ明るい時間。それなのに―なんと、不運なのか。
どこかで既視感があるような光景。でも、思い出すことも出来ない。それにもう、死ぬのだからどうでもいいか―そんなことを考えていた時。

「・・・まっすぐ行ってぇ・・・ストレートォォォォ!!」

横から凄い勢いで走り抜ける人影。突風のように、駆け抜けていった。
あまりの衝撃に見ていることしか出来なかったけれど、その右腕は犯人の右頬を捉え、そのまま吹き飛ばしていった。

「ねえ、君大丈夫!?」
「・・・あ、ああ。えっと」
「・・・うーん、どこかで・・・あっ!君、瀬川くんじゃない?同じ学年の!私、名前を覚えるのは得意なんだ!」
「・・・ごめん、俺がわからない」
「あーー!ごめんね!自己紹介を忘れてたよ!」

「私は蘇我日和!よろしくね!」
「・・・蘇我、日和―。あっああ、俺は瀬川直人。よろしく」
「うん!」

瞬間、お腹が鳴る。それは俺からで―

「・・・流石に、限界・・・」

へたり、と座り込んでしまった。

「大丈夫?ご飯は?」
「・・・食べてない」
「駄目だよ!・・・はい!」

差し出される弁当箱。なぜ?という顔を、俺はしていた。

「今日の占いで、お弁当を持ってれば人を救えるかも!?って書いてあったんだ!」

輝くような笑顔に、俺は見とれていた。そうして差し出された弁当からの香りに、抗うことは出来ず―

「はふっはっ・・・う、うま・・・っ」
「もー。そんな焦らなくても誰も食べないよ」
「それと、これとは、別!」

うまかった。とても。少しだけ味が濃かった気がするが、それよりも―暖かさが、あった。久しぶりだった。誰かの手料理を食べたのは。こんなにも、美味しいものだったとは思わなかったんだ―。

「・・・ありがとう。うまかった・・・。あ、これは洗って返す」
「いいよいいよ!それじゃあね!」

弁当箱をひったくるように回収した日和は、そのままかけていく。まるで本当の―

「ヒーロー、みたいだ」

―それが、日和との出会いだった。

そうして俺はこの日、あの夢の続きを見た。それも、もう少し詳しく―。

僕は、瀬川直人。ヒーローを夢見る、小学生だ。父親が警察官をしていて、正義のために人々を笑顔にするというヒーロー。だから、僕の夢はヒーローになること。お父さんのように、笑顔にするんだって決めていた。
今日は授業参観で、両親が見に来てくれている。だからこそこの作文が読めてとても嬉しかった。頑張ろうって思えた。
なのに―

「偉かったぞ、直人!」

父親に褒められながら、母親に頭を撫でられる。今は授業参観の帰り道だった。両親と手を繋いだ・・・最後の日だ。

「今日は直人の好きなものを作りましょうか!直人、何がいい?」
「うーん・・・卵焼き!」
「いいわよ〜!本当、直人は卵焼きが好きね」
「うん!美味しいんだもん!」
「うふふ」
母は満足そうに笑っていた。とても嬉しそうな―笑顔だった。
「直人」
「なーに、お父さん」
「直人にとってお父さんはヒーローかもしれないけれど、一番のヒーローじゃなくて、二番目のヒーローにしておいてほしいな」
「どうして?」
「そうだなあ・・・お父さんにとっての一番のヒーローはお母さんだから、かな」
「うーん・・・よくわかんない!」
「ああ、それでいい。お前は真っ直ぐな子だ。それにもう一つだけ覚えておいてほしい」
「んー?」
「ヒーローも、人だ。弱音を吐くし―傷つくこともある。もしもそんな事のないヒーローがいたら、それは人じゃない。自分の理想と現実に板挟みされて、傷つくことが多いのがヒーローだ。もしも直人、ヒーローになったのなら・・・その弱みを、打ち明けられる人を見つけなさい。そしてその人を、大事にしなさい」
「わかった!」
「偉いぞ」
グリグリと、力強い手のひらで頭を撫でられる。その瞬間だった。

「ぁあぁあぁぁあああー!!!!!」

曲がり角から突然、飛び出す人物。手にはキラリと光る刃物。そしてそのまま―

「直人!」

「・・・あれ、おも、い」
次の瞬間には、なぜか少し温かいものに包まれ、見えなくなった視界。実はこのとき衝撃により失神をしていたのだが、気づくことはなかった。

「・・・ぁぁ、なおと・・・無事か」
「う、うん」
「良かった・・・」
「おとう、さん?」
「―大丈夫だよ、直人。きっと―」
「ねえ、お父さん!お父さん!」

父親に包まれているのだと気づくまでに時間はかからなかった。頑張って這い出た時に、すべてを知る。

「・・・え」

もう動くことのない両親。血濡れた地面。そして、自殺した犯人。
何もなかった。何も。もう、何も。

「ああ・・・ああ・・・!ねえ、どうして!?目を開けてよ!!お父さん!お母さん!ねえ!」

どんなに叫んでも、どんなに待ち望んでも―ヒーローは、現れなかった。
これが、僕が―喪失を得て、俺になった理由―

なあ親父。きっと、なんだったんだ―?


そうして、翌日。俺は新しいクラスへと足を向け、教室へと入った。そこには”蘇我日和”という名前もあって―なにか、少しだけ。変わる気がしていた―。

「ね、瀬川くん!」
「・・・なに?」
「瀬川くんも、このヒーロー好きなの!?」

昼休み。日和が見ていたのは、バッグにつけていた忘れ形見のヒーローのグッズ。それももう昔のもので、あまり知られていないようなマイナーのものだった。でも日和はそれを見た瞬間、一発で見抜いてきた。

「ああ・・・。まあ、もう思い出せないんだが」
「そっかー・・・残念!あ、ご飯は食べた?」
「流石にちゃんと食べた。昨日はありがとうな」
「どういたしまして!」

それだけ言って、彼女は誰かに呼ばれた。ああ―と少しだけ思ったりしたが、特に話しかけることもなく、見送った。
俺にとって日和は、「ヒーロー」だった。憧れの存在で、手の届かない存在。それは次の日も体感することになる。

翌日、通学路を通っているとどこか見覚えのある赤髪が居た。その赤髪は、顔を泥だらけにしながらも猫を抱きかかえていて―

「・・・蘇我?」
「あ、瀬川くん!奇遇だね!」
「ああ・・・。それは?」
「あ、この子?さっきまで木の上から降りれなくなってたみたいでね―」

・・・それを、助けたというのか。そんな泥だらけになってまで。・・・やっぱり、ヒーローってのは強いんだな。

「瀬川くん?」
「・・・ああ、すまん。少し考え事をしてた」
「いいよー!・・・ってあ。」

にゃん、と鳴いたと思えば日和の腕の中から逃げ出してどこかへと走り去った猫。それを俺らはただ見送ることしか出来なかった。

「行っちゃったねー」
「ああ。・・・凄いね、蘇我は」
「なんで?」
「どんな子にも手助けする―そう見えるから」
「そう?それは少し買いかぶりだよ!でも、この世にある理不尽を見過ごせないだけ!」
「それが、凄いっていうんだ」
「ありがと!それじゃあね!」

―この日。俺は考えを改めることになる。”ヒーロー”という、存在を―。

それは、コンビニの帰り。通りすがった公園で、少しだけ泣き声がした。抑えられているもので、あまり聞こえはしないが―なぜかそれを、俺は耳にした。
静かに入り口から覗けば、そこには先程も見た赤髪。あれは―

「蘇我・・・?」

日和だった。でも、日和はベンチにうずくまるようにして、泣いていた―。
何を言っているかは、わからなかった。でも、その光景は俺の幻想を壊すものだった。

”ヒーローは傷つかない”

なんて、俺の幻想だったんだ―

その瞬間、フラッシュバックする。

<ヒーローも、人だ。弱音を吐くし―傷つくこともある。もしもそんな事のないヒーローがいたら、それは人じゃない。自分の理想と現実に板挟みされて、傷つくことが多いのがヒーローだ。もしも直人、ヒーローになったのなら・・・その弱みを、打ち明けられる人を見つけなさい。そしてその人を、大事にしなさい>

<―大丈夫だよ、直人。きっと―>

「きっと・・・その人を見つける日が、来る―」

・・・ああ。そうか。最初から―わかってたんだ。ヒーローという存在も、人だということに。俺は、それを知っていながら、目を背けてきた。
親父が傷だらけで帰ってきた日もあった。帰れない日もあった。でも、どんなに傷ついても、悲しんでも―笑顔だった。泣いた姿は見たことがない。でも、きっとどこかで隠れて―泣いていたんだ。
ヒーローは、人だ。でも―それを支えれるのも、ヒーローだ。
だから親父は、一番を見つけろと言った。俺が支えたいと思う、ヒーローを見つけろと。・・・親父。

俺は、静かに―それでも、強く一歩を踏み出した。そうしてコンビニの袋から缶コーヒーを取り出して、ベンチに置いた。
その時、少し日和の顔が上がる。それを横目に、缶コーヒーを開けた。

「気にしないでくれ。これはまあ、俺なりのよく頑張ったで賞・・・ってやつだ」
「・・・」

静かに、でもそれを受け取った日和は口に含む。そうして―

「苦いね」

そう、言った―。

そこから俺は、日和と積極的に関わっていくことになる。色んな顔を見た。いろんな手助けを見た。そこに、蘇我日和という人は、ヒーローは、存在していた。
だから俺はそのヒーローが揺るがないように支える。

もう、失いたくない。君だけのヒーローでいられたら、それでいい―そう、誓って。

しばらくして俺らはステラナイツに選ばれた。俺はシースだった。だからこそ、思う。

「俺が、守りきるんだ―この生命を燃やしてでも!」

これが、俺が全身を守り切るようなスーツになれた理由だったのだと思う。俺なりの、努力。守りきれてよかった―

<ぴんぽーん>

「っ・・・あ、もう1時間も経ってた!?やべ」
「直人ー!早く開けてー!」
「はいはい今行く!」

―今日は、宿題を見せてほしいと言ってた日和との約束を果たす日。勉強が終わったら、喫茶店に向かう予定だ。
ドアを開けて、日和を迎え入れる。適当にくつろいでおいて、と伝え俺は台所に飲み物を取りに行った。

「わ、凄い!小学生の頃の作文まだ持ってたんだね!」

後ろから聞こえる声に、やべ、そのままだったと思ってしまう。中身を見た日和は、どう反応するのか―

「え、直人もヒーローになりたかったの!?そんなこと聞いたことなかったよー」
「ああ・・・まあ。親父が警察官だったんだ。ヒーローに憧れたのは、それが理由」
「凄い!そうだったんだ!・・・ん?」
「どうした?・・・あ?」

裏表紙の右下に、小さく書かれた文字。そこには―

<一番は、見つかったか?>

「・・・。親父―」
「どうしたの?」
「・・・いや、なんでも無い。さ、宿題をしようか」
「・・・?まあいいや。さっさとおわらせよー!」

笑顔の日和を横目に、俺は見えないように涙を流す。そして―

「親父。ちゃんと見つかったぞ―」

静かにつぶやきながら。

これは、俺が―瀬川直人が、一番のヒーローを見つけるまでの物語。そうして俺は知っている。
ヒーロー<日和>は、人だ。傷つくし―泣くこともある。でも、それを笑顔にさせれるのは、俺だ。
さあ、始めよう。笑顔にさせるための物語を。そして、笑顔にしてくれる物語を。でもまずは―

「日和、その答え違うぞ・・・。どうして写すだけなのに間違えるんだ?」
「え、嘘!?」

この、宿題を終わらせるところからだ―


//あとがき。
お疲れさまでした。直人くんが心を閉ざした理由、そうして日和と出会って変わっていった直人くん―そんな物が描ければ、いいなと思いこのSSを書きました。
あいも変わらず、SSの分量じゃねえ!っていう話題は置いておきましょう。それほどに俺にとって、アイリスも直人も好きなので。

これにて、らびの初めてのステラナイツは終わり。次は観戦したいなー!あと、他のSSが出るなら、とても楽しみにしています・・・・・・!