知るメモ|【エアコン】|値上がりでまた中国製品に市場を奪われる?~新環境基準を満たしても10万円以下、なぜ日本製は高いのか!
最近は毎年夏の暑さが厳しいです。
乳幼児など小さなお子さんがいるご家庭では、熱中症対策のためにエアコンを24時間フル稼働させているケースも多いのではないでしょうか。
そんな私たちの命綱とも言えるエアコン市場に、今、大きな変化が起きています。
それは「エアコンの2027年問題」と呼ばれるものです。
経済産業省による省エネ基準が2027年から大きく引き上げられ、エアコンメーカーは出荷する製品全体で新基準を満たすことが求められるため、省エネ性能の低い普及モデルは縮小・生産終了が進む可能性があります。
「そろそろ買い替えようかな」と思っている方は、来年には「10万円以下で買えるシンプルな日本製エアコン」が店頭から姿を消している可能性が高い事実を知っておく必要があります。
そして、空いた低価格帯のシェアを飲み込もうとしているのが、技術力を底上げした中国メーカーです。
なぜ日本の新環境基準を満たしながら、中国製は安く提供できるのか。
そして、なぜ日本製はこれほどまでに高くなってしまうのか。今回はエアコン市場の構造から、日本のモノづくりの現状を紐解いていきます。
「トップランナー制度」とは?エアコン2027年問題のトリガー
今回の価格高騰の背景にあるのが、経済産業省が主導する「トップランナー制度」です。
これはエネルギー合理化法(省エネ法)に基づく規制で、「現在商品化されている中で最も省エネ性能が優れている機器(トップランナー)の性能をベースに、さらに技術進歩を見込んだ将来の目標基準を設定する」という仕組みです。
乗用自動車、エアコン、照明器具、テレビ、パソコンなど31項目が対象となっています。
2027年4月からは、この基準そのものが大きく引き上げられます。
省エネ性能を示す指標である「APF(通年エネルギー消費効率)」で見ると、6畳用(2.2kW機)は現行の2010年度基準のAPF5.8から、2027年度基準ではAPF6.6へと引き上げられる。
資源エネルギー庁の試算によれば、この性能向上により6畳用エアコンで年間約2,760円、14畳向け(4.0kW機)で年間約12,600円の光熱費削減効果が見込まれています。
エアコンの平均使用年数は約14年とされているため、使用期間トータルでは6畳用で約4万円、14畳向けで約18万円もの電気代削減につながる計算です。
なぜ「安いエアコン」が作れなくなるのか?
問題は「今使っているエアコンが使えなくなる」というわけではなく、これから販売される低価格帯モデルの多くが、この新基準を満たせないという点です。
業界関係者の試算では、2025年に販売されたエアコンのグレード別構成のうち、新基準を達成できないモデルは約8割にのぼるとされています。
人気が集中してきた「最安〜スタンダードクラス」がまるごと対象になるわけですから、影響は決して小さくありません。
そしてこの「トップランナー制度」最大の特徴は、個々の製品すべてに基準クリアを求めるのではなく、「メーカーが1年間に出荷した製品全体の加重平均」で目標達成を義務付けている点にあります。
ここに、日本の低価格エアコンが消滅するカラクリがあります。
【メーカー全体の出荷イメージ(加重平均)】
[高価格・超省エネ機] ―――> 平均値を「引き上げる」原動力
(利益は高いが売れ筋ではない)
▲
|(相殺)
▼
[低価格・普及機] ―――> 平均値を「引き下げる」ペナルティ要因
(利益が低く、新基準に届かない)すべての機種が基準をクリアしなくても販売自体は可能です。
ですが、メーカーが「新基準に届かないけれど、安くてシンプルなエアコン(普及機)」を1台売ると、その分だけメーカー全体の平均値が下がってしまいます。
ペナルティを回避するためには、基準を大幅にクリアした「高価格・超省エネ機」をそれ以上にたくさん売って相殺しなければなりません。
しかし、20万円以上するような高級機がそう簡単に何台も売れるわけではありません。
目標年度に達成できなかった場合、経済産業大臣が以下の措置を行うことができます。
改善勧告
まずメーカーへ改善を求めます。
改善命令
勧告に従わない場合は、法的な命令が出されることがあります。
企業名の公表
命令にも従わない場合、企業名が公表されます。
企業イメージへの影響が大きいため、メーカーにとっては強いプレッシャーになります。
罰金
改善命令に違反した場合は、罰則(罰金)が科される可能性があります。
結果として、メーカーは「最初からペナルティの要因になるような安いエアコンの生産を絞るか、撤退する」という選択を迫られることになる。
これが、2027年に向けて10万円以下の日本製エアコンが激減すると言われている理由です。
トップランナー制度の対象は国内メーカーだけではなく、海外メーカーも同じルールで評価されます。
しかし、国内メーカーが普及価格帯から撤退していく隙を狙っているのが、欧州市場でも実績を積むハイセンスやハイアールなどの中国メーカーです。
同じ2027年度省エネ基準対応機種でも、日本メーカー製に比べ中国メーカーは2~4万円ほど安い傾向があります。
なぜ日本製は「新基準を満たすと」高くなるのか
ここで疑問が湧きます。
同じ省エネ基準をクリアする製品なのに、なぜ日本メーカー製は高く、中国メーカー製は安いのか。これにはいくつかの構造的な理由が重なっています。
第一に、機能の「盛り込みすぎ」問題
日本の家庭用エアコンは、単なる冷暖房機器ではなく、自動お掃除機能、内部クリーン、空気清浄、AI人感センサー、スマートフォン連携など、多機能化が進んできました。
新基準をクリアするためには、高効率コンプレッサーの採用や冷媒の改良、AI制御などの新技術が必要になり、それに伴って開発費・部材コストが上昇し販売価格も上昇します。
価格が上がるのに冷暖房機能しかなければ購入者側ではその価値を感じられず売れないので、これまで積み上げてきた付加機能を維持することになりますが、当然フィルター自動お掃除機能や複雑な気流制御などは部品点数を増やし、本体価格と修理代をさらに跳ね上げる要因になっています。
スマートフォン市場で起きた「日本メーカーが高級路線に絞り、普及価格帯を海外勢に奪われる」という歴史が、エアコンでも繰り返される可能性があります。
第二に、素材価格と製造・輸送コスト
銅やアルミといった熱交換器に使う素材の国際価格、半導体の供給不安、円安による輸入コストの上昇、人件費や物流費の高騰が同時多発的に押し寄せています。
業務用エアコンの分野では、これらの要因がすでに「待てば安くなる商品ではない」フェーズに入ったと指摘されています。
第三に、開発・生産の規模の違い
中国のエアコン市場は世界最大級で、格力電器(グリー)だけで年間6,500万台以上を160カ国以上に輸出しているとされます。
美的集団やハイアール(海爾)、ハイセンス(海信)を含めた「ビッグ5」は、圧倒的な国内生産量を背景に部材調達コストを抑え、インバーター技術やスマート冷却システムの分野でも先行投資を進めてきました。
世界の家庭用エアコン販売台数において、中国企業のシェアは50%を超えるとの分析もあります。
スケールメリットの差は、そのまま価格差に直結します。
他に、日本の設置工事費は海外(欧州は500〜1,000ユーロ:約8万〜16万円)などに比べると比較的安い場合が多いので、本体価格の差が取り付けまでの総額の上昇に占める割合が多いです。
ネット販売価格から見る市場の現在地
日本のエアコンがいかに手頃に提供されてきたかを知るため、現在のネット販売価格を載せておきます。
現在(2026年7月)、日本のネットショップで6畳用(2.2kW)の標準的なエアコンを探すと、以下のようにまだ5万円〜8万円台で国内ブランドの製品が手に入ります。
東芝 エアコン 6畳 2.2kW 100V ホワイト RAS-2215TM-W:¥51,800
東芝 エアコン 6畳 2.2kW 100V ホワイト RAS-2215TM-Wは、5万円台前半で購入できる省スペースなベーシックモデルです。
東芝 エアコン 6畳 東芝 RAS-2215TL ホワイト :¥51,800
Toshiba エアコン 6畳 東芝 RAS-2215TL ホワイト TLシリーズは、内部乾燥機能を備え5万円台前半の高いコストパフォーマンスを誇ります。
アイリスオーヤマ エアコン 6畳 2.2kW 6畳用 IPF-2202S-W:¥47,273
IRIS Ohyama エアコン 6畳 2.2kWは4万円台で、寝室や子供部屋への導入に最適化されたモデルです。
パナソニック エオリア CS-226DJR-W:¥87,780
パナソニック エアコン 6畳 ナノイーX搭載は最新の2026年モデルですが、それでも8万円台で提供されています。
中国メーカーは実際どこまで迫っているのか
実際に新基準をクリアした中国系ブランドの製品も存在します。
ハイアールが2026年6月に投入した「huu CSEシリーズ」は、メーカー自らが「2027年度を目標年度とする新しい省エネ基準をクリアした次世代省エネモデル」と明言している製品です。
6畳用モデル(JAA-CSE226A)は、本体の実勢最安値が約9万円、標準取付工事費込みでも10万円前後で購入できます。
インターネット上では、「このままだと国産エアコンが20万円、中国製エアコンが7万6000円になって自爆する」といった投稿も話題になりましたが、これは決して誇張ではありませんでした。
実際、TCLジャパンエレクトロニクスが2026年1月30日に発売した「AI節電エアコン」シリーズの6畳用モデル「TAC-P2225I-W」は、APF6.6、2027年度省エネ基準達成率100%を、検査機関である一般財団法人日本空調冷凍研究所の検査のもとで実現しています。
市場価格は¥78,780円前後。
東京都で申請できる「東京ゼロエミポイント」の条件に合えば、本体をほぼ「0円」で手に入れることも出来ます。
数字はさておき、「新基準を満たしながら安い中国製」という構図そのものは、あながち的外れではありません。
実際、中国のTier1メーカー(グリー、美的、ハイアール、ハイセンス)は、日本や韓国の競合に匹敵する品質・信頼性を、大幅に低い価格で実現しています。
美的集団はかつて東芝の白物家電事業を買収し、ハイアールも三洋電機の白物家電事業を買収してAQUAブランドを展開するなど、日本の技術・ブランドを取り込みながら足場を築いてきた経緯もあります。
単なる「安かろう」ではなく、日本企業のノウハウを吸収した上での価格競争力である点は見逃せません。
ただし、中国メーカー側にも死角がないわけではないです。
美的集団や格力電器の2026年第1四半期決算を見ると、中国国内の家電市場全体が縮小傾向にある中で、両社とも増収増益ペースは大きく鈍化しており、格力電器に至っては営業キャッシュフローが3割近く落ち込んでいます。
中国家電業界全体が「冬の時代」に直面しているとの指摘もあり、各社は海外展開の加速や自社株買いによる株主還元で市場の信頼をつなぎとめようとしている段階です。
つまり、日本市場への攻勢は、中国企業にとっても「国内が厳しいからこそ海外で稼ぐ」という切実な戦略の一環でもあるのです。
ヨーロッパでは構図がまったく違う
一方、ヨーロッパのエアコン市場を見ると、日本や中国とは異なる力学が働いています。
国際エネルギー機関(IEA)のデータでは、日本やアメリカの家庭用エアコン普及率が約90%に達するのに対し、ヨーロッパ全体では20%程度にとどまります。ドイツでは3%、イギリスでも5%という報告もあるほどです。
理由は複合的です。
ヨーロッパの住宅は冷房という発想が存在しなかった時代に建てられたものが多く、古い街並みでは景観保護の観点から室外機の設置自体が制限される地域もあります。
また、パリでは住民の多くが賃貸暮らしで、エアコンを設置するには大家や管理組合、自治体の許可まで必要になるケースもあり、日本のように「賃貸物件に最初からエアコンが付いている」こと自体が特殊な前提だったと指摘されています。
さらに、エネルギーコストの高さや、冷房に対する文化的な忌避感も影響してきました。
ところが近年、記録的な熱波が相次ぎ、世界保健機関(WHO)は熱波による健康被害を重大な公衆衛生上の課題として警鐘を鳴らしており、近年は欧州全体で多数の超過死亡(過去のデータに基づき予測される死亡数を超える死亡)が報告されています。
上で書いた「構図がまったく違う」というのは、脱ガス・脱炭素の流れの中で急速に普及している「ヒートポンプ」という機器です。
ガスボイラーを空気熱ヒートポンプに置き換えると、冬の暖房だけでなく夏の冷房機能も自動的についてくる。
空気熱ヒートポンプとは、大気中にある「熱」を電力で汲み上げ、移動させる技術で、冷房時は部屋の熱を屋外へ捨てることで空間を冷やします。
熱を「移動させる」だけなので、少ない電力で非常に高いエネルギー効率を発揮します。
エアコンを設置するという抵抗感を回避しながら、実質的に冷房を導入できるというわけです。
このヒートポンプ市場で存在感を放っているのが、実はダイキン・三菱電機・パナソニックといった日本メーカーです。
ダイキンはヨーロッパのHVAC(暖房・換気・空調)市場でトップクラスのシェアを握る企業とされ、3社で世界でも有数のヒートポンプメーカーとして高い存在感を維持しています
各社はポーランド、チェコ、トルコといった欧州域内に生産拠点を急拡大しており、「冷房を得意としてきた日本勢が、ヨーロッパでは脱ガスの暖房屋として攻勢をかけている」という、日本国内とはまるで逆の構図が生まれています。
EUの環境規制が、意図せず日本企業のビジネスチャンスを生み出しているとも言えるでしょう。
つまり、「日本製は高い」という評価は、あくまで日本国内の家庭用エアコン市場という土俵に限った話であり、ヨーロッパの業務用・住宅設備向けヒートポンプ市場では、日本メーカーはむしろ中国勢に先行して高いシェアを維持しているのです。
EUではFガス規制の改正により、高GWP冷媒の段階的な削減が進められており、機器の種類ごとに使用可能な冷媒が順次厳しく制限されています。
こうした複雑な規制対応力こそ、長年の技術蓄積を持つ日本メーカーの強みが発揮されやすい領域だと言えます。
◆まとめ
エアコンという身近な家電をめぐる攻防は、省エネ政策、国際的な産業競争、そして気候変動という大きなテーマが交差する、思いのほか奥行きのあるテーマだと言えるでしょう。
中国メーカーの台頭は脅威である一方、消費者にとっては選択肢の広がりでもあります。
一方でヨーロッパの事例が示すように、日本の技術力が国内市場とはまったく異なる形で世界的な評価を得ている領域もあります。
「エアコン」というひとつの製品を切り口にするだけで、これほど多層的なグローバル経済の動きが見えてくるのは、なかなか興味深いことではないでしょうか!
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次回は「麻雀」について少し書いていますので、お時間あれば読んでみてください。
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前回の記事も時間がありましたら読んでみてください。
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