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🌅短編小説『カルマの扉』─ 繰り返す朝の終わりに


目が覚める。

ーーあれ? 
頬が濡れている。私は泣いていた。

小さい頃。

転んで泣いていた私に、俊兄はそっと絆創膏を貼ってくれた。

「風香は泣き虫だな」

笑いながら頭を撫でてくれた大きな手。

あの日からずっと、私の世界の中心には俊兄がいた。

「風香ー!、朝よー!」

階下から母の声が響く。

ノロノロと身体を起こし、制服に袖を通す。

窓から差し込む朝日が、妙に眩しかった。

◆ ◆ ◆

通学路。

「風香、おはよう」

隣に住む俊兄の声に、胸が跳ね上がる。

「……おはよう」

前髪をいじりながら、俯いて答える。

ほんの数秒のやり取りが、私にとっては宝物みたいな時間だった。

「俊ー! おはよう!」

弾む声とともに清美が駆け寄る。

清美は昔からそうだった。

誰とでも仲良くなれて、教室の中心で笑っていて、私が欲しくても手に入らなかったものを、いつも自然に持っていた。

俊兄の視線は自然と彼女へ向かう。

私はその外側に、静かに取り残された。

(どうして……隣にふさわしいのは、私なのに)

清美は平凡な顔立ちで、取り柄といえば明るい笑い声くらい。

私は美人だと言われてきた。

すらりと伸びた足、白い肌、はっきりとした大きな目元。

スタイルだって自信がある。

なのにーー
どうして、私のほうを見てくれないの。

◆ ◆ ◆

下校時。

清美が顔を青ざめさせ、
階段に差しかかった。

見るからに具合が悪そうだ。

「清美、大丈夫?」

声をかけながら近づく。

今朝の俊兄との様子が脳裏をかすめる。

気づけば私は、両手を伸ばしていた。

ーー鈍い音が、階段下に響く。

「大丈夫か⁉︎」

俊兄の叫び。

その隣で、苦しげな声を漏らす清美。

……しかし、階段の下に倒れていたのは、自分自身だった。

痛みにうずくまりながら、涙があふれる。

目を閉じる。

ーーそして、また目が覚めた。

◆ ◆ ◆

「あれ……? 泣いてる」

母の声。

朝の光。

俊兄の「おはよう」。

すべてが同じ。

(同じことを……繰り返してる?)

下校時。

また清美が体調を崩す。

階段の前。

両手を伸ばす私。

……そして再び、目が覚める。

同じ朝。

頬を濡らす涙。

何度も、何度も繰り返した。

清美への嫉妬。

俊兄への想い。

報われない虚しさ。

そのたびに私は転び、泣き、朝に戻される。

ーー抜け出せない。

これは私に課せられた罰?

それとも、何かを気づかせるための試練なの?

◆ ◆ ◆

ある朝。

いつもの涙と母の声。

けれどその瞬間、窓から差し込む朝日が、今日だけは違って見えた。

遮るもののない透明な光。

まるで長い迷路の果てに現れた、カルマの扉のように。

「こっちだよ」

誰かが囁いた気がした。

私は俊兄の家へ走ろうとした。

けれど、ふと足が止まる。

胸の奥から、静かで、とても穏やかな声が響いた。

(もう……いいよ)

俊兄の笑顔。

清美の笑い声。

そのすべてを、そっと手放す。

その瞬間。

頬を濡らしていた涙が、温かな風に溶けて消えていった。

眩しい光が私を包み込む。

頑なだった心が、ゆっくりとほどけていく。

痛みも。

嫉妬も。

孤独も。

すべてが心地よく遠ざかっていく。

「みんな……ありがとう」

最後の言葉を胸の中で呟く。

そして私は、その光の向こうへと、初めて自分の意思で歩き出した。

◆ ◆ ◆

朝日は静かに差し込み、

ただ鳥の声だけが、世界を満たしていた。



🌙 あとがき

誰かを激しく想うことも、狂おしいほどの嫉妬も、それは確かに私たちが“生きている証”なのかもしれません。

その痛みさえも愛おしく抱きしめたとき、心は本当の自由に出会う。

この小さな物語が、あなた様の心にそっと寄り添う、温かな光となりますように。

ーー月灯りの綴り屋


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この場所が、あなた様の心に小さな灯りをともせますように🕊️✨  

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